2013 Fiscal Year Research-status Report
ディーゼル排ガスにより次世代の神経幹細胞に生じる機能障害とDNAメチル化異常
Project/Area Number |
24510085
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
立花 研 東京理科大学, 総合研究機構, 助教 (10400540)
|
Keywords | トキシコロジー / DNAメチル化 / 環境 / 衛生 / エピジェネティクス |
Research Abstract |
我々はこれまでに、胎仔期にディーゼル排ガス(DE)の曝露を受けたマウスの脳におけるDNAメチル化状態を網羅的に解析し、DE胎仔期曝露によってDNAメチル化パターンの形成が大きく乱されることを明らかとした。本研究では、脳神経系の発達の要である神経幹細胞を対象とし、DEあるいは排ガス中の粒子状成分によりもたらされるDNAメチル化の変化と神経幹細胞の遺伝的・機能的異常との関連を明らかとすることを目的としている。 前年度までに、DEを曝露した妊娠マウスから生まれた新生仔(1日齢)の脳から神経幹細胞を得た。得られた神経幹細胞からゲノムDNAおよびmRNA・microRNAを含むtotal RNAを抽出・精製した。得られたゲノムDNAからメチル化DNA免疫沈降法を用いてメチル化DNAを特異的に回収し、得られたメチル化DNAについてマイクロアレイ(タイリングアレイ)を用いてDNAメチル化状態の網羅的解析を行った。その結果、雄性産仔・雌性産仔ともにゲノム全体にわたってメチル化状態が変動する領域が認められた。続いて、mRNAレベルでの発現変動についてマイクロアレイを用いて解析を行ったところ、多くの遺伝子が発現変動することが示された。発現変動が認められた遺伝子についてGene Ontologyを用いて機能グループ解析を行ったところ、神経方向への分化に関与する遺伝子に発現変動が多いことが示唆された。実際に、定量的RT-PCRを用いて神経細胞の分化マーカーの発現量を調べたところ、発現量の低下が認められた。以上より、胎仔期のDE曝露が仔の神経幹細胞から神経細胞への分化に影響を及ぼすと推測された。また、発現変動した遺伝子の一部では、DNAメチル化の変化も認められていることから、mRNA発現変動にDNAメチル化が関与している可能性が考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、ディーゼル排ガス(DE)を胎仔期に曝露されたマウス(新生仔)から十分な数の神経幹細胞を得た。得られた神経幹細胞について、ゲノムDNAのメチル化状態、mRNAの発現変動について網羅的な解析を行い、データを得ることができた。その結果、神経幹細胞から神経細胞への分化に影響が生じる可能性、また、この分化への影響にDNAメチル化状態の変化が関与している可能性を見出した。これらの結果から、当初の計画のとおり、神経幹細胞に分化を誘導し、神経細胞、グリア細胞、オリゴデンドロサイト等への分化に及ぼす影響をより詳細に調べる予定である。既に、血清を用いて神経幹細胞から各種神経系細胞への分化を誘導する実験系について実験条件の検討が進んでいる。したがって、DE曝露群から得た神経幹細胞について、その分化能に関する実験を計画通り進めることが可能な段階にある。さらに、DNAメチル化状態の変化とmRNA発現変動のデータを統合して解析を行うことで、細胞の分化能以外に生じる影響についても検討を進めている段階である。 また、microRNAの発現変動についてもマイクロアレイを用いた解析が進行中であり、そのデータの解析、およびDNAメチル化状態やmRNA 発現の変動との関連について検討を行う予定である。 以上より、若干の遅れはあるものの、当初の研究計画のとおり研究を遂行できる状況である。研究はおおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度までに行ってきた実験は継続して行う。ディーゼル排ガス(DE)曝露により、仔の神経幹細胞に生じるDNAメチル化異常、mRNA・microRNAの発現変動と各種神経系細胞への分化に生じる影響との関連を見出す。神経幹細胞に分化を誘導し、神経幹細胞から各種神経系細胞への分化のバランスの変化について検討を行う。神経系細胞の同定は、各種神経系細胞のマーカーに対する免疫染色を用いて行う。発現変動が見出されたmRNA・microRNAについては、神経幹細胞に過剰発現あるいは機能阻害を行った後に分化を誘導することで、分化への関与を詳細に検討する。また、レーザーマイクロダイセクションを用いて、分化した神経系細胞を細胞種ごとに回収し、DNAメチル化状態、mRNA・microRNAの発現量の解析を進め、仔の神経系細胞に生じる機能変化との関連について解析を行う。 さらに、DE胎仔期曝露によって仔の脳内に生じるmRNA、microRNAの発現変動を定量的RT-PCR法、in situ hybridizationにより解析する。特に、これまでの研究において組織学的に異常が認められた脳領域、あるいは分化に影響が認められた細胞種に着目する。遺伝子の発現量に変化が認められた脳領域、細胞はレーザーマイクロダイセクションを用いて分取し、DNAメチル化状態を調べる。 これらの解析から、DE胎仔期曝露によって仔に生じる影響を推定し、その検証を行う。組織学的な変化とDNAメチル化・遺伝子発現の変化が重なった脳領域は重点的に解析を行う。行動薬理実験(学習記憶能力、不安情動性評価等)、HPLCによる脳内の神経伝達物質(モノアミン等)及びその代謝物の測定等を計画している。 さらに、本研究から得られた成果をまとめ、論文として発表するとともに、国内外の学会において発表を行い、積極的に情報を発信する。
|
Research Products
(9 results)