2012 Fiscal Year Research-status Report
原発由来等のトリチウムが生体に及ぼす影響解明のための定量評価法の構築
Project/Area Number |
24510067
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
今泉 洋 新潟大学, 自然科学系, 教授 (80126391)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
狩野 直樹 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (00272857)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 水素同位体交換反応 / 速度論的反応解析 / 速度定数 / トリチウム / 実態分析 / トリチウム動態 |
Research Abstract |
24年度は主に、生体付近の温度における水素同位体交換反応(T-For-H交換反応)を、再現性良く定量観測できるための手法を見いだす実験を行なった。そのため、既設の真空ラインを全て真空コックにし、ライン中の接続も短くし、ラインの曲がりも最小限にするなど、温度管理やHTO蒸気のスムースな移動に重点を置いた改良を行った。その結果、低温観測を重視したラインに改良できた。さらに、低温付近の温度維持用のインキュベータ(恒温恒湿器)を導入した。これらを用いることで、今までは困難だった低温(30℃付近)の反応観測ができるようになった。特に、これまでは、低温ではHTO蒸気のラインへの付着や試料への吸着が主な原因で、測定結果にばらつきが生じることが多かったが、そのようなことは起こらなくなった。その結果、これまでよりも環境や生体の温度に近い雰囲気下で、トリチウムの挙動を速度論的・実態的に精度よく観測できるようになった。これらを用いて得られた観測結果を、国内の学会で発表し、その結果を基に英文誌に投稿し、掲載された。 さらに、我々の開発した疑似地下浸透水採水装置を使って、1ヶ月毎の降水採取を継続した結果、降水中のトリチウム濃度や各イオン濃度の分析から、新潟市のような季節風の影響を強く受ける地域では、晩秋から春にかけて、降水中のカルシウム濃度とトリチウム濃度との間に強い相関関係があることを明らかにできた。このことは、トリチウムやカルシウムなどが大陸からどのように移動してくるかが推定でき、気団動態を踏まえた今後の予測に大きく役立つことがわかった。また、福島第一原発事故後の影響について、新潟大学工学部屋上(新潟市)で観測されたデータから、トリチウムに関する影響はほぼ通常の観測レベルに戻っていることも明らかになった。以上のことを、国内の学会や国際会議で発表し、その結果を英文誌に投稿し、掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
24年度は、水素同位体交換反応を、低温付近で観測するために、真空ラインの改造を行った。さらに、低温付近の温度維持用のインキュベータ(恒温恒湿器)を導入した。その結果、今までは困難だった低温(30℃付近)での反応観測が再現性良く定量的にできるようになった。 以上により、これまでよりも環境や生体の温度に近い雰囲気で、トリチウムの挙動を速度論的・実態的に精度よく観測できるようになり、実績も上がり、これまでに国内の学会での口頭発表や国際誌での誌上発表を行うことができた。 さらに、疑似地下浸透水採水装置を使って、1ヶ月毎の降水採取を継続した結果、降水の分析結果から、新潟市における降水の特殊性を定量的に明らかにすることができた。特に、降水中のカルシウム濃度とトリチウム濃度との間に強い相関関係があることを明らかにした。このことは、新潟市のような季節変動を大陸から直接受けやすい地域の特殊性と考えられる。この結果は、今後の気団動態変化の予測に大きく役立つことがわかった。以上を国内の学会や国際会議で発表し、その結果基に国際誌で誌上発表することができた。 これらの結果から、本研究は、「(1)当初の計画以上に進展している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、主に、以下の2つについて観測を行う。 (1) 24年度で得られた結果に基づいて、比較的高温に強い恒温インキュベータを設置し、水素(H)を含む複数の官能基をもつ各種アミノ酸を使って、50~90℃でのH-for-H型交換反応の観測を反応時間を変え行うことと生体温度付近での観測とを平衡して行い、この反応により各物質が得たTの放射能を計測する。このようにして得られた観測データを基に、以前発表した解析プログラムで解析し、各試料物質の速度定数を得る。 (2) 疑似地下浸透水採水器を使って採水した降水中のトリチウム濃度測定を継続して行い、環境中のトリチウム濃度変化を追究することで、福島原発事故におけるTの影響を定量評価する。 以上の研究から得られた結果を基に、生体付近の温度でトリチウムが生体に及ぼす影響についての定量評価を行い、Tの放射線加重係数推定法の構築とこの方法の妥当性や応用性について総括する。さらに、1時間毎の降水を採取し、各イオンやトリチウム濃度を測定することで、季節風や気団、台風の影響をある程度予測できる可能性について追究する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度で得られた結果に基づいて、比較的高温に強い恒温インキュベータを導入し、水素(H)を含む複数の官能基をもつ各種アミノ酸を使って、50~90℃でのH-for-H型交換反応の観測する。この結果と生体温度付近での観測とを平衡して行い、この反応により各物質が得たトリチウムの放射能を計測する。このようにして得られた観測データを基に、以前発表した解析プログラムで解析し、各試料物質の速度定数(k)を得る。このk を、以前得られたものと相互比較し、実験に供した種々のアミノ酸のトリチウム取り込みの難易を定量比較し、成果を学会等で発表する。そのための試料購入や旅費などに使用する。 さらに、降水の採水を継続し、福島第一原発事故後の影響の推移を評価する。また、1時間毎の降水を採取し、各イオンやトリチウム濃度を測定することで、季節風や気団、台風などの影響の予測の可能性を探る。そのための採水装置作成費として使用する。さらに、福島県の湖沼などで水や堆積泥などを採取し、原発事故が環境に与える影響の推移を、現場からの採取物の放射能から推定する。従って、そのための採取器具や旅費などに使用する。 また、学会誌などへ投稿したときの別刷り代などにも使用する。
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Research Products
(14 results)