2013 Fiscal Year Research-status Report
風力発電施設によるオジロワシ個体群への影響の評価と悪影響軽減に向けた基礎的研究
Project/Area Number |
24510037
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
白木 彩子 東京農業大学, 生物産業学部, 准教授 (20434011)
|
Keywords | 風車衝突事故 / 遺伝解析 / ロシア / 国際研究者交流 / 立地特性 |
Research Abstract |
1 北海道において風車に衝突死したオジロワシの由来(ロシア極東地域で繁殖する渡り鳥か北海道産の留鳥か)を、遺伝子型から特定することを目指し、カムチャッカ半島やアムール川下流域などの繁殖地で羽などのDNA試料を採集した。ミトコンドリアDNA調節領域の塩基配列を決定したところ、北海道で主要なタイプと同様なハプロタイプが多かった。一方、越冬期に北海道北部地域で風車衝突事故により死亡したオジロワシのミトコンドリアDNAは、当該地域で繁殖している集団のハプロタイプの出現頻度と類似した。北海道北部地域のオジロワシでは他の地域で確認されていない固有のハプロタイプの頻度が高く、今回解析したロシア産の個体にもこのタイプはみられていない。したがって、風車に衝突死したオジロワシには北海道北部地域産の留鳥が多く含まれている可能性が考えられた。 2 本研究や既存研究で定期的な鳥類の死骸探索調査が実施され、衝突事故の発生状況がある程度正確に把握されている北海道日本海側の風車群を対象とし、衝突事故の発生しやすい風車の立地条件を明らかにするための解析を試みた。対象とした各風車周辺の立地特性を表す指標値のうち、鳥類の衝突事故が確認された風車と確認されていない風車とで有意差のあったものを説明変数とし、事故の有無を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。ただし今回は対象となる風車数が少ないため、複数の説明変数を用いた解析はできなかった。オジロワシではモデルの精度を表すAUCが0.7以上(妥当以上の精度)の説明変数が8つあり、これらのうち赤池情報量規準(AIC)による適合度が最も高かったのは海からの距離で、その他に風車周辺の急傾斜地の面積や斜面の多様度に関わる変数の適合度が高かった。また、これらの解析はオジロワシの他5種の中大型鳥類を対象として行い、適合度の高い説明変数は種によって異なった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ロシア産オジロワシ個体のDNA解析がやや遅れている。ロシア産個体のDNA試料はCITES等の許可を取得して日本で実験を行う予定であったが、許可の取得準備に手間取ったことなどから、今回はモスクワ大学に在籍するロシア人研究協力者が実施することになった。採集したロシア産試料の解析実験は既に実施されているが、ミトコンドリアDNA解析では塩基配列が決定できていない試料があり、マイクロサテライトフラグメント解析ではPCR増幅ができていない遺伝子座があるため、解析のために十分なデータが揃っていない。 一方、当初の計画では平成24年度に実施する予定だったサハリンで繁殖するオジロワシのDNA試料の現地サンプリングは、調査地域おける油田開発事業の影響やロシア人研究協力者の都合により平成25年度も実施できなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
ロシア産個体のDNA解析実験は、平成26年度もロシア人研究協力者がモスクワ大学で継続する。実験の一部がうまくいっていない理由は現在のところ不明であるが、もし夏までに良好な成果が得られなかった場合はモスクワ大学に赴き、日本で成功しているのと同じ条件で実験を試みる。また、試料が入手できていないサハリンの繁殖集団については、平成26年度にロシア人研究者に同行して現地で採集を行う予定にしているが、もしこのサンプリングが実施できなかった場合には、ロシア国内の博物館等に所蔵されているサハリン産オジロワシの剥製の羽等をDNA解析試料として提供してもらえるよう、研究協力者に依頼している。 一方、衝突事故の発生した風車の立地特性の解析では、説明変数として選択された地形条件に関わる指標以外に、関わりのありそうな鳥類の生息状況や生息環境に関する変数を作成して解析を試みる。そのため、風力発電施設周辺において鳥類の飛翔状況や採餌場などの現地調査を追加して実施する。また、平成25年度の解析で説明変数として適合度の高かった指標が他地域でも適用可能かどうかは不明であり、環境の異なる地域では別の変数が必要である可能性も考えられる。そのため、他地域の風車群を対象とした解析も実施する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、日本国内で実施予定だったロシア産個体のDNA解析実験をモスクワ大学で行うことにしたため、実験のために見込んでいた消耗品費等を使用しなかった。また、サハリンに渡航してDNA試料を採集する予定であったが実施できなかったため、旅費や調査協力者への謝金予算を使用しなかった。主に以上の理由から繰越額が生じた。 平成26年度の当初予算として見込んでいた国内の現地調査や学会参加等のための旅費、論文投稿料等のための50万円は予定通り使用する。それ以外に、平成25年度までに実施できなかったサハリンにおけるDNAサンプリングにかかる旅費や調査協力者への謝金として30万円程度の支出を見込んでいる。また、平成26年度に風力発電施設周辺の鳥類の飛翔状況や生息環境の調査を追加実施する必要性が生じ、その調査の一部を委託するために35万円を使用予定である。さらに、過去に回収された死骸も含め国内で風車に衝突したオジロワシのDNA解析を実施するために、シーケンスの委託費や実験に関わる消耗品費で20万円程度が必要である。したがって、前年度からの繰越金約85万円も全額使用予定である。
|