2013 Fiscal Year Research-status Report
学校ボランティアを通した家庭・地域・学校の関係の可視化と再編による家庭生活支援策
Project/Area Number |
24500899
|
Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
時岡 晴美 香川大学, 教育学部, 教授 (10155509)
|
Keywords | 学校支援地域本部 / 家庭生活支援 / 地域ボランティア / 学校・地域間関係 |
Research Abstract |
本研究は学校支援地域本部事業の取り組みを通して、子ども・親・高齢者の新たな関係づくりが家庭生活支援に資する実態を明らかにするもので、昨年度は当該事業の先進事例の取り組み内容と成果に注目して、備前中学校と高陽中学校でアンケート調査を実施し、事業の進展状況とその効果について検討した。先進事例調査では、文部科学省表彰を受けた西日本地区の5事業について訪問調査を行い、取り組み内容とその成果を明らかにした。その結果、各地域・実施校毎に多様で、地域特性や地域教育力の特徴によって効果的な事業や組織が形成されていることが示された。この研究成果をふまえて関係者を対象とするシンポジウムを企画し、平成25年8月23日(金)13~16時「リフレセンターびぜん」(岡山県備前市)において、おもに備前市内の教師ならびに地域ボランティアなど約100名の参加をえて講演とワークショップを実施した。参加者の事後アンケートからは、それぞれの役割やその効果を可視化するのに役立ったこと、それによって充実感が持てたこと、などが読み取れた。 中学校アンケート調査では、備前中学校の全校生徒423名、保護者423名、教職員38名、ボランティア126名、赤坂中学校の全校生徒138名、保護者138名、教職員23名、ボランティア46名を対象とし、学校を通して年度末に自記式で実施した。その結果から、ボランティアと教職員の意識に有意差があることが明らかになった。事業の効果を高めるため、年度当初に教職員とボランティア合同の研修会を実施して両者の顔合わせを行ったが、事業実施に当たって効果は求められたものの、両者の関係再編に至ったとはいえなかった。 この成果は、論文「学校支援地域本部事業の取り組み成果にみる学校・地域間関係の再編(その3)~学校の取り組み認知と地域社会での交流の関連~」香川大学教育実践総合研究(2013.9)に報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、まず学校支援地域本部事業の取り組み内容と、事業実施による影響や効果について明らかにするため、事業開始初年度から活発に取り組んでいる岡山県備前市立備前中学校、同市で新たに取り組んでいる伊里中学校、取り組みに混迷がみられる近隣校である岡山県赤磐市立赤坂中学校における事業の実態を明らかにして比較を行った結果、事業の成果が示されるとともに、事業の持つ新たな可能性が示唆され、生徒・教師・地域ボランティアの三者関係の可視化が重要であることが示された。これをふまえて、昨年度は他県の先進的取り組み実態の調査から、学校規模や学区の範囲、地域の状況などの要件が与える影響について明らかにした。組織づくり、コーディネーターの位置づけと人選などにも、地域性や地域課題の影響が現れることが示唆された。また、当事業が子ども・親・高齢者の新たな関係づくりをもたらすことは示されたが、直接的に家庭生活支援に資するという結果は示されず、逆に、事業の一環として保護者相談を実施しているケースからは、家庭生活への直接的関与は困難であることが明らかとなった。家庭生活支援の必要性については研究が進むにつれて益々強く示唆され、地域ボランティアが可能性を有することも示されたが、家庭生活に直接的に関与したり影響を及ぼすことの困難さを示す声や具体的場面に多く遭遇した。家庭生活支援策の検討の方向性については再考が必要といえる。 継続調査の結果からは、地域ボランティアと教職員の事業に対する意識に有意差があり両者間に温度差があるとみられること、生徒・学校・地域の三者の関係認識でも有意差が認められること等が明らかにされた。ボランティアの意識や態度には変化がないが、特に教職員の意識が低下していた。家庭生活支援に資する三者の関係づくりについて、山積する課題が明らかにされたが、多くの可能性があることも示された。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果から、学校支援地域本部事業の取り組みを通して子ども・親・高齢者の新たな関係づくりをもたらすことが示されているが、事業を通した家庭生活への直接的関与によって家庭生活を支援することは困難であることが示唆されている。しかし、これまでの地域ボランティアと生徒の多様な関わりの場面からは、結果的に家庭生活支援の効果をもたらしたと考えられるエピソードも数多く収集されている。そこで、地域ボランティアと生徒の関わりの場面に注目し、生徒が変わったと捉えられる場面や経緯、ボランティアや教職員はこれらの変化をどのように把握したか明らかにし、家庭生活が抱える課題との関係性や、課題解決に向けての影響と可能性について検討する。今年度は最終年度にあたるため、この成果をふまえて研究全体についてまとめる。 具体的には、まず、調査を継続実施してきた岡山県備前市立備前中学校、岡山県赤磐市立赤坂中学校を対象として、地域ボランティアと教職員に対するヒアリング調査によって事例の収集を行う。これらの分析結果をふまえて、事例を類型化し、これに基づいて当該事業による家庭生活の支援策を提案するためのシンポジウムを8月に開催する。さらに、事例の類型を用いたアンケート調査を実施して、過去のケースについて検討する。 また、今年度の事業の成果についてアンケート調査を継続実施し、昨年度までの調査結果との比較分析を行い、経年変化について明らかにするとともに、アンケートに上記の類型比較を項目として加え、その成果を確かめる。 これまでの研究成果を平成27年9月に書籍として出版する準備に取り組む。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度の研究計画の後半部として、学校支援地域本部事業の一環として家庭からの相談業務を行っている事例の実態調査を行い、その手法を発展させて家庭生活支援策を検討する費用として検討会会議費、策定された支援策の効果を確かめるためにアンケート調査を実施する費用として調査票印刷費および郵送費を計上した。しかし、研究計画の前半部分で実施した先進校の現地調査から、当該事業を通した家庭生活への直接的関与によって家庭生活を支援することは困難であることが示唆された。家庭生活支援の必要性と、地域ボランティアが可能性を有することが明らかになったため、家庭生活支援策の検討の方向性について再考することとした。即ち、地域ボランティアの関与によって生徒に変化が現れて結果的に家庭生活の支援となった事例を抽出し、これらを類型化して分析することで、間接的な支援策について検討する。 事例収集のため、地域ボランティアと教職員を対象として面接によるヒアリング調査を実施する。事例の検討会を開催して類型化し、効果的な間接的支援策について検討する。これらの事例の類型化に基づく家庭生活の支援策を提案するためのシンポジウムを開催する。事例の類型を用いたアンケート調査を実施して、過去のケースについても検討して支援策の可能性を検証する。 旅費170千円 謝金50千円(研究補助) その他90千円(事例集・シンポジウム資料印刷費)
|