2012 Fiscal Year Research-status Report
次世代シーケンサーを用いた放射線のラット未熟卵母細胞に及ぼす遺伝的影響評価
Project/Area Number |
24510079
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Radiation Effects Research Foundation |
Principal Investigator |
佐藤 康成 公益財団法人放射線影響研究所, 遺伝学部, 研究員 (30393424)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小平 美江子 公益財団法人放射線影響研究所, 遺伝学部, 室長 (60344412)
浅川 順一 公益財団法人放射線影響研究所, 遺伝学部, 主任研究員 (10359458)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 次世代シーケンサー / 放射線継世代影響 / 女性被曝 / 突然変異 |
Research Abstract |
本研究では、ヒト女性における放射線被ばくの継世代リスクを解明するためのモデルとして、放射線照射した母ラットから産まれたF1ラットと非照射の母ラット由来のF1ラットの全ゲノムシーケンスを行うことで、放射線によって誘発される新規の突然変異の頻度とスペクトラムを明らかにしようとした。 しかし、同時期に行っていた、放射線照射されたラット未熟卵母細胞から産まれたF1ラットを2次元電気泳動法で解析した研究では、被曝群と対照群の間に放射線の影響を示す証拠は得られなかったので、同じ生物試料を用いる予定だった本研究においても放射線の継世代影響を示すことは難しいと考えられた。 1950~60年代にRussellらによって行われた実験では、マウス成熟卵母細胞に放射線照射して産まれたF1は、マウス精原細胞への照射後に産まれたF1より突然変異率が高いこと、並びに、マウスのゲノムデータベースがラットのものよりも質量共に充実していることなどから総合的に判断して、用いるモデル動物をラットからマウスに変更し、放射線照射を行う対象も未熟卵母細胞から成熟卵母細胞へと変更することにした。マウス成熟卵母細胞へと放射線照射を行い、その後すぐにオスと交配させて産まれたF1マウスと、照射前に同じオスと交配させて産まれたF1マウスを全ゲノムシーケンス法で解析し、検出された多型を親子で比較する。親にはなくF1にのみ観察される変異を新規突然変異とし、照射前に産まれたF1と照射後に産まれたF1の間で突然変異の頻度とスペクトラムを比較する。未熟卵母細胞から成熟卵母細胞へと対象を切り替えたことで、ヒト女性被曝の継世代影響に関する動物モデルとしては、一部分のみの情報となるが、生殖細胞の継世代影響について次世代シーケンサーを用いた評価はこれまでにないものである。現在、放射線医学総合研究所と共同でマウスの飼育、放射線照射、交配を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の申請と同時期に行っていた2.5Gy照射未熟卵母細胞に由来する750匹のF1ラットと同数の対照群F1の脾臓DNAについての2次元電気泳動解析から、照射群に18個、対照群に35個の突然変異が検出された。これらの殆どは マイクロサテライトの反復数が変異したもので、放射線で主に引き起こされると考えられている遺伝子欠失は照射群で3個、対照群で2個しか検出されなかった。照射群の3個のうち、2個の欠失突然変異はオス親由来であり、メス被曝による放射線の影響は認められなかったことから、同じ生物試料を用いる予定だった本研究においても放射線の継世代影響を示すことは難しいと考えられる。 過去の研究では、マウス未熟卵母細胞が放射線に対して細胞死の感受性が高く、0.5Gyの照射により90%以上もの細胞が死滅するのに対し、照射したマウス成熟卵母細胞由来のF1は、マウス精原細胞へ照射した後に産まれたF1より突然変異率が高いことが報告されている。並びに、マウスでは、主な純系のマウスについて全ゲノムシーケンスのデータとSNVやINDELの情報が既に公開されており、マウスのゲノムデータベースはラットのものよりも充実している。これらのことから総合的に判断して、用いるモデル動物をラットからマウスへと変更することにし、放射線照射の対象を未熟卵母細胞から成熟卵母細胞へと変更することとした。 このため、本実験では新たにマウスの飼育、放射線照射、交配を行っており、当初の計画よりもその進捗状況は遅れている。未熟卵母細胞から成熟卵母細胞へと対象を切り替えたことで、ヒト女性被曝の継世代影響に関する動物モデルとしては、一部分のみの情報となるが、生殖細胞の継世代影響について次世代シーケンサーを用いた評価はこれまでにないものであり、この変更は有意義である。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒト女性の放射線被曝による継世代リスクの解明のために用いるモデル動物を、当初計画していたラットからマウスへと変更することにし、放射線照射を行う対象を未熟卵母細胞から成熟卵母細胞へと変更する。メス親にC57BL/6、オス親にC3Hを用いることとした。C57BL/6はマウスゲノムプロジェクトで解析された系統であり、C3Hも全ゲノムシーケンスのデータ、並びにSNV、INDELの情報が公開されている。 放射線照射された成熟卵母細胞からF1を得るために、メス親C57BL/6の成熟卵母細胞に4Gyγ線を照射した後すぐにオス親C3Hと交配させる。メスの妊娠を確認後、産まれてきたマウスを放射線照射された成熟卵母細胞由来のF1とした。照射前にメスを同じオスと交配させて産まれたF1を対照群とした。成熟卵母細胞由来のF1マウス2匹と、対照群のF1マウス2匹並びにその両親の脾臓より抽出したDNAを用いる。500bpサイズのDNA断片から成るゲノムライブラリーを作成し、イルミナHiseq2000により90bpのペアエンド法で全ゲノムシーケンスを行う。得られた塩基配列データをBWAでマッピングし、Samtoolsによりbamファイル作成を行う。GATKによるローカルリアライメントを行った後に、SNVs、indelsの抽出を行う。また、他の最適なプログラムにより、CNV、ゲノム構造異常の検出を行う。F1マウスにのみ検出されるが親マウスには見られないDNA多型を新規の突然変異とする。サンガー法による検証を行い、突然変異率を推定する。照射前と照射後のF1に観察される新規の突然変異の頻度とスペクトラムの解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の予定では、放射線照射された未熟卵母細胞由来のF1ラットのシーケンスを今年度に行う予定であり、イルミナHiseq2000による全ゲノムシーケンスにかかる費用に対して今年度の研究費を使用する計画であった。しかし、上述のように、女性被曝のモデルをメスラットからメスマウスへと変更し、新たに飼育、放射線照射、交配を行っているため、全ゲノムシーケンスを次年度に行うことにした。このため、次年度使用額については、この次年度に行うマウスF1の全ゲノムシーケンスにかかる費用に対して使用する予定である。
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