2014 Fiscal Year Research-status Report
インド精神医学史における疾病概念の変遷および宗教的実践と精神療法の関連
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24501240
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Research Institution | Japan Health Care College |
Principal Investigator |
森口 眞衣 日本医療大学, 保健医療学部, 准教授 (80528240)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | インド医学 / 医学史 / 疾病概念 / 精神療法 / 宗教実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度において以下のような研究成果を得た。 (1)インド精神医学史における疾病概念の変遷:インド医学で病理論の中核と考えられてきた「ドーシャ説」と疾病記述の関係を調査した。『スシュルタサンヒター』では精神の病的状態と関わりのある「グラハ」疾患では病名の下位分類としてドーシャによる名称が用いられており、区分指標であった可能性が想定された。 (2)宗教的実践と精神療法との関連1:日本で仏教と関係の深い精神療法とされる森田療法と内観療法が、どのような「仏教」と関連をもつのかを整理し、近年の認知行動療法で仏教との関連が注目されているマインドフルネス認知療法と比較した。宗教との関係性という視点でそれぞれの成立経緯を確認し、今後の変革可能性を指摘した。 (3)宗教的実践と精神療法との関連2:仏教で伝統的に行われてきた宗教的実践はアジア伝播によって各地で独自に影響を受けつつ継承・発展してきた。マインドフルネス認知療法の技法について、宗教的実践としての「瞑想」との比較を行ったところ、仏教に限らず様々な宗教的概念としての「瞑想」が要素的に盛り込まれ形成されている可能性を確認し、精神療法と宗教的実践の関係性について提言した。 (4)インド医学書における「トリ・ドーシャ説」:インド医学書『スシュルタサンヒター』におけるトリ・ドーシャ説と疾病概念との関係を調査し、従来の学説のように病因論の中核的な位置づけでの記載だけでなく病名の下位分類名称としてのみの記載も混在していることを確認した。病因論あるいは分類名としての導入経緯について複数の可能性が想定された。 (5)『スシュルタサンヒター』刊本とネパール写本との異同:刊本では鼻の疾患を扱うセクションのひとつが前半に配置されているが、構成特徴から分析すると後半に配置されるべきである。ネパール写本を調査したところ、仮説どおり後半に配置されていたことが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度における現在までの成果は本研究の目的に対し、以下の点から当初の計画を大幅に修正することなく次年度の研究に取り組むことが可能であると判断した。 (1)インド精神医学史における疾病概念の変遷:現代でいう精神障害に相当する疾病の位置づけが他の疾病概念と異同をもつのかどうか、ドーシャ説との関係を中心に検討し、整理の段階に入っている。 (2)宗教的実践と精神療法との関連:宗教的実践としての「瞑想」と、現代の精神療法の中で実践されている「瞑想的療法」の関係について整理・発表を行い、論文化の準備を進めている。 また、以下の点については昨年度に浮上した新たな関連研究領域であり、それについても以下の成果を得ており、部分的には計画以上の進展があった。 (3)インド医学書における疾病の記載:ネパール写本の調査により、精神医学のみの領域にとどまらず、幅広い疾病概念とドーシャ説の関係について検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の計画に基づく推進策は以下の通りである。 (1)インド医学の疾病概念について、病理概念としての「ドーシャ説」と病名記載の関係を中心に、精神医学を含め全体的な領域を対象として調査を進める。既に病名記載方法は医学書の構成と密接な関係があり、時代によって変遷のあることが判明しているため、主に『スシュルタサンヒター』を対象として医学書の構成上の変化と疾病概念の関係をさらに調査し、分析結果を整理する。 (2)インド~東南アジアで実践されてきた仏教瞑想という宗教実践が、直接には宗教と隔たりをもっている臨床現場において「医療化」していく過程について、日本仏教との接点が深い精神療法の成立過程および変遷過程の調査・考察結果を踏まえて整理する。 (3)ネパール写本を用いたインド古典医学書において、特に精神医学と関連する記載についてこれまでの調査を踏まえ、テキストの変遷とそれによる影響についての検討結果を資料として整理する。 上記については既に前年度から進めつつある新たな萌芽的研究の成果も包含し、本研究の計画に加えてさらに発展的な内容をもつものとしての公表準備を進める。また、その過程で将来的に新たな研究課題の構築・着手に向けた基礎的研究につなげていく。
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Research Products
(5 results)