2012 Fiscal Year Research-status Report
セレンをモデルとするレアメタル回収に資する電極反応系の構築
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24510106
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
今林 慎一郎 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (50251757)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 水溶性セレン / 電極還元反応 / メディエータ / プロトン共役電子移動 / セレン回収 |
Research Abstract |
メチルビオロゲン(MV)をメディエータとして用いる水溶性セレン(セレン酸、亜セレン酸)の電極還元反応機構について電気化学的に解析した。pH 7において、1 mmol dm-3 MVの添加により亜セレン酸の還元が促進され、電流値が無添加時の400倍以上に増加した。還元中、電極表面近傍に水に不溶の赤色の元素態セレン微粒子が生成した。還元電流が流れ始める電位がMVの還元電流のそれと一致することから、MVが電極から電解質中に溶解している亜セレン酸への電子移動を仲介していると結論された。この還元電流は緩衝液濃度が高いほど大きくなる。還元反応にはH+が必須であるが、亜セレン酸の酸塩基平衡や還元反応でH+が消費されるため、十分な緩衝液濃度がないと電流が減少に転じる。よって、MV添加のみならず、緩衝液中の共役酸濃度が亜セレン酸の電極還元促進に重要であることがわかった。MVによる亜セレン酸の電解還元の促進はpH 4の酢酸緩衝液中でも観測されたが、増幅率はpH 7に比べて小さかった。MV以外に他のビオロゲン化合物やナフトキノンもメディエータとして機能すること、MVは緩衝液中に溶解させずに電極表面へ固定化しても亜セレン酸の触媒的還元が起こることを確認した。 これまで電気化学的に還元不可と考えられてきたセレン酸の還元がMV添加により起こることが分かり、この場合も元素態セレンまで還元されることが確認できた。 セレン酸還元菌を用いた生物学的回収方法で生成する気化セレン化合物は主としてジメチルジセレニドである。濃硝酸溶液にトラップされるとセレノキシドになると考えているが、トラップ溶液のボルタモグラム測定からはプロトン還元波しか得られなかった。 上記結果は次年度以降に予定している水溶性セレンの除去率、元素態セレンの回収率など本反応系の実用性の検討における測定条件の決定などに有用な基礎的知見となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【MVをメディエータとする水溶性セレンの電極還元反応機構の解明】 亜セレン酸の還元反応については、MVとプロトン供給源(緩衝液中の共役酸)の存在が不可欠であることなど反応の輪郭は明らかにできたと考えている。今後はより定量的な反応機構に発展できるように、詳細な測定を加える。一方、セレン酸の還元反応についてはMVを共存させることにより、元素態セレンまで還元できることを確認したが、緩衝液濃度や種類、MV濃度など電解質組成が還元反応に与える影響は未検討である。亜セレン酸について得られた知見を基に、解析を加速したい。以上から、この研究項目の達成度は40%程度と考える。 【メディエータ型電極還元反応系をセレン回収プロセスに発展できる可能性とその課題】 本還元反応による水溶性セレン除去、元素態セレン回収の効率に関する検討は来年度より本格的に開始する予定である。本年度は、MV以外にベンジルビオロゲンなどのビオロゲン化合物やアリザリンレッドS(ナフトキノン)がメディエータと成りうることがわかったが、MVより効率的な物質は見いだせていない。また、MVを緩衝液中に溶解させずに電極表面へ固定化しても亜セレン酸の触媒的還元が起こることを確認した。電極表面に固定化したMVは繰り返し使用できるため、実用の点から有用であり、今後はより多くのMVを固定化する手法について検討する。以上から、この研究項目の達成度は20%程度と考える。 【生物学的回収方法を補完する電極反応系の構築】 気化セレン化合物がトラップされている硝酸溶液のボルタモグラムを測定したが、セレン化合物由来の応答は得られなかった。硝酸にトラップされているセレン化合物の具体像を明らかにできなかったので、この研究項目の達成度は10%程度と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
【MVをメディエータとする水溶性セレンの電極還元反応機構の解明】 平成24年度に亜セレン酸還元反応機構については、より定量的な反応機構に発展することを目標に、回転リングディスク電極測定によってMVのターンオーバー数(触媒能)や亜セレン酸との反応速度を測定する。また、ボルタモグラムのディジタルシミュレーションを用いて、各素反応の速度定数を数値化する。一方、セレン酸の電極還元反応の解析については、亜セレン酸の機構解析で得られた知見を有効に活用して、解析の効率アップを図る。セレン酸の電極還元反応は亜セレン酸に比べて起こりにくいので、この理由について明らかにできれば、亜セレン酸と同様に効率的な還元にできると考えられる。 【メディエータ型電極還元反応系をセレン回収プロセスで用い得る可能性とそのための課題】 本還元反応による水溶性セレン除去、元素態セレン回収の効率など実用面について、電極材質および形状(多孔体、炭素繊維など)、セルの形状、水溶性セレンの初期濃度などをパラメータとして来年度より本格的に開始する。また、電極反応を行なうために一般に必要な電解質について、濃度低減あるいは無電解質化、水溶性セレン含有排液中のイオン成分の電解質としての利用、電解質の再利用プロセス構築の可否(イオン液体、シリカゲル微粒子に固定化された固体酸の利用)についても検討を開始する。可能ならば、工業排液中に含まれるイオン成分による水溶性セレン電極還元反応の可否を検討する。 【生物学的回収方法を補完する電極反応系の構築】 中和やトラップ物質の抽出などの電気化学測定前処理を施した硝酸トラップ溶液中に含まれる気化セレン化合物のレドックス特性、購入または合成した気化セレン化合物のレドックス特性および濃硝酸中の気化セレン化合物の反応について解析し、硝酸にトラップされているセレン化合物とそのレドックス特性を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度予算申請したインピーダンス測定用の周波数分析器および解析ソフトは他の研究費を使用して購入できたため、その分の研究費を次年度にまわした。 次年度は、(1) セレン酸、亜セレン酸、各種メディエータなどの試薬類:600千円、(2) ガラス器具などの器具類:500千円、(3) 電気化学測定装置関連の消耗品(回転リングディスク電極、EQCM用水晶振動子など):600千円、(4) 電気化学測定用高気密性フローセル装置(臭気の強い毒性の気化セレン化合物を安全に扱うために必要):900千円 のように使用する計画である。
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