2013 Fiscal Year Research-status Report
HTLV-1 Rexによる宿主NMDハイジャックと細胞腫瘍化との関わり
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24501304
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中野 和民 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (60549591)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邉 俊樹 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (30182934)
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Keywords | ウイルス発がん |
Research Abstract |
<テーマ1. Rexの変異体を用いたNMD抑制機構の解明> これまでに作成したRexの欠損変異体に加え、2つの多量体化ドメインや安定化ドメイン、未だ機能の解明されていない二つの領域についても欠損変異体を作成し、NMD阻害効率との関係を網羅的に検討した。その結果二つの機能未知領域のうち、N末に近い領域がよりNMD抑制機能に深い関わりを持つ事が見出された。 <テーマ2. Rexのレンチウィルス発現系の構築とT細胞株への導入>Rexの恒常的発現には、レンチウイルスによる発現よりもレトロウイルスによる発現のほうが、より効率的であることが分かった。そこで、T細胞株CEMにレトロウイルス発現系によりRexを発現させ、遺伝子発現プロファイルの変化を遺伝子発現マイクロアレイによって解析した。その結果、約9000個の遺伝子発現パターンが、コントロール細胞に比べ有意に変化していること、そのうち85%の遺伝子発現が低下していることが分かった。これにより、ウイルスのRNA輸送が主な機能と考えられていたRexが、宿主細胞の恒常性により広い範囲で影響を与えている可能性が示唆された。 <テーマ3. HTLV-1の無細胞感染系の確立とヒトT細胞への感染実験>これまで、HTLV-1ウイルス粒子のドナーとして、HTLV-1感染細胞株MT-2を使用してきた。しかしながら、MT-2ゲノム内には、10コピーのHTLV-1が存在し、そのうちのほとんどがウイルスゲノムの一部を欠損しているため、そこから産生されるウイルス粒子も不完全なものが含まれるという欠点があった。そこで、Dr. Lee Ratner( Washington Univ.)よりHTLV-1感染プラスミドpACHを分与頂き、293FT細胞にこのプラスミドを導入することにより、単一かつ完全なHTLV-1ウイルス粒子の産生を可能にする実験系の構築を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各テーマとも、H25年度は、当初目標としていたところまで概ね到達し、最終年度での到達目標が明確になった。 テーマ1では、H24年度にはRexのC末端にある安定化ドメインを欠損する形で変異体を設計すると、細胞内での発現量が非常に低くなり、NMD活性を測定するアッセイにおいて信頼できるデータが得られない、という欠点があった。H25年度には、Rexタンパク質の安定化に関わる領域が、これまで報告のあったC末端部分よりも、より上流に広がっていることを明らかにするとともに、この部分を段階的に欠損させることにより、Rexの安定性を損なわない変異体の作成に成功した。これらのRex変異体を用いて、NMD抑制能との関係を検討した結果、安定化に関わる部位は、NMD抑制能には影響を及ぼさず、よりN末端側に近い部分がNMD抑制能に関わっていることが分かった。 また、テーマ2では、レンチウイルス発現系の代わりにレトロウイルス発現系を用いることにより、RexをT細胞株に恒常的に発現させることに成功した。これによりRex発現T細胞株での遺伝子発現プロファイルデータを取得することができ、Rexによる宿主細胞への影響を網羅的に解析する環境が整った。 さらにテーマ3では、すでにHTLV-1ウイルス粒子の効率的な回収方法は確立されていたが、高効率にHTLV-1ウイルス粒子を産生可能な、HTLV-1感染プラスミドの導入により、より単一かつ完全なウイルス粒子の安定的な発現が可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では、各テーマでのまとめと結論への到達を目指し、以下の通りに研究計画を立てた。 <テーマ1:Rexの変異体を用いたNMD抑制機構の解明>これまで、主にRexのN末側の領域が、NMDの抑制機能に重要な働きを果たしていることが明らかになった。一方で宿主細胞のどのような因子と相互作用することにより、RexがNMDを抑制しているのかは、不明な点が多く残されている。そこで本年度は、Rexに結合する宿主因子を同定することを目標に実験を行う。具体的には、His-Halo-Rex発現プラスミドを作成し、293T細胞において強制発現し、生理的な条件化でHisタグとHaloタグによる二重精製を行い、精製されたRexタンパク質と共沈してくる細胞内因子をMS解析によって同定する。また、これまでに作成した各種欠損変異体ついても、同様の解析を行い、特にNMD抑制に重要と考えられるN末側の機能未知領域に結合する宿主因子を同定する。 <テーマ2: Rexのレンチウィルス発現系の構築とT細胞株への導入>Rexの強制発現による遺伝子発現パターンの変化をより詳細に解析し、Rexが影響を及ぼす細胞内経路を絞り込む。さらにRexによって、実際にそれらの細胞内経路の活性が影響を受けているか、その結果細胞の恒常性にどのような影響が現れるのか、実験的に検証する。 <テーマ3:HTLV-1の無細胞感染系の確立とヒトT細胞への感染実験>HTLV-1感染プラスミドpACHは、recombinationを起こしやすいため、まず大腸菌での大量調整を安定的に行える系の確立を目指す。その後得られたpACHを293FT細胞にリン酸カルシウム法によって導入し、HTLV-1ウイルス粒子を発現させ、細胞上清をHTLV-1-LTRレポーターを恒常的に発現しているJurkat細胞の培養液に添加し、感染性のウイルス粒子が産生されているか確認する。
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Research Products
(3 results)