2012 Fiscal Year Research-status Report
中性子構造解析による先駆的なプロトン移動可視化への挑戦
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24510118
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
日下 勝弘 茨城大学, フロンティア応用原子科学研究センター, 准教授 (10414591)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 中性子構造解析 |
Research Abstract |
現在のiBIXの TOF 回折データを処理するソフトウェアは TOFデータ特有の時間方向プロファイル形状の複雑性から積分範囲に余分なバックグラウンド領域を含んでおり、特に弱い反射強度については高精度な積分データを得られていない。この問題を解決し、より高い精度で測定されたデータの精度劣化を最小限におさめるために、iBIX用のTOF回折データ処理ソフトに強度積分コンポーネントに対して、積分範囲を最適に定義する方法として、新たなエリプティカルカラム法を考案しこれをコード化し実装した。既存のデータ処理ソフトの強度積分コンポーネントにおけるブラッグ反射の積分範囲は現状ではシンプルなシューボックス型で定義されているが、実際の形状は2θ角方向に斜めに倒れた筒型をしている。この倒れた形状を実際のデータを基にプログラムを試作し、解析的に詳細に定義できることを確かめた。この定義法(エリプティカルカラム法)を既存のデータ処理コンポーネントに対して実装した。これにより積分範囲が既存の方法より小さくなり、積分範囲内のバックグラウンド値を減らすことができ、積分強度の精度の向上が期待出来る。 上記で作成した新たな積分法を適応するために、まずは標準試料としてリボヌクレアーゼAの大型結晶を作成した。作成した大型単結晶試料について、母液と共にキャピラリーに封入し、J-PARC,MLFに設置のiBIXを用いて構造精密化が可能な中性子回折データを測定した。最初に予備測定を行い、十分な分解能で回折データが観測される試料を選別した。選別された結晶について、短波長領域および長波長領域の回折データセットをそれぞれ測定した。本データを用い、既存のデータ処理・解析を行い十分な分解能のデータであることが分かった。現在、このデータをもちいて新たな積分法へ適応し、動作検証とバグ出し、既存法との比較を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TOF回折データの高精度積分コンポーネントの開発については、申請時に予定していたアルゴリズムよりシンプルかつ効率的と考えられるものを新たに考案し、解析的に反射の形状を表現する方法を考案し、実データと比較することで有用性のあることが確認出来た。アルゴリズムは異なるが、目的としていたデータ精度の向上が期待出来るアルゴリズムを考案・実装することが出来き、申請書記載の目的を達成することが出来ていると考える。 H24年度に実施予定であった中性子構造精密化コンポーネントへの消衰効果補正機能追加については、交付申請書にはH24年度に機能を追加し実装するところまでを目標としていたが、これについてはH25年度に行うこととし、H25,26年度に行うことを予定していた標準試料の中性子回折データの測定とこれを用いたTOF回折データの高精度積分コンポーネントへの適応、動作検証およびバグ出しを前倒しで行った。中性子回折データの測定におけるビームタイムの割当等を考慮して研究を進める順序を変更したが、3年間の計画の中で初年度1年で進める内容としては十分に達成したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度:現在のタンパク質の構造解析システムには実装されていないTOF回折データに対する消衰効果の補正機能を追加する。現在公開されている高分子用単結晶構造解析ソフトウェアシステムの構造精密化コンポーネントに対してTOF回折データの消衰効果補正機能を追加する。実施には中性子-X線同時構造解析が可能なソフトウェアPHENIXの構造精密化コンポーネントphenix.refineに対しての追加を検討する。この中性子構造精密化コンポーネントへの消衰効果補正機能の組み込みが本研究の予算内で困難であると判断された場合には、積分反射強度データに対して擬似的に2次消衰効果補正を行うソフトウェアを精密化コンポーネントとは分離した形で製作し、既存のソフトウェアコンポーネントと組み合わせて構造精密化を行えるようにする。H24年度に測定・処理を行った標準試料データを用いて上記コンポーネントの動作および有用性の検証を実施する。 H26年度:トンネル運動の可能性を示唆するLBHBが発見されているタンパク質(PfulDING等)について中性子回折データ測定用の大型結晶の育成を行う。結晶化にあたってはタンパク質濃度、結晶化剤濃度による結晶化相図を作成し、最も最適な条件を見いだす。これを用いてJ-PARC,MLFに設置のiBIXを用いて構造精密化が可能な中性子回折データを測定する。高精度積分コンポーネントおよび消衰効果補正機能付き構造精密化コンポーネントを用いてデータ処理および解析を行い、可能な限りのプロトン位置を差フーリエマップをもとに割り出し、その情報を最大限に引き出す。最終的に、問題となるLBHBのドナー―アクセプター間のプロトンの存在確率を含む高精度な精密化を試みる。得られた構造モデルの位相情報をもとに中性子散乱長密度マップを作成し、LBHBにおけるプロトンの存在状態の詳細な可視化を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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