2012 Fiscal Year Research-status Report
風力発電施設によるオジロワシ個体群への影響の評価と悪影響軽減に向けた基礎的研究
Project/Area Number |
24510037
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
白木 彩子 東京農業大学, 生物産業学部, 講師 (20434011)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / ロシア / 風力発電 / 風車衝突事故 / オジロワシ個体群 |
Research Abstract |
本研究は1)風力発電施設がオジロワシ個体群にもたらす影響を評価する上で、適切な対象集団を決定すること、2)オジロワシの風車衝突率を推定し、衝突事故の発生条件を明らかにすること、を主な目的としている。平成24年度は、目的1)については極東地域に生息するオジロワシ個体群の遺伝構造を明らかにするために、DNA試料の採集および遺伝子型判定を行った。ロシアで採集されたものも含め188試料を収集し、このうち130試料についてはミトコンドリアDNA調節領域540bpの塩基配列が、94試料については17種類のマーカーを用いたマイクロサテライトDNAの遺伝子座がそれぞれ決定された。ミトコンドリアDNAでは北海道内で11種類のハプロタイプが確認され、ロシアの繁殖地ではこのうちの3種類のみが確認されていることから、北海道に独特のタイプが存在する可能性がある。また、繁殖地域間における遺伝的分化係数(Fst)から、北海道内には遺伝的に異なる複数の局所集団の存在する可能性が示唆された。さらに、近年の営巣情報がほとんどないロシア沿海州地域におけるDNA試料の採集に向け、当該地域で巣を探索し、2ヶ所の営巣と複数の潜在的な営巣地を確認した。 目的2)においては、北海道北部日本海側にある風力発電施設3ヶ所で、6月から3月までに月一回の鳥類の死骸探索調査および鳥類の飛翔行動調査を行うとともに、オホーツク海側の一施設で11月から3月まで同様な調査を行った。また、Kitano&Shiraki(2013)の衝突率推定モデルでは、補正値の一つである死骸残留率は非積雪期のデータから導かれたものであったが、季節変化が大きく影響する可能性が考えられたため、積雪期に死骸消失実験を実施して残留率を算出した。その結果、非積雪期に比べ早期の消失率が著しく高いことが明らかになった。今後はこの結果を挿入して改善したモデルを提唱する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していたロシア国サハリンおよびマガダン地域におけるオジロワシDNA試料のサンプリングは、ロシア人研究協力者の都合により延期となったが、新規調査地としてロシア国沿海州地域においてオジロワシの巣の探索および巣の周辺における羽サンプルの採集を実施した。ロシア繁殖地域におけるDNA試料の採集およびその解析がやや遅延しているものの、おおむね順調に進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
目的1)においては引き続き、ロシアの主要な繁殖地域を中心とした営巣地で、DNA試料となる羽の回収および巣内雛からの血液採取を行い、極東地域全体におけるオジロワシの遺伝構造を明らかにする。さらに国内の風車衝突事故によるオジロワシの死骸からDNAを抽出し、各個体の出生地域の特定を試みる。変更点としては、当初はロシアの繁殖地で採集したオジロワシのDNA試料を日本で解析するために、ワシントン条約による輸出入許可を申請する予定であったが、手続きが煩雑なことから、ロシアの試料については新たな研究協力者となったモスクワ大学のV.Alexandrov博士に解析を実施して頂く予定である。 目的2)については平成25年5月まで北海道内の4ヶ所の施設で死骸探索調査と鳥類の飛翔行動調査を継続するほか、融雪期の4月から5月には北海道内の10ヶ所以上の施設で死骸探索調査を実施する。また、現地調査結果に基づく新たな補正値の挿入により、Kitano&Shiraki(2013)による衝突率推定モデルを改善し、死骸探索調査の結果を用いて推定衝突率を算出する。そしてその推定値と、現地調査や地図情報、航空写真、気象庁アメダスデータなどから得た各風車の立地地形や景観、風況データ、餌資源の分布などの潜在的な衝突要因因子との対応関係を解析して衝突事故の生じやすい立地特性を明らかにする。また目的2)における変更点として、当初は11月から5月の積雪期に10ヶ所程度の風力発電施設で毎月死骸探索調査を実施する計画であったが、この時期の現地調査は悪天候に阻まれ、多雪により風車周辺の探索歩行も困難であったことから計画を見直した。その結果、この調査の対象施設を4ヶ所に絞り、死骸が最も発見されやすくなる融雪期(4-5月)に、北海道全域にある10ヶ所以上の施設で死骸探索調査を行うこととした。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該研究費が生じた主な要因は、予定していたロシア国サハリンおよびマガダン地域におけるDNA試料のサンプリングが、ロシア人研究協力者の都合により実施できなかったことである。そのため、平成25年度以降にこれらの地域を含めたロシアの主要な繁殖地域でサンプリングを実施する。なお、研究代表者が現地調査に同行することが困難な場合は、ロシアの各繁殖地域におけるサンプリングの一部はロシア人研究協力者に委託する。研究費の多くはこれらのロシア国におけるサンプリングおよび北海道におけるDNA試料のサンプリングを兼ねた死骸探索調査等の旅費と、DNA解析実験の消耗品として使用する予定である。
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Research Products
(6 results)