2013 Fiscal Year Research-status Report
高トリグリセリド血症の網羅的成因解析法の開発と応用:非遺伝子変異因子を中心として
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24500883
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
高木 敦子 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (90179416)
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Keywords | 高トリグリセリド血症 / 自己免疫疾患 / 全身性エリテマトーデス / リポ蛋白リパーゼ / 自己抗体 / ヘテロ接合体 |
Research Abstract |
高トリグリセリド(TG)血症は心疾患の危険因子で、メタボリックシンドロームの評価項目である。血清TG値は、TG分解系と合成系により決定され、前者は主にリポ蛋白リパーゼ (LPL) が関与する。高TG血症の成因となるLPL活性と蛋白値が異常低値でも、LPL遺伝子異常がないケースを経験した。対象者は、10歳女子で、自己免疫疾患の全身性エリテマトーデス(SLE)と診断され、重度の高TG血症であった。本患者において、ウエスタン法で、治療前の血漿中に抗ヒトLPL抗体が検出され、この血漿は、LPL活性を阻害した。SLEの治療により、患者のLPL蛋白量と血漿TG値が正常化したが、治療前と同程度の抗ヒトLPL抗体が検出され、この血漿はLPL活性を阻害しなかった。ウエスタン法による抗原抗体反応では、治療後の正脂血化の理由が説明できないが、LPL活性阻害の有無を測定することにより、病態診断が可能となる。それ故、簡便で多検体処理可能なLPL活性阻害因子解析法の開発を目的とした。 LPL活性阻害因子解析法の開発には多量の活性型LPLを必要とする。LPL は活性測定時にApoCIIを必要とするので、これを必要としない他のリパーゼ遺伝子発現をモデル系として、哺乳動物細胞を宿主としての大量の組換蛋白調製の条件検討を行い、発現条件を改良出来た。これにより、簡便で多検体測定可能なLPL活性阻害因子解析法の構築を進めることができた。 一方、LPL遺伝子の解析も続けているが、新規高TG血症患者(1歳女児)において、LPL遺伝子変異ヘテロ接合体が同定された。一般に乳幼児での高TG血症においてはLPL欠損ホモあるいは複合型ヘテロ接合体変異が同定されるが、本患者において、LPLへテロ接合体の状態で、高TG血症を発症した原因は、現在のところ不明であり、たいへん興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) SLE患者の血漿中に存在するLPLの TG水解活性阻害因子の同定に関して、ヘパリン静注前の患者検体が少量のため、これを用いたTG水解活性阻害因子の同定が困難である。しかし、ヘパリンを静注した血漿の保存があるので、この検体を用いて、本目的のために使用できることを確認した。 (2) LPL活性阻害物質の存在による高TG血症の診断は、従来、一般的に行われているウエスタン法ではなく、LPL活性を阻害する方法で調べる必要性がある。本法では、反応系に加える活性のあるLPLの大量発現が必要で、昨年度の結果から、カイコでの発現LPLの比活性は低かったので、やはり哺乳動物細胞で発現させることが必要である。この発現条件を、活性測定にApoCIIが不要な、LPLではないリパーゼをモデルとして、検討し、従来法との比較で、ディッシュあたりでは1.7倍、μg DNAあたりでは、約14倍の発現量を得る事が出来た。 (3) 新規の高TG血症患者解析を行ったところ、解析した患者(1歳女児)において、エキソン5に以前に我々が報告した1塩基欠失変異がヘテロ接合体の状態でみいだされた。LPLへテロ接合体でも、アルコール多飲や高インスリン血症といった負荷因子がないときは正常のTG値(150 mg/dl未満)である。本患者の場合、このような負荷因子はなく、自己免疫疾患もないので、LPLへテロ接合体の状態で、高TG血症を発症した原因は不明である。 (4) 別の新規の高TG血症患者解析を行ったところ、患者(11歳男児)において、LPL活性はヘテロ接合体程度であるが、LPL遺伝子変異は見いだされなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) SLE患者の血漿中に存在するLPLの TG水解活性阻害因子の同定を行う。 (2) LPL活性阻害物質の存在による高TG血症の診断のため、簡便で多検体処理可能な、LPL活性阻害の有無を調べるためのLPL活性測定系の構築において、反応液中に加える必要のある活性を保持したLPL蛋白を、ほ乳動物細胞で、平成25年度に検討した発現条件に従って、大量に得ることとする。 (3) LPL低値の原因がLPL遺伝子変異以外の原因によるものである可能性を調べる。LPL低値であるがLPL変異が同定できなかったSLE患者以外の高TG血症の対象者において、LPLを合成、機能場への輸送にかかわるLMTやGPIHBP1遺伝子変異の有無を調べる。 (4) LPL低値の原因が非遺伝子因子によるものである可能性を調べる。LPL低値であるがLPL変異が同定できなかった高TG血症の対象者において、エピジェネティックな因子の可能性を調べる。 (5) 患者(1歳女児)において、エキソン5に以前に我々が報告した1塩基欠失変異がヘテロ接合体の状態でみいだされた症例において、LPL欠損へテロ接合体に負荷して、高トリグリセリド血症を発症させる因子を調べる。他の高トリグリセリド血症に関わる遺伝子等もあり、ダブルへテロ接合体の可能性も検討する。他施設からの解析依頼があった場合、新規の高TG血症患者解析も続けており、そのための従来法によるLPL活性測定及びLPL遺伝子解析も行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
LPL蛋白をほ乳動物細胞で大量に生産に関する条件検討以降の実験が行えていなかったため、トランスフェクション試薬や蛋白精製のためのカラムなどの購入をしていないため。 また、国際学会での発表を行わなかったため。 決定できた条件でのLPL蛋白のほ乳動物細胞での大量に生産と精製を行い、LPL活性阻害因子解析法の構築を進める。
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