2013 Fiscal Year Research-status Report
共和主義におけるピールのミュージアムの教育的役割と視覚による教育の成立
Project/Area Number |
24501276
|
Research Institution | The National Museum of Western Art, Tokyo |
Principal Investigator |
横山 佐紀 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 主任研究員 (70435741)
|
Keywords | 視覚と触覚 / ポートレート / 展示分析 |
Research Abstract |
平成25年度の成果は、(1)経験論、感覚論に関する文献の渉猟、(2)ペンシルベニア歴史協会(以下、HSP)における史資料調査、以上2点である。前者については、前年度の成果を受けてロック、バークリ、コンディヤックらの主要文献および、関連する文献を収集し、啓蒙主義の文脈において視覚と触覚、認識の関係がどのように捉えられていたのか、その概要を整理した。本研究のおもな目的は、チャールズ・ウィルソン・ピールが1786年にフィラデルフィアに開設したミュージアムにおいて、公衆の教育のために視覚的要素をいかに取り入れているのかを明らかにすることにあるが、そのためには、ピールに大きな影響を与えたトマス・ジェファソンの思想を検討することが不可欠である。ジェファソンがロックの政治思想に深く共鳴していたことは知られてはいるものの、経験論との関係の詳細は明らかではない。しかし本年度の調査を通じて、ジェファソンがコンディヤックの『感覚論』を所蔵していたこと、および書簡においてコンディヤックに言及していることが、彼の蔵書リストや他の資料などから明らかとなった。このことは、アメリカにおける感覚論、経験論とミュージアムとの関わりを探る手がかりを示すものではないかと考えられる。 一方、ピールは、建国期の重要人物のポートレートを描き、自らのミュージアムに展示することで若い共和国に貢献した人々の姿を「視覚化」していた。これらは後に銅版画化され、「絵入り伝記集」として流通することになるが、印刷物として一般化された重要人物たちの視覚像がミュージアムを離れた場所で、現実にどのように受容されていたのかは不明であった。HSPにおいて調査したスクラップブックにはこれらの銅版ポートレートが切り貼りされており、スクラップブックの詳細や作成の経緯は不明であるものの、今後、重要な資料となると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、本研究の基盤となる思想的な側面に関して資料収集を進めることができ、おおむね当初の計画通りに進んでいるといえる。また、予想外に、おそらく19世紀前半のものと思われるスクラップブックというユニークかつ貴重な史料を調査することができたことにより、今後、新たな方向へと研究を展開させる可能性が得られたものと思われる。本研究は、いわゆる教育プログラムのみをミュージアムにおける教育活動と捉えるのではなく、展示や空間構成における教育的要素を思想的、歴史的に捉え返すものであるが、とりわけ展示における教育的要素については、現代の問題とも関連させながら、日本比較教育学会第49回大会(上智大学、7月7日)にて発表を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、昨年度および今年度得た資料・文献の整理を中心に進める予定である。いわゆる経験論、感覚論の概要については整理できたものの、これらが同時期のアメリカにいかなる影響を及ぼしているのかについては、まだ詳細が検討されていない。そこで、まずはヨーロッパにおける感覚論とアメリカにおけるそれとの接続性の確認を、以下の手続で進めることにしたい。(1)『感覚論』を所蔵していたことが明らかとなったジェファソンについて、感覚論や経験論に言及している箇所を、彼の書簡から確認する。(2)そのうえで、自らのミュージアムをめぐってジェファソンときわめて親しい関係にあったピール側の思想について、経験論、感覚論に関する言及をジェファソンとの往復書簡から検討する。この過程において、関連する建国期アメリカの政治思想研究や、ジェファソンの思想研究などの文献も随時参照する予定である。 こういった思想的文脈の整理を踏まえたうえで、ピールによる自画像《自らのミュージアムにいる画家》の背景に描かれたピールのミュージアムにおける展示分析を、視覚/触覚、鑑賞者と展示物との距離、展示品の分類方法、以上の3点から進める。展示プラン(展示室平面図)や、ピールの書簡集における展示物についての記述などとも照らし合わせながら、ピールがいかなる秩序に基づいて展示室を構成したのかを明らかにしたい。 最後に、若干時代は下がるが、HPSで調査を行ったスクラップブックについても、その由来、切り貼りされているモノの特定などを進め、「視覚化」が一般の人々の間でどのように受け留められていたのかを検証したいと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、海外調査を2回予定していたが、1回のみ行ったため。 海外調査(フィラデルフィア、ワシントンDC、ニューヨークほか)における調査を2014年秋、2015年3月に実施予定である。
|
Research Products
(1 results)