2013 Fiscal Year Research-status Report
全方位映像を用いたリスク知覚向上教育デザインの開発
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24501180
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Research Institution | Nagaoka University of Technology |
Principal Investigator |
岡本 満喜子 長岡技術科学大学, その他の研究科, 准教授 (20610778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中平 勝子 長岡技術科学大学, 工学部, 助教 (80339621)
北島 宗雄 長岡技術科学大学, 工学部, 教授 (00344440)
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Keywords | リスク知覚 / 動機付け / 知能観 |
Research Abstract |
本年度はエアドームに交通ハザードを含む交通場面を上映し、実験参加者(タクシー乗務員)の注視行動、各場面に対する危険感、映像上の対象(先行車、側方を通過する自転車、後退時の後方の障害物)との距離感、自車の速度感を測定した。その結果、個人差はあるものの全体として直近1ヶ月内に事故を発生させた乗務員の方が速度感を低く見積もり、危険感も低く評価する傾向がみられた。 また、本研究は教育デザインの開発を目的にしていることから、現場乗務員の教育を担当する管理者からの有効な働きかけ方法を明らかにする必要がある。当該働きかけが有効な対策となるためには、乗務員が対策に対し実行する意欲、いわゆる動機付けを持つ必要がある。しかし、動機付けの程度は個人の知能観(自分の能力に対する考え方)により異なり、固定的知能観(能力は天賦のもので努力しても向上しない)を持つ人は困難に直面すると動機付けを失いやすいが、適切な介入により動機付けを維持向上させることが可能と言われている。また、個人の態度には顕在的態度(意識に現れており質問紙等で測定可能)と潜在的態度(本人も意識していない内心の態度)があり、両者は異なることがあるとされる。そこで、乗務員の顕在的および潜在的知能観を測定するための実験を行った。その結果、潜在的態度において固定的知能観を有する乗務員は事故原因を「交通他者以外」すなわち自分にあるとし、増大的知能観(能力は努力で向上する)を有する乗務員は原因を「自分の能力以外」すなわち自分の努力か交通他者にあるとする傾向がみられた。このことから、前者には、自分の能力不足との認識から自信喪失に陥らない働きかけが必要と考えられる。一方後者は、事故原因を他責的に考えている可能性があるため、事故発生時の自分自身の認知・判断・操作のあり方をより深く内省する方向の働きかけが必要と思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在、実験に用いる交通場面の撮影、およびエアドームの画像を用いた実験(注視行動、危険感、距離感、速度感の測定)は,実験参加者20名について実施した。平面スクリーンを用いた実験も平成26年6月の日程が決定している。また、教育手法の開発に必要な基礎データとなる乗務員の知能観の調査も実施し、データ分析も含め終了した。 進捗がやや遅れている理由として次のものがあげられる。 まず、当初交通場面の撮影を公道で行うこととしていたが、事故の危険が伴った。また、視点の高さを同一にするため、ドーム映像撮影用カメラと平面スクリーン上映用映像撮影用カメラを車の同じ位置に設置すると,両カメラで同時に撮影することが出来ず、同じ交通状況を2回再現する必要性があった。これらの問題を解決するため自動車教習所を貸し切ることとしたが、貸切可能日が1ヶ月当たり1~2回という制約があった。加えて雨天時は撮影できず、予定していた撮影日が雨天延期となった。このため、両カメラによる交通場面の撮影に,教習所の検索と日程調整を含め約6ヶ月を要した。 次に撮影後、ドーム内にルームミラーとドアミラーの再現を試みたが、タブレット端末の録画再生機能を用いて一応の映像呈示が可能であったものの、映像の見え方、後方場面の映り方が実車と比べ違和感があり、またタブレット端末を車のミラー位置に固定するための設備が実験参加者の前方の視野を遮り、実車と異なる条件が多くなるという問題が生じた。結果的に今回はミラーの再現は行わなかったが、この検討に時間を要した。 さらに、エアドームを用いた実験を行った際、画像に酔う実験参加者がみられた。このため画像による酔いへの方策について検討に時間を要した。加えて、ドーム映像を上映する機器の不具合により実験を20名終了時点で打ち切らざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平面スクリーンの映像(平面条件)を用い、ドーム映像を用いた場合(ドーム条件)と同じく注視行動、危険感、距離感、速度感を測定し、両者の比較を通じてその差異を明らかにする。また、実験参加者には事故惹起者と無事故者を含み、両者の注視行動や危険、速度等の感覚の違いも明らかにする。ドーム条件については追加実験を行う。 一方、本研究でプラネタリウムドームの映像を用いることとしたのは、映像の幅や奥行きの感覚等の点で、平面スクリーンよりも現実の運転場面に近いと考えたためである。しかしこれまでの研究で、ドームスクリーンに右左折やカーブ走行、速度変化を伴う交通場面を10~15分程度上映すると映像への酔いが生じることがあり、教育のためにドーム映像を用いることができる時間の長さや交通場面の種類の点で制約があることが判明した。また、360度の映像とはいえ受動的に映像を視聴する場合と、能動的な認知・判断・操作を伴う実際の運転行動の場合とでは、注視行動等に差違が生じると考えられる。 そこで平成26年度は、実験映像を撮影した教習所で実車運転時の注視行動等を測定し、その結果とドーム条件、平面条件を比較する。これにより、現実の運転場面と受動的な映像の視聴時における注視行動等の差違を抽出し、管理者からの教育に活かすとともに、ドームを使用するのに最も適した交通場面の選択と教育への活用を目指す。 また、ドームスクリーンによる360度映像を活用する1つの理由に、後方の確認を伴う運転行動の再現性の問題があった。ドーム条件で後退時の確認行動を観察したところ、タクシー乗務員は基本的にミラーで後方を確認していること、ミラーの確認方法は個人差が大きいことが判明した。そこで、後方確認については平面の映像でミラーを再現し、注視行動等の測定を行うとともに、死角になりやすい箇所等の抽出を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費については、主にエアドームを購入しなかったためである。その理由として、当初購入を予定していたエアドームは,購入後のメンテナンス費用および労力が当初見込みよりかかることが判明したこと、連携研究者から携帯型エアドームの無償貸与を受けられるようになったこと(ドームおよび上映機器一式の輸送費,オペレータ旅費等は当方負担)、連携研究者が保有しないサイズのエアドームもレンタル可能となったことがある。 旅費は現在までのところ、国内学会への出席が中心となったためである。 ドームを用いた追加実験実施のためエアドームのレンタル費用計220千円、実験で取得したデータ保存用HDD計100千円の支出が見込まれる。また教習所での実車走行実験のため、教習所貸切費用計220千円(1回110千円×2回)を予定している。これら実験協力者への謝礼およびデータ整理等のための人件費計150千円を見込んでいる。これらの実験はいずれも東京のタクシー会社の協力を得て実施しているため、実験実施および打合せのため長岡~東京間の旅費計450千円(2人、2泊3日×5回)、連携研究者との打合せのための旅費計200千円(1名×4回)を予定している。また、研究成果の発表のため、学会参加費計100千円、学会参加旅費計700千円(パリ1名×1回、札幌3名×1回)を予定している。その他書籍の購入に100千円を予定している(以上2240千円)。
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Research Products
(2 results)