2013 Fiscal Year Research-status Report
おいしさと記憶の相互作用による脳内食行動調節機構の解明
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24500973
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
乾 賢 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (40324735)
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Keywords | 味覚 / 学習 / 脳 |
Research Abstract |
味覚嫌悪学習における記憶の成立と嗜好性の変化を別々に評価するための行動学的実験とそれらの神経メカニズムを調べる実験を並行して行った。 行動学的実験では動物が実験箱の穴に鼻を突っ込むと動物の口腔内にカニューレを介して溶液注入がなされる装置を作製した。しかし、溶液注入時の動物が大きく動き回るために味覚性反応を調べるのが難しいことが分かった。そこで、溶液を動物が自発的に摂取できるように、実験箱の一つの側面に穴を空け、小型の出窓を取り付けた。出窓の側面に赤外線を利用した通過センサーを取り付けた。出窓の奥にタッチセンサーを接続したスパウト(飲み口)を設置した。この装置ではラットが出窓に鼻を突っ込み、溶液を摂取する行動を通過センサーとタッチセンサーの反応から解析することができる。記憶の強さはスパウトへの接近行動に反映され、嗜好性はリック行動に反映される。味覚嫌悪学習が成立し嗜好性が低下すると、リックパターンと通過センサーのカットパターンが変化することが分かった。これらの結果から、研究課題に適した装置を作製することができたといえる。 神経メカニズムに関する研究として扁桃体基底外側核への入力経路を調べた。逆行性トレーサーを注入することで扁桃体基底外側核へ入力するニューロンの分布を調べ、それらのニューロンのうち条件刺激によって活性化するものを免疫組織化学的手法によって調べた。その結果、当初予想していた島皮質や脳内報酬系からの入力は多く観察されなかった。一方で、内側前頭前皮質と視床室傍核から扁桃体基底外側核へ強い投射が存在することが分かった。そしてその標識細胞の中に条件刺激によって活性化したものがあった。内側前頭前皮質は島皮質から、視床室傍核は脳内報酬系の側坐核から投射を受けることから、扁桃体基底外側核は島皮質と脳内報酬系から間接的な入力を受けることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
行動実験パラダイムの確立については23年度中に終了する予定であったが、24年度においても継続して行った。この点で当初の計画より若干遅れているといえる。しかしこれはより確実に精度の高いデータを得るために装置や手法を工夫したためであり、研究課題の遂行のために極めて重要であったといえる。また、既に行動学的実験は遂行しており、作製した装置において動物がどのような行動パターンを示すかについては、基礎的なデータは得られている。したがって、当初の計画より時間的な遅れは生じたものの、研究成果としての内容としては大きく進展したと考えている。 神経メカニズムに関する研究については、扁桃体基底外側核の関与を調べる研究が想定よりも大きく進展した。計画立案時に作成した作業仮説では島皮質や脳内報酬系から直接扁桃体基底外側核への入力が存在すると予想していた。しかし実際には、内側前頭前皮質や視床室傍核からの投射の方が強いという結果が得られた。したがって、当初予想していたものとは異なるメカニズムが存在することが示唆された。予想していなかった結果であったため、作業仮説の見直しが必要になった状況である。しかしこれはネガティブな状況ではなく、味覚嫌悪学習の神経メカニズムをより詳細に解明するために重要な知見が得られたと考えられる。現在までに明らかになった内側前頭前皮質および視床室傍核から扁桃体基底外側核への入力経路が味覚嫌悪学習の記憶の成立と嗜好性の変化にどのように関与しているのか、という研究テーマに今後取り組むべきである。 以上のように、行動実験パラダイムの確立については若干の遅れがあるものの、神経メカニズムに関する研究については大きな進展があったことから、研究課題全体を総括して考えると、今年度の達成度は概ね順調であったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度において確立することができた行動実験パラダイムを用いて、扁桃体基底外側核、島皮質、脳内報酬系の味覚嫌悪学習における役割の違いを調べる。具体的には各脳領域を薬物によって一過性に機能停止させた場合に、開発した装置内での動物の行動にどのような違いが生じるかを明らかにする。その結果から味覚嫌悪学習の記憶の成立と嗜好性の変化に関わる部位の相違点や共通点について考察する。 神経メカニズムに関する研究については、扁桃体基底外側核への入力経路についても研究を更に進める。現時点で内側前頭前皮質や視床室傍核からの入力を示す結果が得られているものの、再現性のある十分なデータは得られていない。したがって、個体数を追加して入力経路を明確にしたい。また、島皮質や側坐核から内側前頭前皮質や視床室傍核を介した間接的な経路が存在するのかについても調べる。具体的には、扁桃体基底外側核に逆行性トレーサーを注入すると同時に、島皮質や側坐核へ順行性トレーサーを注入する。その結果、内側前頭前皮質と視床室傍核において投射ニューロンの連絡を観察することができるかどうか検討する。そして、島皮質や側坐核から情報を受け取る扁桃体基底外側核投射性ニューロンが、条件刺激の呈示によって活性化するかどうかを免疫組織化学的手法によって調べる。また、時間的に可能であれば、内側前頭前皮質や視床室傍核のニューロン活動を一過性に停止させた時に、上述の実験装置における条件刺激の摂取行動にどのような影響が生じるかを調べる。 以上の実験を遂行することによって、扁桃体基底外側核において味覚嫌悪学習の記憶の成立と嗜好性の変化に関わる情報が統合されるのか、またその入力経路を詳細に明らかにする。そして、関連学会での研究発表や論文投稿などの方法によって成果の公表を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度末に実験動物を購入する予定であったが、納入業者において適当な週齢の個体が不足していために、計画の変更が必要となった。納品が次年度の4月始めとなったため、費用を使い切ることが出来なかった。 年度のはじめに実験動物の購入費用として使用する予定である。
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Research Products
(4 results)