2013 Fiscal Year Research-status Report
環境浄化システムで利用するビスフェノール類化合物分解菌の分子育種に関する研究
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24510108
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
松村 吉信 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (40268313)
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Keywords | 環境汚染物質 / バイオレメディエーション / 環境ホルモン / Sphingomonas属 / 次世代シーケンサー |
Research Abstract |
本年度は、次世代シーケンサーを用いたSphingomonas bisphenolicum AO1株のゲノム全塩基配列決定とAO1株遺伝子組換え体によるビスフェノールA(BPA)分解能の向上に向けた研究を行った。特に、後半の研究はAO1株の環境汚染物質分解能の安定性向上を目指した研究である。 AO1株の全ゲノム解析では、Roche社の454シーケンスシステムを用いて、AO1株から抽出した全ゲノムの解読を試みた結果、リードとして755,334個、総塩基数として527,626,490bpを得ることができた。得られた情報を基に、GS de novo assemblerでアッセンブルした結果、contigは95個に集約し、総塩基数は5,102908bp、平均のカバレッジは約100となった。同様の解析をCLC genomics workbenchで行った結果、contigは421個にしか集約されなかったが、総塩基数は5,282,383bp、平均カバレッジは約100となり、用いたソフトの違いによる大きな解析結果の違いはなかった。これまでの研究で、AO1株には1本の染色体DNAと4本のプラスミドDNAが確認されているが、今回の結果からはこれらを分けて解読するまでには至っていない。 AO1株組換え体によるBPA分解能の向上に向けた研究では、AO1株で利用可能なベクターであるpJN105を用いた。PCR法を用いて推定プロモーター領域を含むbisdAB遺伝子領域を増幅させ、pJN105のクローニング領域に挿入し、エレクトロポレーション法で組換えAO1株を作成した。作製した組換えプラスミドはAO1株細胞内でも安定に保持されていることを確認し、組換え体の休止細胞を用いたBPA分解実験を行ったが、bisdAB遺伝子組換えによる顕著なBPA分解の向上は確認されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の当初の目標は、AO1株の全塩基配列決定と環境汚染物質分解に関わる遺伝子領域の特定であった。昨年度の研究で、1本の染色体DNAと4本のプラスミドDNAが確認され、これを分離した状態での塩基配列決定が必要となっていたが、現状のこれら5種類のDNAの分離が困難なことから、これらを分離せずに塩基配列解析を行った。その結果、5本のDNAを特定することが出来ず、結果として、遺伝子の部分的なアノテーションは完了しているが、それぞれの遺伝子のゲノム上の位置を特定することは出来ず、また、遺伝子の全領域が確定できたものも一部となっている。これらは次年度、プラスミドと染色体DNAの分離精製を試み、それぞれのDNA鎖を用いて次世代シーケンサー解析する必要が生じている。 また、今年度から、AO1株における遺伝子組換え法によるBPA分解能の向上を試みた。これまでの大腸菌を用いた実験ではbisdAB遺伝子産物が封入体を形成し、結果として組換え大腸菌による効果的なBPA分解は確認できなかったことから、AO1株を用いる必要があるものと考えられた。しかしながら、AO1株を宿主に用いた場合、大腸菌で観察されたような遺伝子の大量発現は観察されず、結果としてBPA分解能も向上しなかった。今後、これらはbisdAB遺伝子のプロモーターを変更するなどして改善する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
AO1株の全ゲノム塩基配列決定では、プラスミドDNAと染色体DNAを分離して再度次世代シーケンサー解析を行う予定である。また、これと並行してすでに解読済みの遺伝子領域についてはそれぞれの遺伝子の機能予測をさらに進め、環境汚染物質分解・代謝に関わる遺伝子の同定を進める。これらを通してBPA分解経路に関わる遺伝子を同定するとともにBPA分解能および環境汚染物質分解能の向上に向けた情報として活用する予定である。 遺伝子組換えAO1株によるBPA分解能の向上に向けた研究では、AO1株細胞で働く高発現タイプのプロモーターの知見が必要であることが明らかとなっている。このため、AO1株で高発現している遺伝子を特定し、そのプロモーターを用いることを計画している。さらに、大腸菌ですでに高発現タイプとして知られているLacZ遺伝子プロモーターの相対遺伝子をAO1株からクローニングし、活用することも計画している。さらに、遺伝子組換えAO1株におけるBPA分解能の向上が期待通りではなかった原因として、AO1株にすでに存在しているプラスミドpBAR1が影響している可能性やbisdAB遺伝子産物の酵素反応で産生する産物に高い細胞毒性があることも予想される為、遺伝子組換え体作製において、AO1株におけるプラスミドキュアリング株の使用やbisdAB以外のBPA分解遺伝子の同時組換えを研究計画にいれ、進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度、次世代シーケンサー解析を複数回行う予定であったが、DNA調製、特に、プラスミドと染色体との分離精製が成功せず、結果として1回の使用に終わったため、使用額が当初の予定よりも大幅に少なくなった。また、1回の次世代シーケンサー解析に要した時間が多く、これも解析回数が少なくなった理由である。 前年度の研究で、プラスミドと染色体との分離技術もほぼ確立しており、次世代シーケンサーによる解析回数が増え、消耗品の使用量が増えるとともに、この解析に用いるコンピューターやソフトウェアの購入のため、最終年度では予定通りすべての予算を使用できるものと予想している。
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