2013 Fiscal Year Research-status Report
中性子構造解析による先駆的なプロトン移動可視化への挑戦
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24510118
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
日下 勝弘 茨城大学, フロンティア応用原子科学研究センター, 産学官連携准教授 (10414591)
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Keywords | 中性子結晶構造解析 |
Research Abstract |
世界最高性能の中性子回折計iBIX により得られる高分解能かつ高精度のデータを劣化させることなく処理・解析し、存在確率を含む詳細なプロトン情報を取得することを目的として、H24年度は茨城県生命物質構造解析装置iBIXで測定された回折データをより高精度に積分する新たな方法を開発し、これを適応するためにリボヌークレアーゼアAの中性子構造回折データを測定した。H25年度にはより確かな構造精密化の結果を得るため、X線結晶構造解析データを中性子構造解析データを測定したと同一の試料を用いて放射光(高エネルギー加速器研究機構、Photon Factory、BL05)にてその測定を行った。中性子構造解析データと共にデータ処理を行い、HKLFデータを取得した。取得したデータを用いてX-N Joint refinementを行い、水素(重水素)を含む構造を精密化した。その結果、本試料において活性部位におけるプロトンの状態と共に反応に寄与しうるあらたな水の存在を示唆する中性子散乱長密度を見いだすことが出来た。 高精度で測定されたデータの精度劣化を最小限におさめる強度積分法として、H25年度に開発・実装したエリプティカルカラム法を上記のリボヌークレアーゼAの中性子回折データを用いて、動作の検証およびバグ出しを行った。 現在のタンパク質の構造解析システムには実装されていないTOF回折データに対する消衰効果の補正機能の追加を検討したが、コンポーネントへの消衰効果補正機能の組み込みが本研究の予算内で困難であると判断したため、積分反射強度データに対して擬似的に2次消衰効果補正を行うソフトウェアを精密化コンポーネントとは分離した形での製作を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H25年度に行うことを予定していた標準試料の中性子回折データの測定をH24年度に前倒しで行い、H24年度に実施予定であった中性子構造精密化コンポーネントへの消衰効果補正機能追加については、交付申請書にはH24年度に機能を追加し実装するところまでを目標としていたが、これについてはH25年度に行うこととした。しかしながら、既存の構造解析システムにTOF回折データに対する消衰効果の補正機能の追加するには本研究の予算内で困難であると判断したため、積分反射強度データに対して擬似的に2次消衰効果補正を行うソフトウェアを精密化コンポーネントとは分離した形に変更することとした。この擬似的に補正を行う手法検討に時間を要したため、補正ソフトウェアは現在製作中であり実装には至っていない。 また、H24年度に製作したTOF回折データの高精度積分コンポーネントについては動作検証およびバグ出しに時間を要したため、実際の中性子回折データへの適応と有用性の確認は現在進行中である。 よって、3年間の計画の中の2年目としてで進める内容としてはやや遅れているが、H26年度にこれらはカバー可能な範囲であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
H26年度は計画当初ではLBHB におけるプロトンの詳細位置と存在確率を決定することによりプロトン移動のプロセスの可視化を試みる予定であったが、標準試料として測定したリボヌークレアーゼAの中性子構造解析データを構造解析した結果、本試料において活性部位におけるプロトンおよび反応に寄与しうるあらたな水の存在が示唆されたため、本試料のプロトンの詳細位置を本研究で開発したデータ処理・解析コンポーネントを用いて処理することでプロトン移動のプロセスの可視化を試みることとした。疑似消衰効果補正機コンポーネントを早急に完成させ、高精度積分コンポーネントと共にその有用性を実証する。さらにこれらを用いてデータ処理および解析を行い、可能な限りのプロトン位置を差フーリエマップをもとに割り出し、その情報を最大限に引き出す。最終的に、活性部位付近の反応に寄与しうるプロトンの存在確率を含む高精度な精密化を試みる。得られた構造モデルの位相情報をもとに中性子散乱長密度マップを作成し、これらのプロトンの存在状態の詳細な可視化を試みる。
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