2014 Fiscal Year Research-status Report
博物館における全天周科学映像の開発および評価に関する人文・社会学的研究
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24501275
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
松岡 葉月 国立民族学博物館, 民族社会研究部, 外来研究員 (80573740)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 博物館学 / 博物館映像展示学 / 博物館教育学 / 全天周科学映像 / 博物館観客調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、全天周映像の特質である臨場感や没入感について、博物館学の分野では初の検討を試み、最新の研究成果を得られた。具体的には博物館学的手法、つまり来館者をとりまく物理、社会、個人的コンテキストに照らし合わせつつ、全天周ドームにおいて異なるドーム径やプロジェクター性能を持つ上映館でのアンケート結果の比較を通して解析を進めた。研究成果として、画像精細度の高さは臨場感や没入感に部分的にしか影響しないこと、画像の精細度よりもドーム径が臨場感・没入感に影響する傾向が見られること、臨場感・没入感には視聴者の心理的側面や地域性などの環境要因の影響も見られることなどが確認でき、博物館学の学会で発表した。さらに、博物館においては実物資料に近づけるべく高精細デジタル化が進んでいることを受け、全天周ドームにおけるデジタル資料の可能性を検討した。調査は国内有数の恵まれた星空環境に属する視聴者を対象とし、展示や教育普及コンテンツで注目が高まっている全天エアドームを用いてデジタルデータの星空について評価を得た。この調査から全天周という条件下でのデジタル資料の持つ可能性や限界を確認でき、研究成果は日本天文学会で発表した。さらに全天周画像の専門家と、デジタル画像における高精細化の動向やコンテンツに関する意見交換を行うことができ、デジタル画像の高精細化は技術面が先行し、高精細に適したコンテンツについては専門家の間でも模索中であること、最新動向として、建築文化財アーカイブの全天周映像化の試みがあり、今後、人文科学系コンテンツにおいても臨場感や没入感に類する研究の可能性も確認できた。 また、宇宙・天文分野で球形立体表示装置を開発している研究者と連携し、球形立体表示装置と全天周の視聴特性との比較をすべく一般視聴者対象に調査を実施し、全天周特有の臨場感・没入感を更に具体化できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全天周ドームの持つ特質である臨場感と没入感を明らかにするため、前年度までと異なる物理・環境要因(元画像画素値、プロジェクター性能、ドーム径、立地条件など)と人的要因(視聴者の年齢、プラネタリウム経験、天体に関する知識・関心など)を臨場感と没入感に照らし合わせて研究を継続できた。物理・環境・人的要因の異なる日本各地の上映協力館において、一般視聴者から寄せられた多くの意見を元に解析結果を得られたことで、博物館学的手法からの臨場感と没入感を一般化できつつあると考えられる。 博物館では、実物資料に近づけるべく高精細デジタル化が進んでいるが、平成26年度は博物館における全天周デジタル資料の可能性を追求するうえで、当初の研究計画以上に成果を得られた。具体的には国内有数の恵まれた星空環境(北海道陸別町)の天文台で、豊かな星空経験をもつ視聴者に対してデジタル画像による疑似体験は限界があることを確認できた。しかし、通常の画像精細度でも全天周画像は子どもにとって臨場感や没入感に効果的であること、さらに画像の精細度よりもドーム径が臨場感・没入感に影響する傾向が見られた。この結果により、これまでの研究成果が、視聴者自身の持つ心理的側面や、物理・環境要因が異なる場合にも適用できることを確認できた。この成果は、展示や教育普及コンテンツとしても注目されつつある全天エアドーム(4メートル径)を用いて得られたものであるとともに、臨場感・没入感について、博物館学の分野では、全天エアドームを用いた最初の研究成果でもある。 全天周映像と同様に、視聴者に臨場感や没入感の効果を与えると予測されるものに、立体映像や超高精細な映像がある。全天周独自の臨場感・没入感を明らかにするため、H26年度は一般視聴者対象とした球形立体表示装置と全天周の視聴特性との比較で、全周映像特有の臨場感・没入感を更に具体化できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、文理融合の手法で制作した映像「誰も知らなかった星座~南米天の川の暗黒星雲」を全国各地の博物館、科学館などに無償提供し、一般視聴者向けアンケートを通じて、文理融合の手法の有効性や、視聴者の感じる臨場感・没入感とその要因についての調査を行っている。 文理融合的観点が全天周映像の内容理解に及ぼす影響については、アンケートの自由記述欄にある意見から、年齢や視聴経験の差、視聴動機においてキーワードを抽出できるまでに至っている。研究計画書にも明記したように、筆者の松岡は博物館学の分野において、展示を「見る」という条件下で来館者の自由記述に見られる多様な特性を明確な基準で評価し、かつ評価で得られた特性を分かり易く視覚化できる方法を新たに取り入れた。この評価方法により、人文科学的内容についても、学び手は人文科学のみならず、自然科学、芸術的手かがりも用いて理解することが明らかとなったことから、文理融合的手法からの本研究にもこの評価方法を援用し、自由記述の分析に用いて視聴特性を検討している。今後は、内容の理解度や満足度も含めた複合的観点からの分析も進める。 さらに、全天周映像特有の臨場感や没入感を、これまでの調査から得られた物理・環境的要因と人的要因との相互関係から明らかにするとともに、視聴者に臨場感や没入感の効果を与える意味で全天周と同様の効果をもつ他の立体映像や超高精細な映像と併用したプログラムにおいて、全天周映像特有の臨場感・没入感を具体化する。 以上の研究成果を博物館学、天文学関係の学会等で発表し、専門家と意見交換を行い論文化する。さらに研究成果に基づいて画像の加工や入れ替えを行って試験投影を行う。そして、本研究における全天周映像の構成要素となるドームマスターの連番画像を作成し、文理融合的観点からの全天周映像を完成させる。
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Causes of Carryover |
申請者は文理融合の観点から全天周映像を制作し、視聴者向けアンケートを通じて文理融合の手法の有効性や全天周映像特有の臨場感・没入感について研究を行っている。アンケート回答の解析において、当初予定であった高精細画像が必ずしも視聴者の満足度に直結せず、投影環境(スクリーン、プロジェクター)と視聴者の心理的側面を検討に加える必要性が生じて時間を要していることと、調査協力館の事情により調査に遅延が生じた。 これらの事情により、当初計画である全天周映像の完成にも遅れが生じ、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究の独自性でもある文理融合的の観点からの全天周映像の効果、および全天周映像特有の臨場感や没入感に影響する要因の明確化の検討のために、調査協力館に赴く旅費やアルバイト謝金等の調査費用を計上する。これらの調査をもとに全天周映像を完成させるための画像製作や加工を行うための費用と人件費を計上する。さらに研究成果を博物館学や全天周映像関係の学会で発表し、研究成果の確認と検討を行うため、学会への参加費と旅費を計上する。
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