2013 Fiscal Year Research-status Report
ダイオキシンによるSp1転写因子の脱リン酸化を促進するカスケード因子の同定
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24510081
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
菊池 英明 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (60006111)
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Keywords | ダイオキシン / ダイオキシン受容体 / Sp1 / PP2A |
Research Abstract |
ダイオキシンが哺乳動物に示す様々な毒性機構は、重要な研究領域であるにもかかわらず研究が遅れている。毒性機構の中でも、転写因子としてのダイオキシン受容体(AhR)は中心的な役割を果たす。しかしながら、AhRの標的遺伝子CYP1A1の転写開始近傍に結合する基本転写因子とAhRとの関係は明らかになっていなかった。 遺伝子CYP1A1の制御領域には、Sp1が結合することが分かっていたが、転写誘導の前後で結合量の変化はないことが明らかになった。さらに、転写誘導が起こる前にはSp1はリン酸化されているが、誘導後には59番目のSerが脱リン酸化されることを明らかにした。また、ホスファターゼPP2Aの関与がCREM遺伝子の発現時に働くことが報告されていたので(Juang et al. 2011)、PP2Aの阻害剤であるオカダ酸で前処理を行うと、CYP1A1の転写が抑制された。そこで、転写の前後でSp1-Ser59が脱リン酸化されていることを細胞内で起きていることを明らかにするために、リン酸化Sp1-Ser59を特異的に認識できる抗体を、Kahn-Perles (INSERM U1090 TAGC, Marseille, France)から分与して頂き、クロマチン免疫沈降反応(ChIP assay)法により行った。その結果ヒトHepG2細胞内において、ダイオキシン処理によるCYP1A1の転写誘導の前後では、Sp1-Ser59のリン酸化が減少していることが明らかとなった。また、PP2Aをノックダウンすることにより、阻害剤の場合と同様に、転写開始の前後でSp1-Ser59の脱リン酸化にPP2Aが関与していることを示す結果が得られた。 これらの結果から、ダイオキシンはAhRを介してCYP1A1の発現誘導を開始すると共に、細胞内シグナル伝達系を活性化させてPP2Aを介して、Sp1の脱リン酸化を引き起こすことにより、CYP1A1遺伝子の転写を開始することができるという新しい概念を提示することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、PP2AによるSp1-Ser-59の脱リン酸化が、どのように特定部位のSp1を認識するのかという問題を追及する計画であった。一つの方法としては、Sp1の特異的リン酸化部位を認識し、脱リン酸化を促進するようなプロリルイソメラーゼ(Pin1)が結合する現象が関与する可能性を考え、Pin1抗体によるChIPアッセイを計画していた。しかしながらその前に、ダイオキシン投与により実際にSp1-Ser59の脱リン酸化が、CYP1A1遺伝子調節領域のシス・エレメントに結合したまま脱リン酸化されていることを証明する必要がある。このためには、Sp1-Ser59のリン酸化部位を特異的に認識する抗体が大量に必要である。この抗体をKahn-Perles (INSERM U1090 TAGC, Marseille, France)から分与して頂いたことにより、Sp1-Ser59リン酸化部位を認識する抗体によるChIPアッセイをすることが可能になり、この段階で論文を書くことができる実験データが揃うことになった。この結果、欧文誌から論文を出版することができた(Shimoyama et al. 2014)。さらに、この抗体を用いることにより、ダイオキシン投与による細胞内Ca2+の上昇を、BAPTA-AMでキレートすることによって、CYP1A1調節領域に結合しているSp1-Ser59の脱リン酸化が抑えられることも証明することができた。このことは、Sp1-Ser59の脱リン酸化に関与する上流のカスケード因子は、カルシウムに依存する因子であるという状況証拠を明確に示したことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
ダイオキシンと、Sp1-Ser59リン酸基を脱リン酸化するPP2Aの間を結ぶカスケード因子として、カルシウムに依存する因子を明らかにしていく。 1) ダイオキシン処理後に、カルシウムをキレートした試料と対照の試料を、架橋剤で固定し、Sp1抗体あるいはPP2A抗体でクロマチン免疫沈降を行う。その後電気泳動し、2つの試料の間で異なるタンパク質バンドを回収し、プロテアーゼ分解したペプチドを質量分析装置により解析して、そのタンパク質の遺伝子を同定する。これにより、カルシウム依存性の蛋白質分子を同定し、当該mRNAのノックダウンあるいは特異的阻害剤の投与により、CYP1A1の誘導発現に関与している可能性を検証していく。 2) これらのデータをまとめて、論文及び報告書を執筆する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ダイオキシンと、Sp1-Ser59リン酸基を脱リン酸化するPP2Aの間を結ぶカスケード因子として、カルシウムに依存する因子を明らかにしていく。このために、ダイオキシン処理後に、カルシウムをキレートした試料と対照の試料を、架橋剤で固定し、Sp1抗体あるいはPP2A抗体でクロマチン免疫沈降を行う。その後電気泳動し、2つの試料の間で異なるタンパク質バンドを回収し、プロテアーゼ分解したペプチドを質量分析装置により解析して、そのタンパク質の遺伝子を同定する。これにより、カルシウム依存性の蛋白質分子を同定し、当該mRNAのノックダウンあるいは特異的阻害剤の投与により、CYP1A1の誘導発現に関与している可能性を検証していく。さらに、これらのデータをまとめて、論文及び報告書を執筆する。 ダイオキシン処理した細胞からタンパク質画分を調整する試薬、分解するためのプロテアーゼ、質量分析装置にかけるための分析費用などが必要になる。また、論文投稿のための英文校正の費用、投稿料などが必要になる。さらに、報告書をまとめるための費用も必要となる。
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