2013 Fiscal Year Research-status Report
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24501246
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
三浦 伸夫 神戸大学, その他の研究科, 教授 (20219588)
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Keywords | 数学史 |
Research Abstract |
中世・ルネサンス数学には実用数学と理論数学とがあり,後者はまた観想的数学とも呼ばれた.この分類は少なくとも西洋中世においては聖ヴィクトルのフゴに始まる.しかしその実用数学の内容といえば中世初期伝来のアグリメンソーレースによる実用数学であった.その数学内容の流れを変え,実用数学に理論を吹き込んだのがピサのレオナルドであり,その後それはクラヴァシオのドミニクスなどが受け継ぐことになり,西洋幾何学の一つの伝統となった.パチョーリも同様に,ペルージャ写本ではいまだ旧来の実用数学でしかなかったが,『スンマ』に至ってそこに理論を持ちこんでいる.また幾何学においては,手書きの具体的個別的図版が,刊本の『スンマ』では稚拙ではあるが一般的描写に変化している.ここに手稿の実践的実用数学から,刊本の実用数学の範疇に入るとはいえ理論的数学への変遷が見られる.パチョーリはそれを意図的に行うことで,数学教育を単なる手法の教授から理論の考察へと変化させた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
パチョーリに先行する算法学者,たとえばピサのレオナルドや,その先行者,たとえばアブラハム・バル・ヒッヤ,そしてそれらの源泉であるアラビア数学のアブー・バクルやバヌー・ムーサーなどを視野において重点的に研究したので,パチョーリ自身の研究はやや遅れた.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年として次のことを行う計画である.1.パチョーリ『スンマ』第2部にはエウクレイデス『原論』の一部が見えるが,その内容が『スンマ』の版によって異なることが判明したので,その相違の詳細と,その相違に至った理由やどのような影響のもとでそうなったかを明らかにする.2.ペルージャ写本の内容をそれ以前の算法学派の数学者,たとえばピサのレオナルドやベネディッティ・ダ・フィレンツェなどと比較し,パチョーリが数学問題の解釈や記述にどのような変化を加えていったかを明らかにし,数学教育者としてのパチョーリの特徴を明らかにする.3.パチョーリの『量の特性』は数学的内容において『スンマ』を超える作品であるが,その後はあまり影響を与えなかった.しかし他方で先行者からの影響を多大に受けていることは明らかである.ほとんど研究されてこなかったこの作品を,『スンマ』や先行の数学と比較し,数学史上にその位置づけを試みる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予定外に一次資料解読に時間がかかり次に進むことが出来なかった.夏までにそれは修了するので,その後は当初の予定通り進めることができる. 引き続きパチョーリ関連の数学文献一次資料の収集を行うための備品経費を配分する.また関係資料の複写を行うために消耗品経費を配分する.また各種学会などで研究成果発表を広く行うために国内・国外の旅費を配分する.さらにパソコンとスキャナーなどの機器が古くなり,処理が中断することがあるので,備品設備経費を配分する.
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