2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24510022
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
内田 雅己 国立極地研究所, 研究教育系, 准教授 (70370096)
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Keywords | 物質循環 / 南極 / 生態系 / 多様性 |
Research Abstract |
昭和基地周辺の露岩域において、コケの腐植部分に生育する菌類を広域に調査した。コケの腐植部分の菌類については、分離したのち真菌分離株のDNAを菌糸体から抽出し、rDNAのITSと28S領域を増幅した。分離株は99%の塩基配列の相同性に応じて、分子操作的分類単位(MOTUs)に分類した。単離した菌は24 MOTUsに分類された。Phoma herbarumは最も高頻度で分離され、総数の49%を占めた。MOTUリッチネスとP. herbarumの発生に影響を与える要因を解析したところ、MOTUリッチネスは、コケのコロニーサイズが小さくなると著しく低下した。一方、P. herbarumは塩湖付近で発生頻度が高いことが明らかとなった。 南極昭和基地周辺のラングホブデにある雪鳥沢は水が集積して流れを形成しているため、他の地域と比較すると植物が多く中流域にはユキドリが営巣している。この沢の上流域から下流域にかけて植物と土壌を採取し、全炭素・全窒素を分析した。また、土壌についてはATPを指標とした微生物バイオマスの測定を実施した。植生の認められない土壌では、炭素濃度は1%未満、窒素濃度は0.1%未満と著しく低い値を示し、微生物バイオマスも極めて低い値を示した。一方、植生の認められる場所では地表面付近で40%前後の炭素濃度および1%前後の窒素濃度が認められたが、有機物層直下の鉱質土層では両濃度とも著しく低下する傾向が認められ、炭素、窒素共に植生の付近に集中して濃度が高いことが明らかとなった。また、植生および土壌の窒素濃度はユキドリの営巣地付近で高い傾向が認められた。窒素安定同位体比は藻類とコケとで値が大きく異なる傾向が認められており、今後ユキドリの影響も含めた解析を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
土壌分解系の主要な役割を担っている菌類については、予定以上のサンプルについて分析および解析が進み、それぞれの生態系における群集構造が明らかにできた。さらに環境との関係解析を進めることもでき、多様性や個々の菌と環境との関係性を明らかにすることができた。一方、雪鳥沢の生態系については、土壌炭素・窒素堆積量や安定同位体比、微生物バイオマスのデータが得られつつある。安定同位体比分析により、コケと藻類では窒素源が大きく異なる可能性が示唆されるなど、生態系の多様性に関するデータを着実に蓄積している。
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Strategy for Future Research Activity |
炭素・窒素濃度分析、安定同位体分析、微生物バイオマス分析等の分析を他の露岩域の生態系についてもさらに進めていく。腐植部分の放射性炭素安定同位体の測定を実施し、炭素の蓄積速度等に関する推定を実施する。得られたデータを解析し、南極露岩域に存在する生態系の構造を比較する。植生と土壌微生物のバイオマスや組成と水環境、栄養塩環境との関係解明を目指す。また、生態系の植生が利用している栄養塩の源についても明らかにする。以上から南極露岩域に成立する生態系の共通性や異質性を解明し、生態系の多様性について評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度実施予定であった放射性炭素同位体分析の実施について、特任研究員を確保できなかったために次年度に見送った。そのため、分析費用と謝金を執行できなかったことが大きく影響している。 次年度では、特任研究員が確保できるため、放射性炭素同位体分析を実施する。それにより、分析費用および特任研究員雇用のための謝金が発生する。
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Research Products
(5 results)