2012 Fiscal Year Research-status Report
震災復興に向けた自然環境利用型博物館教育システムの構築
Project/Area Number |
24501270
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
朝日田 卓 北里大学, 水産学部, 教授 (00296427)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 震災復興 / 生態系 / 仔稚魚 / アマモ場 / サーフゾーン / 博物館教育 / 被災文化財 / 自然環境利用 |
Research Abstract |
浅海域の生態系調査は、岩手県大船渡市三陸町の越喜来湾に設置した定点で行い、主に津波で一旦消失したアマモ場の回復状況や、そこに出現する仔稚魚の動態を調べた。その結果、アマモ場が従来の位置より岸側に延びながら回復して来ていることや、そこに出現した仔稚魚が8目21科34種以上に及ぶことなどが明らかとなった。また、津波による防潮堤の破壊と地盤沈下によって海岸線が陸側に前進した場所では、砂浜の回復につれて出現魚種が増加し、8目15科25種以上を確認した。しかし、海岸侵食防止工事などにより環境改変が続いており、工事以前に出現していた一部の魚種は出現が見られないなど回復とは逆の変化も見られた。 これらの調査結果を受けて、被災後の浅海域調査を学習プログラムに組み込む方策や課題について検討した。その結果、波打ちぎわでの仔稚魚等の採集調査がプログラムに組み込む調査として適切で、大潮の干潮時が午前にあたる春季から秋季に実施できるような試験運用法を策定した。また水温や塩分濃度測定、仔稚魚の観察などの項目を教科単元と照らし合わせ、算数や理科の学習にもつなげることが可能であることを確認した。 地域の文化や文化財の活用について検討した結果、被災文化財修復作業内容としては、津波被害を受けた資料の脱塩や乾燥等の安定化処理をプログラムに組み入れることが可能であると判断した。しかし、津波被害を受けた文化財処理は人類が初めて直面する課題であるため、学習素材としての活用にはなお検討が必要である。また、プログラムへの組み込みが比較的容易と判断されたのは、震災によって多くが失われた動植物標本を再び作製することや、被災住民の高台移転に伴って本格化する埋蔵文化財の発掘調査の活用である。動植物標本の作製は、児童生徒が興味を持ちやすいだけではなく、理科などの教科単元ともリンクしており、教育普及活動の再開にも繋がる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
被災浅海域の生態系調査は順調に進んでおり、前述の通り学術的な成果が蓄積されてきている。この調査を通じて得られたノウハウを、博物館教育システムの復興に役立てるための検討も進んでいる。本年度は調査の実施と成果を活用した復興策の検討であるので、ほぼ目的を達したと言えよう。また、8月には協力小学校(被災校)において川での調査観察会を実施したが、これによって今後のフィールドでの活動にむけた検討課題が明らかとなった。例えば、被災地の児童生徒にはまだ海への恐れを抱く者がいることや、防潮堤が破壊されたままのフィールドで活動する場合の安全確保などについて検討が必要なことなど、考慮すべき被災地の特性を確認できた。 被災文化財や被災を免れた自然環境を含む文化財の活用については、博物館教育システムの復興に有用なものの選定などが進んでいる他、被災資料の安定化や修復作業を通じて、学習プログラムに活用可能な内容や課題なども明らかになってきており、被災地の学習機会の復興に向けた成果が蓄積されている。また、震災後途絶えている教育普及活動の再開に繋がる、昆虫等の採集や標本作製を可能とする器具類のキット化に向けた検討も進んでおり、次年度は実際の活動と共にキットの作製を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、被災博物館の特性に応じた博物館教育システムの復興に取り組む。陸前高田市の2館は1館としての復興になるので、博物館教育システムも1つとなる。具体的な作業としては、初年度から行っている浅海域等の調査を継続すると共に、得られた成果を基にした教材を自給できるプログラムの構築とそれに用いる器具類のキット化などが挙げられる。 プログラムの試験運用としては、協力小学校における「川の楽校(水辺の生物観察など)」を継続するが、前述の安全確保問題や被災地児童生徒の心情への配慮などの課題についても検討を続ける。 また、他の博物館関連復興事業の状況も確認しながら、被災博物館資料の活用、埋蔵文化財発掘事業との連携、学校教育との連携などを検討する。さらに、研究によって得られた情報を地方自治体等と共有し、様々な震災復興事業にも活用できるよう情報発信を行う計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた主な理由は、震災により館長以下学芸員等6名が犠牲になった被災博物館の体制が復旧しなかったことや、申請者が所属する学部の震災による移転等の影響により、学習プログラムを運用する際に用いる道具類のキット化を目的とした器具や部品の検討・選定等に時間がかかったことと、一部の購入予定品の納入にかかる時間が想定を超えていたことなどである。今後は被災地の状況を確認しながら研究を進める予定である。 翌年度以降に請求する研究費は、主に前述のプログラム運用のための用具およびキットの試作に用いる。試作したキットは、フィールドや博物館、学校で実際に活用し、改良のための情報を得る。また、被災地への旅費などにも研究費を支出する計画である。
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