2013 Fiscal Year Research-status Report
焼却残渣中におけるセシウムの存在形態把握と長期的安全性の評価
Project/Area Number |
24510089
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
東條 安匡 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70250470)
|
Keywords | 廃棄物処理 / 最終処分場 / 焼却底灰 / セシウム |
Research Abstract |
福島原発事故以降、放射能に汚染された焼却灰(飛灰と主灰)の処分が問題となっているが、底灰中のセシウム(Cs)濃度は低く、従来どおり管理型埋立地に処分される可能性が高い。そこで、本研究では、通常の埋立地に埋め立てられた後、底灰中のCsは長期間、安定的に留まるのかについて、Csの存在形態と溶出特性の観点から検討している。初年度は、安定Csを用いて高濃度化した焼却灰を対象に、溶出試験、pH依存試験により溶出特性を把握すると共に、風化加速試験を実施し、焼却灰の性状変化がCsの溶出に与える影響についても検討した。その結果、極めて低いpHでなければCsの溶出が起こらないこと、低pHにおけるCsの溶出は、AlやSiと共に起こることが判明したほか、風化加速試験のうち、特にCO2暴露条件下でCsの溶出が著しく抑制されることを確認した。そこで、本年度は、Csの溶出が低pHでのみ起こり、Al、Siと共に溶出する要因を解明するために、EPMA、SEM-EDX、偏光顕微鏡を用いて、その存在形態の解明に取り組んだ。また、CO2暴露条件下において溶出が抑制される理由は、主灰中の主成分であるCaが炭酸Caに変化して表面を覆うためであると仮定し、CO2暴露した灰の表面分析を行っった。検討の結果、底灰中のCsは、特定の結晶鉱物の表面に濃集しており、その位置には、結晶鉱物が燃焼時の高温によって溶融して成長したガラス状非晶質が存在していた。このことから、高温によって廃棄物中に含まれる結晶粒子表面が溶け、そこにCsが物理的に捕捉されたと考えた。低pHでCsがAlやSiと共に溶出するのは、このガラス状非晶質が溶解するからであると考えられる。またCO2暴露した底灰の表面分析の結果、表面に明確な鉱物相が析出しており、主成分がCaであることを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでのいくつかの研究から焼却底灰中のCsは難溶性であることが報告されている。しかし、何故、難溶性なのか、また、長期間に難溶性が維持されるのかは明らかにされていない。本研究では、まず、焼却灰中のCsが難溶性であり、極めて低いpHでなければ溶出が起こらないことを、pH依存試験から確認した。次に、何故、焼却底灰中のCsが難溶性かについて、試料中に存在するCsの存在位置をEPMAで確認し、それが、Al、Si、Oを主成分とする粒子の周りに存在していることを掴んだ。次に、同じ試料をSEM-EDXと偏光顕微鏡で観察することで、Csの存在位置は非晶質で透明なガラス状であり、Csが濃集する相が取り囲む粒子は、偏光性を有する結晶であることがわかった。すなわち、廃棄物中に存在した結晶鉱物(その組成からアルミノシリケート)が焼却時の高温で融解してガラス状になり、そこにCsが取り込まれているために、難溶性であることがわかった。ガラス状の非晶質に取り込まれていると言うことは、極めて安定であり、長期間難溶性の状態で存在し続けることが可能であると考えられる。さらに、風化促進試験から、焼却灰の重要な風化変質過程である炭酸化が、Csの溶出抑制に極めて有効であることもわかり、そのメカニズムについても炭酸Caの表面での析出であることを確認できた。さらに、この炭酸Caの溶出抑制効果についてpH依存試験を実施した結果、pHが8以下に低下しなければ、Csの溶出を抑制し続けることも確認した。残る課題は、何故、鉱物表面のガラス状非晶質にCsが濃集するのか、また、それはどの段階で起こるのかという点である。 予定していた長期挙動シミュレーションについては、焼却灰からのシリカの溶出速度を実験的に求め、それを地球化学モデルと埋立地シミュレータに組み込む作業が完了した。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.焼却底灰中のCsが結晶鉱物周辺のガラス状非晶質に濃集するメカニズムについて: EPMA観察から、セシウムを高濃度化した底灰において、セシウムが結晶粒子の周辺部に濃集していることが確認された。また、それが焼却底灰中のセシウムの難溶性の原因であると結論付けた。しかし、何故、セシウムが結晶粒子の表面に濃集しているのか、燃焼中の反応によるものか、燃焼前の段階なのかが不明である。燃焼過程で溶融状態となった結晶表面にセシウムが捕捉されたとするならば、他の重金属元素も同様のはずである。しかし、それは確認されなかった。予想されることは、焼却前の常温で、結晶表面にセシウムは引き寄せられ(吸着)、高温によって粒子表面がガラス状の融体となった段階で強固に捕捉された可能性である。もし、そうであるならば、燃焼前の過程(鉱物粒子とCsイオン)の反応が重要となる。実験手法は、模擬廃棄物中の無機成分の構成を変化させて、炭酸Cs溶液を添加し、模擬燃焼灰生成する。燃焼試験においては、Csのマスバランスを把握する。生成した模擬底灰の微視的観察から、Csの存在位置の変化を明らかにする。 2.地球科学モデルと埋立地シミュレータの連携によるCs挙動のシミュレーション:本年度作成したシリカの溶出速度モデルと地球科学モデル・埋立地シミュレータの連成モデルにセシウムの長期挙動予測を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国際学会での発表を予定していたが、より相応しい学会が次年度開催であったため、繰り越すこととした。 平成26年度に開催される国際学会に出席し、本研究の成果を発表する。
|
Research Products
(3 results)