2012 Fiscal Year Research-status Report
高トリグリセリド血症の網羅的成因解析法の開発と応用:非遺伝子変異因子を中心として
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24500883
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
高木 敦子 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (90179416)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | リポ蛋白リパーゼ / 高トリグリセリドTG血症 / 自己免疫疾患 / 全身性エリテマトーデス / 自己抗体 |
Research Abstract |
高トリグリセリド(TG)血症は心疾患の危険因子で、メタボリックシンドロームの評価項目である。血清TG値は、TG分解系と合成系により決定され、前者は主にリポ蛋白リパーゼ (LPL) が関与する。高TG血症の成因となるLPL活性と蛋白値が異常低値でも、LPL遺伝子異常がないケースを経験した。対象者は、10歳女子で、自己免疫疾患の全身性エリテマトーデス(SLE)と診断され、重度の高TG血症であった。本患者において、ウエスタン法で、治療前の血漿中に抗ヒトLPL抗体が検出され、この血漿は、LPL活性を阻害した。SLEの治療により、患者のLPL蛋白量と血漿TG値が正常化したが、治療前と同程度の抗ヒトLPL抗体が検出され、この血漿はLPL活性を阻害しなかった。ウエスタン法による抗原抗体反応では、治療後の正脂血化の理由が説明できないが、LPL活性阻害の有無を測定することにより、病態診断が可能となる。それ故、簡便で多検体処理可能なLPL活性阻害因子解析法の開発を目的とした。 LPL活性阻害因子解析法に活性型LPLを必要とする。LPL活性発現には糖鎖付加が必須なので、大腸菌発現系は使用できない。そこで、ほ乳動物発現系に最も近い糖鎖構造をとり、大量発現が可能なカイコでの発現を試みたが、カイコでの組換LPL 蛋白比活性は非常に低かったので、ほ乳動物細胞を宿主として、大量の組換LPL蛋白を調製することとした。 一般的LPL活性測定は、放射性TGを基質にしているが、放射性同位元素利用は、管理区内でしかできないため、臨床検査の場で実施できる測定系とするために、蛍光基質でのLPL活性測定系の構築を行った。精製LPL及び、ヘパリン静注後血漿(PHP)-LPLについて、酵素量、反応時間依存的蛍光強度が得られた。 本年度の研究により、簡便で多検体測定可能なLPL活性阻害因子解析法が構築できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) SLE患者の血漿中に存在するLPLの TG水解活性阻害因子の同定 LPLに対する自己抗体の可能性を検討するために、抗ヒトIgA, IgG, 及びIgM抗体添加によって、それぞれの型のイムノグロブリンを除去した血漿を用いて、精製LPLの TG水解活性阻害を調べた。いずれの場合も、LPL活性は回復しなかったので、IgA, IgG, 及びIgM型の抗ヒトLPL抗体が原因ではないと考えられた。 (2) LPL活性阻害物質の存在による高TG血症の診断は、従来、一般的に行われているウエスタン法ではなく、LPL活性を阻害する方法で調べる必要性がある。LPL活性阻害物の有無の簡便で多検体測定可能な系の構築を試みた。本試みは、反応系に加える活性のあるLPLの大量発現をカイコで行い、またLPLの基質を放射性同位元素の3H-トリオレインから、蛍光基質に変更することによってなされた。 カイコにおいて組換えヒトLPL蛋白は産生されたが、その比活性はヒトからの精製物に比べ、1/250位であった。蛍光基質によるLPL活性測定系の構築は、PHPからヘパリンセファロースカラムで精製したLPLを使用して、行われた。精製LPL酵素量、反応時間に依存した蛍光強度が得られた。真に、LPLを測定していることは、LPLの活性に必須の因子であるApoC2を存在させない条件下、LPL活性を阻害すると知られている1 M NaCl存在条件下、LPLの活性を阻害するポリローナル抗体存在下で、蛍光強度が検出できなくなったことから、確認された。 LPL活性阻害の有無を調べるための蛍光基質でのLPL活性測定系の構築を達成できた。この系は、反応産物の抽出、分離も不要で簡便な系である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) SLE患者の血漿中に存在するLPLの TG水解活性阻害因子の同定に関して、ヘパリン静注前の患者検体が少量のため、これを用いたTG水解活性阻害因子の同定が困難である。しかし、ヘパリンを静注した血漿の保存があるので、この検体を用いて、本目的のために使用できるかを調べ、LPLの TG水解活性阻害因子同定の研究を続行する。 (2) LPL活性阻害物質の存在による高TG血症の診断のため、簡便で多検体処理可能な、LPL活性阻害の有無を調べるためのLPL活性測定系の構築において、反応液中に加える必要のある活性を保持したLPL蛋白をほ乳動物細胞での組換えヒトLPL蛋白の大量産生により得ることとする。 (3) LPL低値の原因がLPL遺伝子変異以外の原因によるものである可能性を調べる。LPL低値であるがLPL変異が同定できなかったSLE患者以外の高TG血症の対象者において、LPLを合成、機能場への輸送にかかわるLMTやGPIHBP1遺伝子変異の有無を調べる。 (4) LPL低値の原因が非遺伝子因子によるものである可能性を調べる。LPL低値であるがLPL変異が同定できなかったSLE患者以外の高TG血症の対象者において、エピジェネティックな因子の可能性を調べる。 (5) 他施設からの高TG血症患者解析依頼もあり、そのための従来法によるLPL遺伝子解析も行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
LPL活性阻害物質の存在による高TG血症の診断のため、簡便で多検体処理可能な、LPL活性阻害の有無を調べるためのLPL活性測定系の構築において、反応液中に加える必要のある活性を保持したLPL蛋白をカイコで大量に生産する計画をたて、実験を遂行したが、LPLの比活性が非常に低いため、本系において使用できないことがわかった。大量のカイコを処理する必要がなくなったため、次年度に使用予算が発生した。次年度はこの予算もふくめ、ほ乳動物細胞での組換えヒトLPL蛋白の大量産生と精製を行う予定である。 また、当初の予定どおり、非遺伝子因子によるLPL低値の可能性をさぐるために、エピジネティックな解析にも研究費を使用する予定である。 また、他施設からの高TG血症患者解析依頼もあり、そのための従来法によるLPL遺伝子解析も行う。
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