2012 Fiscal Year Research-status Report
ソーシャル・キャピタルが高齢者の健康に及ぼす影響に関する包括的実証研究
Project/Area Number |
24500835
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福川 康之 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (90393165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下方 浩史 独立行政法人国立長寿医療研究センター, その他部局等, その他 (10226269)
小田 亮 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50303920)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 心身の健康 / ソーシャル・キャピタル / 高齢者 |
Research Abstract |
1.全国の中高年男女を対象とした大規模調査のデータを解析し,ソーシャル・キャピタルとしての互助的規範と個人の健康との関連について検討した.マルチレベル分析の結果,男性,低年齢,非婚,低学歴,および,互助的規範意識を有していない場合に,それぞれ主観的健康感が低いことが明らかとなった.地域レベルの互助的規範の直接効果は有意でなかったが,個人の互助的規範意識との有意な交互作用が認められた.すなわち,互助的規範が低い地域では,互助的規範意識が高い住民ほど主観的健康感が低く,反対に,互助的規範が高い地域では,互助的規範意識が低いほど主観的健康感が低いこ とが明らかとなった. 2.愛知県岡崎市松本町において,ソーシャル・キャピタルと幸福感との関係について社会調査を行った.20歳代から90歳代までの58件のデータを回収し分析した結果,70歳代以上は50〜60歳代よりも相対的に幸福感が弱いこと,社会的なつながりと幸福感とのあいだに有意な相関があることなどが明らかになった. 3.愛知県大府市ならびに東浦町の大規模縦断調査データを用いて,日常生活活動能力(ADL)が主観的幸福感(生活満足度や抑うつ)に及ぼす影響を検討した.この結果,男女ともADLが高い場合に主観的幸福感が高いことが示唆された.また,女性ではADL低群と比較して高群の主観的健康が生活満足度に強く作用していた.他方男性では,ADL高群と比較して低群の主観的健康が抑うつに強く作用していた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3名の研究組織からなる課題であるが,各々が研究実績に記載したような成果を上げている点で,「おおむね順調に進展している」と判断した.各研究者は,これ以外にも,学生データを用いた以下の研究を行い,成果をあげている. 1.大学生の少人数クラスを半年間追跡し,ソーシャル・キャピタルの構成要素のひとつであるネットワーク構造の変化や学生の適応との関連を検討した.その結果,ベースラインと比べて半年後のクラスネットワークの凝集性が高くなることが明らかとなった.情報中心性は他の中心性指標と比べてクラスのネットワークをよく記述することが明らかとなった.また,情報中心性が高い学生ほどクラスに適応していることも確認された. 2.他者からの目が利他性に及ぼす影響を評価するための実験により,目の刺激はソーシャル・キャピタルの構成要素のひとつである規範意識を高めるのではなく,内集団ひいきを強める方向に作用することが明らかになった. これらは,2013年度以降に予定されている研究を進めるうえで参考となる知見である. さらに,本年度は,中高年者の長期の追跡調査のデータを分析し,抑うつが知能を低下させる効果よりも,知能が抑うつを増大させる効果強いことを明らかにした.この知見は,ソーシャル・キャピタルと知的能力の関連を検討することが,高齢者の健康の維持増進に有用である可能性を示しており,今後の研究の指針になる成果といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度の研究実績ならびに達成度に鑑みて,2013年度は,以下の研究を進める予定である. 1.全国の中高年者の大規模調査データを解析し,ソーシャル・キャピタルと主観的健康感との関連を検討する.特に,分析方法として,個人要因をレベル1,調査時期要因をレベル2とするマルチレベル分析を適用することとし,両者の健康への影響を分離して推定することで精度の高い知見を得ることを目指す. 2.目の刺激が利他性に与える影響についての実験をさらに進め,実験参加者の結果についての満足度やメンタルヘルスが利他行動に与える影響などについて検討する.Web実験なども用いて,参加者の年齢層を広げることも計画している.また,松本町における社会調査を継続し,これまでの調査項目に加えて利他行動やメンタルヘルスについてのデータも得たいと考えている.さらに,岡崎市の他の地域でも同様の調査を実施し,結果を比較する予定である. 3.中高年者の大規模縦断調査データを用いて交差時間遅れのパネル分析を行う.すなわち,ソーシャル・キャピタルがその後の健康状態に影響するパスと,健康状態がその後のソーシャル・キャピタルに影響するパスの大きさを比較することで,因果関係の方向を同定する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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