2012 Fiscal Year Research-status Report
環境浄化システムで利用するビスフェノール類化合物分解菌の分子育種に関する研究
Project/Area Number |
24510108
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
松村 吉信 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (40268313)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 環境汚染物質分解 / ビスフェノールA / Sphingomonas属細菌 / cytochrome P450 |
Research Abstract |
本年度は、ビスフェノールA(BPA)分解菌Sphingomonas bisphenolicum AO1株に内在するプラスミドpBAR1の塩基配列の解読行った。これまでの研究で、プラスミドpBAR1にAO1株のBPA分解に関わる酵素遺伝子群の一部がコードされていることが明らかとなっていたが、その遺伝子構造のほとんどは不明であった。そこで、パルスフィードゲル電気泳動解析でAO1株に存在するプラスミドを確認した結果、染色体DNA以外に4種類のプラスミドが含まれていた。それぞれ、約250kb、約110kb、約80kb、約70kbのDNAであった。当研究室ではAO1株に由来するBPA非分解菌AO1L株も単離しているため、AO1L株に内在するプラスミドも同時に観察した結果、約70kbのプラスミド以外はどちらの株でも観察され、AO1株のみに含まれる約70kbプラスミドがpBAR1であると確認された。pBAR1を制限酵素で小型化して大腸菌プラスミドにクローニングし、塩基配列を解読した結果、これまでに約50kbの塩基配列決定が完了した。塩基配列解析結果から、BPA分解の初期水酸化反応に関与するcytochrome P450 monooxygenase遺伝子(bisdB)やferredoxin遺伝子(bisdA)が確認された。また、BPAの代謝中間体である4-hydroxybenzaldehydeを4-hydroxybenzoic acidに酸化するアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(adh1)や4-hydroxyacetophenoneを代謝する4-hydroxybenzoate 3-monooxygenaseをコードする遺伝子(bisdF)も確認された。さらに、トランスポゾンや接合伝達に関わる遺伝子も多数確認され、これらが本プラスミドの不安定性に関わっていると予想された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の本年度の研究では、AO1株に内在するプラスミドpBAR1の全塩基配列決定とその遺伝子情報解析を完了させる予定であった。しかしながら、現状ではpBAR1の塩基配列決定は8割程度である。これは、当初予定していたpBAR1の塩基配列決定への次世代型シーケンサーの活用ができなかったためである。この原因として大きく二点があげられる。一点目は、次世代シーケンサーにおける欠点でもあるが、複数の環状型のDNAが試料中に存在し、また、非常に良く似た配列(リピート配列)が多数存在している場合、それらの配列を正確に解読できず、さらに、リピート配列の個数も判別できない場合が多いことである。実際に我々が解読したpBAR1の塩基配列の中だけでも複数のリピート配列が観察され、旧来手法の塩基配列決定にも大きな障害となっていた。二点目は、この次世代シーケンサーの欠点を克服するために細胞内に存在する環状型DNAを分離し、それぞれを次世代型シーケンサーに供する事で一点目の問題点を克服する事が可能となるが、大型プラスミドの単離方法が確立されていないため、この大型プラスミドの分離とその回収方法の開発に着手こととなった。結果として、この方法の開発に時間が要したためにpBAR1の全塩基配列の解読が完了していない。我々が大型プラスミド分離・回収に用いた方法は、パルスフィールドゲル電気泳動法とアガロースからのDNA単離法である。現状では、バクテリア細胞からのDNAの回収と分離に成功している。また、アガロースゲルからの大型DNAの単離方法についても既存のプラスミド精製キットを活用することで、その回収率は低いものの無傷なプラスミドの回収に成功している。今後、回収率を高めることで、各プラスミドの配列決定を試みる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度完了できなかったpBAR1の塩基配列決定とその遺伝子構造を解明する。これには、現状のDNA断片のクローニングと従来型の塩基配列決定法を用いるのではなく、次世代型シーケンサーを活用する。AO1株に内在するプラスミドの分離回収が困難な場合は、ドラフトシーケンスとなるが、染色体DNAを含むAO1細胞に含まれる全DNA配列を決定し、その後、DNA配列フィニシングソフトなどを活用し、全DNA配列を確定する予定である。また、次年度の当初の予定では、AO1株の形質転換系の確立を行う予定にしているが、こちらについては予定通り行う。さらに、AO1株に複数のプラスミドが共存していることが本年度の実験で明らかとなったため、pBAR1以外のプラスミドを細胞からの除去し、pBAR1以外のプラスミドの環境汚染物質分解への関与を明らかとする予定である。これに付け加え、すでにpBAR1配列から複数の環境汚染物質分解遺伝子の存在が明らかとなっている。そこで、これらを活用する目的から、大腸菌を用いて環境汚染物質分解遺伝子の大量発現を試み、その組換え株の環境汚染物質分解能を調査する予定である。この実験は当初の目的であるAO1株でのビスフェノールAや環境汚染物質分解能向上に向けた研究とは異なるが、得られた情報はAO1株における環境汚染物質分解能の向上に活用できると考えている。 最終年度では、ゲノム情報を元にpBAR1の不安定性要因を特定し、pBAR1の小型化とその安定性評価を行う予定である。さらに、その他の内在プラスミドの環境汚染物質分解に関わる影響について、その遺伝子構造ならびに前年度の研究結果から評価し、小型化pBAR1との融合が必要と判断された場合、その融合実験も行うこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の繰越金が823,500円生じたが、研究開始当初、本年度に、AO1株の全ゲノムDNAの塩基配列決定を完了する予定で、この実験に次世代シーケンサーの活用を計画していた。しかしながら、次世代シーケンサー解析に必要となる試料が調整できず、結果としてこちらの解析は次年度行う事としたため、その費用として計上していた予算が繰越金として発生した。そこで、次年度では次世代シーケンサー解析をまず行う予定とした。この受託解析費用として80万円程度が必要となると予想される。さらに、DNA試料調製や形質転換系の構築に必要となる試薬費が50万円程度必要と考えている。また、これらの実験に必要となる硝子器具やディスポーザブルのプラスティック器具が30万円程度必要となる。これに学会発表旅費や論文投稿費などを20万程度、文具費などが10万円必要と考えている。
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Research Products
(6 results)