2013 Fiscal Year Research-status Report
環境化学物質の脳発達への影響:培養シナプス形成系と遺伝子発現解析による評価
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24510087
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
黒田 純子 (木村 純子) 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 研究員 (20142151)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川野 仁 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 研究員 (20161341)
小牟田 縁 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 研究員 (60566850)
林 雅晴 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 参事研究員 (00280777)
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Keywords | 環境化学物質 / 脳・神経 / 脳発達 / 神経毒性 / シナプス形成 / 培養神経細胞 / 農薬ネオニコチノイド |
Research Abstract |
今年度も、ネオニコチノイド系農薬イミダクロプリド、アセタミプリドについて研究を進めた。ネオニコチノイドは近年使用量が急増している農薬で、ニコチン類似構造をもち、昆虫選択毒性が高くヒトには安全性が高いと宣伝されているが、ヒトへの影響、中でも子どもの脳発達への影響が懸念されている。ネオニコチノイドは神経伝達物質アセチルコリンの受容体の一種、ニコチン性受容体にアゴニスト作用をもつ。ニコチン性受容体はヒトでは末梢神経、自律神経で主要であるだけでなく中枢神経でも重要で、さらに免疫系など非神経組織でも多様な生理機能をもっている。脳の発達過程でもニコチン性受容体が成体よりも多く発現して、正常なシナプス・神経回路形成に関与していることが分かっている。 これまでに我々は、ラット小脳培養系を用いて、ネオニコチノイドの作用をニコチンと比較して調べたところ、ネオニコチノイド2種がこれまで報告されている結合実験の結果よりも、よりニコチンに近い反応性を示した。ニコチンが子どもの発達に悪影響を及ぼすことが確認されていることから、ネオニコチノイドがヒトの脳発達へ悪影響を及ぼすことが示唆され、その結果を2012年PlosOneに発表した。 今年度の研究は、昨年に続きネオニコチノイドの脳発達への影響を、DNAマイクロアレイを用いた系で検討を進めた。複数腹のラット新生仔の小脳培養を用意し、ネオニコチノイドとニコチンを添加して培養し、シナプス形成期にmRNAを抽出して、DNAマイクロアレイにて網羅的に遺伝子発現を解析し、統計処理を行ったところ、神経回路形成に関わる多数の遺伝子発現に有意な変化が確認された。変動した遺伝子のうち、脳発達に重要と考えられる遺伝子について、リアルタイムPCRで確認を進めており、現在のところ多くの遺伝子がDNAマイクロアレイとリアルタイムPCRで共に発現変動が確認されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はネオニコチノイドの脳発達への影響をより信頼性のあるデータとするため、DNAマイクロアレイによる統計解析を行う目的で、同時に複数腹のラットから新生仔ラットの小脳培養を作成し、同条件で培養を行って検討した。その結果、ニコチン、ネオニコチノイド2種を曝露した小脳培養系では、統計的に有意な遺伝子発現変動が確認された。変動した遺伝子は、ニコチン、ネオニコチノイド2種全てで確認されるものと、3種それぞれ特異的に変動する遺伝子が確認され、中には脳発達に重要と考えられる遺伝子が複数あった。さらに変動した遺伝子をリアルタイムPCRで確認を進めており、新年度で確認が終了予定である。当初の予定では、リアルタイムPCRが全て終了予定であったが、プライマーの設定などに手間取り、予定より遅れたが、ほぼ順調に進んでいると総括している。 また欧州食品安全機関(EFSA)の研究チームが、既に発表した我々のPlosOneの論文について精査し、ネオニコチノイドに発達神経毒性の可能性ありと2013年12月にEFSA機関誌に発表した。このように本研究が国際的に評価されたことは、1つの目的を達成できたと総括している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は昨年の結果を受け、発達期の神経細胞においてネオニコチノイドなどの農薬曝露によって変動する遺伝子群をリアルタイムPCRで確認し、シナプス形成や神経回路形成に関わる遺伝子をターゲットとして絞り込み、遺伝子についての詳しい検討を進め、早期に論文作成を準備し国際専門誌に投稿する。解析にはマイクロアレイ解析ソフトとして実績のあるGeneSpringやMetaCoreなど遺伝子のパスウエイ解析ソフト(両ソフト共、当研究所に設置済み)を用いて、ネオニコチノイドがどのように発達期神経細胞に影響を及ぼすのかを確認し、必要な場合はタンパク発現の変動もウエスタンブロットや免疫染色などで確認する。また余力があれば、ネオニコチノイドだけでなく他の環境化学物質や複合効果についてもDNAマイクロアレイで影響を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は昨年のDNAマイクロアレイの結果より、ネオニコチノイドによって変動した遺伝子を絞り込み、リアルタイムPCRやタンパク発現をウエスタンブロットで確認する予定である。また場合によってはDNAマイクロアレイの解析も追加実験する。したがって、リアルタイムPCRやウエスタンブロット、DNAマイクロアレイに研究費を使用する予定である。なお、論文も合わせて書き、投稿予定なので、論文の校閲や掲載費用などにも研究費を使用する。 (1) リアルタイムPCR 400,000円 (2) ウエスタンブロット 200,000円 (3) 培養実験 200,000円 (4) DNAマイクロアレイ 500,000円 (5) 論文校閲、掲載費など 400,000円
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Research Products
(9 results)