2014 Fiscal Year Research-status Report
オリゴ糖に着目した海水中の低分子溶存有機物の動態の解明
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24510013
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
宗林 留美(福田留美) 静岡大学, 理学研究科, 准教授 (00343195)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | オリゴ糖 / 海洋生態系 / 生元素循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
糖は、海水中で定量された有機物の中で量的に最も重要な成分である。海洋における糖の動態は、主に海洋生物により駆動されていると考えられており、中でも低次生産者はそのバイオマスの高さと増殖速度の高さから、オリゴ糖の主要生産者であり、消費者として機能している可能性が高い。そこで、本年度は、海水中でのオリゴ糖の動態に関与し得る生物に関する基本的な情報を収集する目的で、低次生産者の季節的な分布の変動を駿河湾で調査した。駿河湾の湾奥部と湾中央部にそれぞれ定点を設け、東海大学海洋学部の練習船に乗船して海面から深度500mまでの海水を毎月採取し、植物プランクトンのバイオマスの指標であるクロロフィルa濃度と、微生物食物連鎖の最上位に位置する繊毛虫類の個体数を調べた。その結果、8月に最もクロロフィルa濃度の積算値が高く、表層の繊毛虫数が多かった。また、秋季の湾奥では、無光層である深度200mにおいて、クロロフィルa濃度が顕著な極大をとり、植物プランクトンの主要栄養分である硝酸イオン濃度が極小をとるという、これまでに報告例のない変わった現象が見られた。秋季の湾奥では、深度200mにおける繊毛虫数が他の時期より多かったことから、無光層であるはずのこの深度で一次生産や捕食活動といった低次生産活動が活発化していた可能性が考えられる。駿河湾には深度400m付近に塩分極小層が存在し、亜寒帯に起源を有する北太平洋中層水との関連性が知られている。湾央の塩分極小層では、その上下に設けた直近の採水層である深度200mと500mと比べて、繊毛虫数が常に高かった。クロロフィルa濃度と繊毛虫数の分布は、オリゴ糖の分布により影響を受けている、または、オリゴ糖の分布に影響を与えている可能性が考えられることから、今年度に得られたこれらの知見は中層でのオリゴ糖の分布解明の重要性を示唆し、次年度の観測計画を考える上で有用である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
糖の分析は、高性能イオン交換クロマトグラフィーとパルスドアンペロメトリを組み合わせた分析法(HPAE-PAD)が最も高感度であるが、海水中の糖を分析する際は、PADによる糖の検出を塩が妨害するため、前処理として脱塩操作が必要である。海水中の結合態糖を加水分解してHPAE-PADにより分析した先行研究では、脱塩の方法として、キレートイオン交換樹脂を使用した固相抽出が多く採用されている。しかし、キレートイオン交換樹脂では酸性糖を回収できないため、本研究では先行研究とは異なる樹脂を使用し、市販の固相抽出用マニホールドと減圧ポンプを組み合わせて樹脂に海水を送液したが、この方法では送液速度の再現性が悪く、オリゴ糖の測定精度を悪くする可能性があることが判明した。そこで、固相抽出用マニホールドにとりつける調圧弁や、自動固相抽出装置の使用も含めて樹脂への海水の送液方法を検討した結果、送液速度の設定範囲が広く、操作が簡便で、装置部の洗浄が不要なことから、シリンジポンプを採用することとした。しかし、複数の種類の二糖を海水にごく少量添加し、シリンジポンプまたは自動固相抽出装置を用いて固相抽出による添加した二糖の回収率を調べたところ、パラチノースとマルトースの回収率が顕著に低いことがわかった。また、脱塩操作で使用した溶媒を蒸発するために前年度に導入したRapidシステムにおいて、温度の保持と表示機能に不具合が見られ、メーカーの協力を仰いで装置の改良を行うとともに、設定温度と使用時間を変更した。今年度は、前処理操作の問題点の特定と解決に時間を要し、計画通りに研究が進まなかった。しかし、次年度は今年度に得た知見を元に研究を推進できると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に行った駿河湾の調査結果を踏まえ、駿河湾におけるオリゴ糖の鉛直分布とその季節変動を調査する。オリゴ糖の生産過程については、光合成に影響を与える要素として二酸化炭素に注目し、二酸化炭素分圧を変えて珪藻を培養して培養液中の二糖濃度を調べることで生産される二糖の量およびその組成に対する二酸化炭素の影響を考察する。一方、オリゴ糖の利用については、海水中のオリゴ糖の組成の違いが、原核生物やその補食者である繊毛虫類などの原生生物の分布に影響を与える可能性について、二糖を中心に調査する。
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