2014 Fiscal Year Research-status Report
環境化学物質の脳発達への影響:培養シナプス形成系と遺伝子発現解析による評価
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24510087
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
黒田 純子(木村純子) 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 研究員 (20142151)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 雅晴 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 参事研究員 (00280777)
川野 仁 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 研究員 (20161341)
小牟田 縁 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 研究員 (60566850)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境化学物質 / 脳・神経 / 脳発達 / 神経毒性 / シナプス形成 / 培養神経細胞 / 農薬ネオニコチノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度も、ネオニコチノイド系農薬イミダクロプリド、アセタミプリドの発達神経毒性について研究を進めた。ネオニコチノイドは害虫に選択毒性が高いとされ、世界中で多用されてきたが、ハチなど昆虫からトリに至るまで多くの生命や生態系に有害であることが明らかとなり、欧米では規制強化が進んでいる。ネオニコチノイドの標的であるニコチン性アセチルコリン受容体は、リガンドのアセチルコリンと共に、単細胞生物から高等動物に至るまで重要な情報伝達系を担っており、リガンド結合部位は特に類似性が高いため、害虫以外に悪影響を持つ可能性が高い。さらにネオニコチノイドはヒトを含む哺乳類への影響、特に子どもの脳発達への影響が懸念されている。ニコチン性受容体はヒトでは末梢神経、自律神経で主要であるだけでなく中枢神経でも重要で、その上免疫系など非神経組織でも多様な生理機能をもっている。脳の発達過程でもニコチン性受容体が成体よりも高発現し、正常なシナプス・神経回路形成に関与している。 これまでに我々は、ラット小脳培養を用いて、ネオニコチノイドの作用をニコチンと比較して調べ、ネオニコチノイド2種がこれまで報告されている結果よりも、よりニコチンに近い反応を示すことを明らかにした。ニコチンが子どもの発達への有害性が確認されていることから、ネオニコチノイドがヒトの脳発達へ悪影響を及ぼすことが示唆された。 本研究では、ネオニコチノイドの脳発達への影響を、DNAマイクロアレイを用いて検討を進めた。ラット新生仔の小脳培養に、ネオニコチノイドを添加して培養し、シナプス形成期にmRNAを抽出して、DNAマイクロアレイにて網羅的に遺伝子発現を解析したところ、神経回路形成に関わる重要な遺伝子発現に有意な変動が確認された。変動した遺伝子のうち、重要なものについて、リアルタイムPCRで調べたところ、多くの遺伝子で発現変動が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度はネオニコチノイドの脳発達への影響をより信頼性のあるデータとするためDNAマイクロアレイによる遺伝子変動の結果を以下の3点より検討した。 1)小脳培養のDNAマイクロアレイで得られた遺伝子変動をリアルタイムPCRで確認。2)マイクロアレイの統計解析の方法についての検討。3)小脳培養の結果を大脳皮質培養で検討。 1)のリアルタイムPCRについては、一定の成果を得て、学会などで発表した。蛋白レベルについてもウエスタンブロットで一部検討したが、機器の不具合などでデータは得られなかった。2)については、近年マイクロアレイなど大規模データの統計処理は、従来の実験結果の統計処理と異なり、多重検定の際にfalse discovery rate(FDR)を用いているケースが多くみられる。我々の実験結果を解析する際に、どの統計処理が一番適しているのか、統計学の専門家の意見も聞いて再考し、ノンパラメトリックな統計法、FDRを用いて解析した。その結果、現在の段階でも有意な遺伝子変動が多数確認され、神経回路形成に関わる重要な遺伝子が変動している結果を確認した。一方でさらにnを増やすとより信頼性の高い結果が得られることも明らかとなった。3)大脳培養でもネオニコチノイドにより遺伝子変動が起こり、小脳と共通な遺伝子と異なる遺伝子があり、興味深い結果が出つつあるが、本研究の年度内に信頼性のある確実なデータとするには、複数回の確認実験が必要であることも明らかとなった。 以上、今年度に実験を詰めてデータを確実なものとし、論文作成を目標としていたが、PCR実験の遅れなどからまとめるまでに至らず、研究を1年延長して平成27年を最終年としてまとめることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は本研究の最終年として、これまで得た実験結果を信頼性、再現性の点から確実になるよう実験計画をよく検討して遂行し、早期に論文作成を受隠微し国際誌に投稿することを目的とする。 具体的には、発達期の神経細胞においてネオニコチノイドなどの農薬曝露によって変動する遺伝子群を確実にするため、小脳培養を再度行い、サンプルを採取してDNAマイクロアレイを実施し、適切な統計処理を行う。確認できた遺伝子変動のうち、シナプス形成や神経回路形成に関わる遺伝子をターゲットとして絞り込み、これまでも有意な結果が出ているリアルタイムPCRで再確認し、遺伝子についての詳しい検討を進める。解析にはマイクロアレイ解析ソフトとして実績のあるNextBioやMetaCoreなど遺伝子のパスウエイ解析ソフト(両ソフト共、当研究所に設置済み)を用いて、ネオニコチノイドがどのように発達期神経細胞に影響を及ぼすのかを確認し、必要な場合はタンパク発現の変動もウエスタンブロットや免疫染色などで確認する。以上を行った後、早期に論文に仕上げる。
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Causes of Carryover |
平成26年度、ネオニコチノイドなどの農薬曝露により、発達期の神経細胞で変動する遺伝子を絞り込み、リアルタイムPCRやウエスタンブロットで解析してデータをまとめる予定であったが、リアルタイムPCRは予定より日数が倍以上かかり、ウエスタンブロットも機器の不具合で結果が出ないなど、予定した実験が進まず、予算の未使用額が生じた。また確認のためのマイクロアレイもサンプル調整が間に合わず、未使用額が出た。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、やり残した実験を遂行するため、研究費を以下の項目に効率よく使用し、研究の仕上げを実行する。1)実験動物、2)試薬、3)PCRやウエスタンブロット消耗品、4)マイクロアレイ、5)論文英語校正、6)論文掲載料
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Research Products
(4 results)