2012 Fiscal Year Research-status Report
ダイオキシンによるSp1転写因子の脱リン酸化を促進するカスケード因子の同定
Project/Area Number |
24510081
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
菊池 英明 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (60006111)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ダイオキシン / ダイオキシン受容体 / Sp1 / PP2A |
Research Abstract |
ダイオキシンが、哺乳動物に示す様々な毒性機構は、重要な研究領域であるにもかかわらず、研究が遅れている。 しかしながら、AhRの標的遺伝子CYP1A1の転写開始近傍の転写因子と、AhRとの関係は明らかになっていなかった。この制御領域には、Sp1が結合することがわかっていたが、転写誘導が起こる前のSp1は、リン酸化されていることが明らかになった。そこで、リン酸化されていたSp1-Ser59の脱リン酸化は、Sp1の転写活性化能を上昇させることが報告されていることから(Juang et al. 2011)、ダイオキシンが何らかのホスファターゼを活性化する可能性が出てきた。ヒトHepG2細胞を用いたEMSA法で、既にBTE配列にSp1が結合していることを示しており(Sasamori, 2004)、BTE配列にSp1とHDAC1が複合体を形成して結合していることをSp1の抗体を用いたクロマチン免疫沈降法(ChIP)により明らかにできた。また、ダイオキシン投与後の転写開始前後には活性型Sp1(Ser-59が脱リン酸化型)になっていること、Re-ChIPアッセイ法によりCREMとCBPが相互作用していることも明らかにした。 そこで、どの分子種のホスファターゼがSp1のSer-59のリン酸基を脱リン酸化しているか明らかにする実験を行った。Sp1のリン酸基を脱リン酸化するホスファターゼとしてPP2Aが報告されているので(Juang et al.)、特異的阻害剤であるオカダ酸による処理で、Sp1のリン酸化を特異抗体で検出すると、ダイオキシン処理をしても脱リン酸化が起きていないことが明らかとなった。この時のCYP1A1-mRNAの発現をRT-PCR法によって定量すると、大きな減少が見られた。 さらに、siRNAによりPP2Aのノックダウンを行い、上記と同様の方法により検定し同様の結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画のホスファターゼの同定は、オカダ酸とPP2Aのノックダウン法で行う計画であった。この方法により、Sp1-Ser-59を特異的に認識する抗体を米国のグループから分与してもらうことができたため、Sp1のリン酸化状態を直接的にウエスタンブロット法で確認できた。さらに、転写活性化をルシフェラーゼアッセイ法で検討する予定であったが、本研究費でリアルタイムPCR装置を購入することができたので、CYP1A1-mRNAを、RT-PCR法を用いることにより、直接的に定量することができた。 ダイオキシンからのシグナルがどのようにPP2Aにシグナル伝達されているかに関しては、AhR依存的におこっているのか、非依存的であるかを、AhRのノックダウン法を用いることによって明らかにした。AhRのノックダウンによっても、ダイオキシンからのシグナルはSp1に伝達され、PP2Aにシグナルを伝達する因子の存在が強く示唆された。 このことは、当初Pin1がホスファターゼの上流に存在する可能性を考え、この計画に加えておいたことと合致している。さらに、Pin1がダイオキシンからのシグナル伝達に関与するという状況証拠は、Pin1の阻害剤として用いられているjugloneによって、CYP1A1の誘導が阻害されることを明らかにした。現在、Pin1のノックダウンによって、この現象の確認を行っているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
ホスファターゼPP2Aが、Sp1-Ser-59を脱リン酸化していることが明らかになったので、ダイオキシンからのシグナルが、どのように特定部位のSp1を認識するのかという問題を2つの方向から明らかにしていく。 1) Ser-59リン酸化型Sp1の配列は、Pin1 (Phosphorylation-dependent prolyl isomerase)が認識するSer/Thr-Pro配列を持っており、Proのcis-trans変換により、ホスファターゼの基質としての特異性を変化させている可能性がある(Liou et al. 2011)。Pin1による抗体を用いたChIPアッセイ法(Shibazaki, 2004)でSp1との結合を検討する。 2) PP2Aの活性は、多種類のサブユニットにより制御されている。CYP1A1の誘導発現が、Ca2+キレート剤で阻害されるという実験結果から、核内に存在が確認されており、HepG2細胞で発現が確認されているCa2+要求性のB"beta(PPP2R3B9)あるいはB”gamma(PPP2R)をノックダウンすることにより、その制御サブユニットを同定する。 これらの実験により、ダイオキシン受容体が転写因子として活性化される過程で、それまでサイレンシングされていた標的遺伝子CYP1A1が、どのように活性化されるかを明らかにすることができる。従って、この研究はダイオキシン受容体が生理的シグナルを介して活性化される経路を明らかにしていく端緒となる研究である。この実験で得られた知見は、本来のダイオキシン受容体の個体発生および発達における役割を明らかにする研究に発展し、最終的には今まで機構が明らかではなかったダイオキシンの生体毒性を解明することができるようになる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度以降は、クロマチン免疫沈降反応(ChIP アッセイ)に用いる抗体、その定量反応に用いるRT-PCR、Ca2+要求性のB”beta(PPP2R3B9)あるいはB”gamma(PPP2R)をノックダウンするためのsiRNA作製試薬、Sp1-Ser-59リン酸化を検出するためのウエスタンブロット試薬、ルシフェラーゼを用いたレポーター遺伝子アッセイ用試薬類などの消耗品に研究費を使用する計画である。
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