2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24510117
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
佐久間 隆 茨城大学, 理工学研究科, 教授 (10114018)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 散漫散乱 / 原子熱振動 |
Research Abstract |
X線回折測定およびJ-PARCのiMATERIAなどを利用した中性子回折測定を実施し、酸化銀、酸化銅などの半導体、金属からのブラッグライン強度と散漫散乱強度を研究した。この際、熱振動から回折強度への寄与を判別するため、20 K程度の低温と室温で測定を行った。室温付近では振動する散漫散乱強度が観測され、この振動部分の解析から熱振動の相関効果を決定した。新たに解析式を見直し、遠距離までの原子間の力定数を、この相関効果から導出した。この力定数を用いて、赤銅鉱型結晶構造や面心立方格子に対応させたシミュレーションプログラムを開発し、様々な軸方向についてフォノンの分散関係を計算した。この分散関係から、新たに、フォノンの状態密度、結晶系のエネルギー、エネルギーを温度微分した比熱などを計算し、これらの測定値と比較した。赤銅鉱型構造をもつ結晶では、室温で熱振動の相関効果の値として、最近接原子間で0.7程度にすると、これまで中性子非弾性散乱、比熱などで測定されている分散関係や比熱の数値とほぼ一致する。しかし、最近接原子間の相関効果の値を0.8以上にすると、分散関係のエネルギーについて、シミュレーションによる値は測定値よりも大きくなる傾向となった。 赤銅鉱型構造をもつ結晶において、試料にハンドプレスで圧力をかけ、この残留歪みを含む回折強度をiMATERIAを利用して測定した。酸化銅ではプレス圧力とともにブラッグラインの半値幅は増加する。酸化銀では300 MPa程度の圧力まで増加するが、その後ほぼ一定の値となることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の中核となるX線回折実験およびJ-PARCのiMATERIAを用いた中性子回折実験などにより、散漫散乱を含む回折データの測定はほぼ順調に実施した。これまで我々が提唱していた原子間距離と熱振動における原子間の相関の値を仮定すると、測定を行った回折データの散漫散乱はほぼ矛盾無く説明できることを、ブラッグライン強度のリートベルト解析から決定した熱振動パラメータの値および原子位置を利用して確認することができた。 室温付近では原子振動は古典近似が適用でき、振動する散漫散乱強度の解析で得られる熱振動の相関効果の値より、原子間の力定数が得られる。これまでの解析方法では、第二近接原子より距離の離れた原子間で熱振動の相関が無い場合でも、ゼロで無い力定数が得られるという矛盾が生じていた。この解析過程を理論的に検討し、新たに原子間の相関効果が無い場合に、ゼロの力定数が得られる解析式を得た。赤銅鉱型結晶構造に対応するシミュレーションプログラムを開発し、この力定数を用いてフォノンの分散関係、フォノンの状態密度、系のエネルギー、比熱などを計算することを可能にした。この他、フッ化カルシウム型、面心立方型、体心立方型結晶構造に対応するシミュレーションプログラムを開発し、様々な結晶系に適用するための準備を行った。酸化銀や酸化銅において、フォノンの分散関係、フォノンの状態密度、系のエネルギー、比熱などを計算し、これらと測定値などと比較を試み、室温ではほぼ一致する値が得られる結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに赤銅鉱型結晶などについてX線回折およびJ-PARCのiMATERIAを利用して、温度依存性およびプレス圧力依存性を含む中性子散乱測定を実施した。散乱ベクトルの小さな領域で精度よい散漫散乱強度の測定が可能な原子炉(JRR-3のHRPD)を用いて、中性子散乱測定を続けていく。なお、現在シャットダウン中のJRR-3が再開しない場合でも、オーストラリア原子力研究所(ANSTO)の中性子散乱測定装置で、赤銅鉱型結晶の温度依存性散乱強度を測定する。またANSTOと共同で、中性子弾性散乱と中性子回折強度を矛盾なく説明できる、原子熱振動および静的な原子分布の歪み効果を考慮した構造モデルを検討する。なお、これらの結果を裏付けるために、セン亜鉛鉱型やフッ化カルシウム型イオン結晶、金属結合結晶などにも適用していく。 赤銅鉱型構造をもつAg2Oは室温で異常に大きな原子熱振動をもつとともに、低温になるに従い格子定数が増加する。また、低温で非常に大きな原子熱振動パラメータをもつ。200℃付近で分解するが、結晶構造の変化と分解との関係は未知の状態にある。昨年度に、TG(熱重量)、TMA(熱膨張)、DSC(示差熱)などの熱測定を行い、通常の物質より2桁ほど大きな熱膨張を示した後に、酸素の放出による重量変化が生じて分解する可能性があるとの結果を得た。より広範囲な温度変化でこれらの熱測定を試み、分解の過程を明確なものとする。 これまで散漫散乱強度の解析では、無秩序系の短距離秩序度(合金の理論)やひずみ効果などについて、個別の関係が議論されていた。これまでの散漫散乱強度解析では定式化されていない、ひずみ効果と熱振動の相関効果を同時に取り込んだ解析の可能性を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
一般に、デバイ-ワーラー熱振動パラメータの値が小さい低温度領域では、散漫散乱において振動する強度を観測することは難しい。赤銅鉱型構造をもつ物質は10 K付近の低温で異常に大きな熱振動パラメータの値をもつ特異な結晶であり、この原因を明らかにすることが必要である。低温で、真の原子熱振動が生じているのか、あるいは静的な構造の乱れに起因するかを中性子回折、中性子弾性散乱の測定から検討する。この構造ではプレスで圧力をかけた場合、残留応力としてブラッグラインの半値幅に影響が生じている。これらのX線、中性子散乱に利用する試料の準備過程、特に試料に圧力を印加、粉末化するための実験装置、また、電気伝導度、熱膨張、重量変化などの温度依存性を測定する装置、例えば、インピーダンス測定用の温度センサー部分の交換などに研究費を使用する。 TOF中性子回折装置による測定データから構造を解析するために、Z-Rietveldソフトウェアを利用している。このソフトは、Macintoshパソコンなどの特殊なOSの基に動作させる必要がある。今年度から新たに開発された、原子密度の空間平均分布を求めるMEM解析にチャレンジする。散漫散乱の解析から、フォノンの分散関係、状態密度、比熱までのシミュレーションを行う場合、これまで最低1日程度の計算時間を必要としている。様々な条件化で計算を行うために、高速の処理が可能となる計算機関係の準備に研究費を使用する。 赤銅鉱型構造をもつ物質からの回折パターンについて温度や圧力依存性、また熱解析による結晶の分解過程などについて、研究結果を発表し議論を行っていく。学会、研究会等で発表を行うために旅費として研究費を使用する。
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