2013 Fiscal Year Research-status Report
X線中性子PDF解析法による電子ガラスの観測とその出現機構の解明
Project/Area Number |
24510129
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
樹神 克明 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (10313115)
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Keywords | PDF解析 / 強相関電子系 |
Research Abstract |
伝導電子のガラス的凍結が期待されるLiMn2O4の中性子回折実験を行い、得られたデータを原子対相関関数に変換し局所構造解析を行った。 スピネル構造を持つLiMn2O4は約260Kで立方晶から斜方晶への構造相転移を示す。高温立方晶ではすべてのMnサイトは結晶学的に等価でその価数は+3.5であるが、低温斜方晶では電荷秩序が生じ、複数の非等価な+3価と+4価のサイトに分離する。しかし高温立方晶においては電荷秩序が存在しないのにもかかわらず、その電気伝導は非金属的である。我々は前年度に7LiMn2O4の室温での中性子粉末回折データから導出された原子対相関関数を用いて局所構造を調べ、高温立方晶においても低温斜方晶と同様の局所構造歪みが存在することを明らかにした。今年度は高温立方晶での+3価と+4価のサイトの短距離周期配列を決定し、この系で電子がガラス的に凍結していることが非金属的な電気伝導の原因であることを明らかにし、その研究成果を論文にまとめ発表した。さらに電荷のガラス的凍結状態による局所構造歪みの温度依存性を調べる目的で、J-PARCに設置されている高強度汎用全散乱装置NOVAおよび茨城県材料構造解析装置iMATERIAを用いて7LiMn2O4の粉末回折実験を行い、そのデータを原子対相関関数に変換して局所構造解析を行った。その結果、低温斜方晶を含む200Kから450Kの広い温度範囲において局所構造歪みはほとんど温度変化を示さないことがわかった。このことは広い温度範囲で電荷の空間分布がほとんど温度依存性を持たないことを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LiMn2O4について電荷のガラス的凍結状態に伴う局所構造歪みを観測し、短距離的な電子配列を決定することができている。さらに局所構造歪みがほとんど温度依存性ををもたないこと、すなわち電荷のガラス的凍結状態では電荷の空間分布がほとんど温度変化しないことも明らかにした。ただし本研究の最終目的である「電荷のガラス的凍結状態の出現機構の解明」に対しては、さらにいくつかの物質系での研究例が必要と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記で述べたように、電荷のガラス的凍結状態の存在が期待される他の物質系での研究を進めていく。具体的にはMn, Coを含むペロブスカイト型酸化物がその対象となる。またこれらの系と同様に平均構造と局所構造の違いが物性を支配していると考えられるCrO2も研究対象に加える。PDF解析のための粉末回折実験は主にJ-PARCに設置されている高強度汎用全散乱装置NOVAを用いて行う。さらに茨城県材料構造解析装置iMATERIAを用いてのPDF解析手法も開発し、こちらの装置を用いたPDF解析も行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
グローブボックスを維持するための高圧ガスや物性測定用の寒剤の使用量が予定していたより少なかったため。 26年度は電荷のガラス的凍結状態の候補物質としてMnやCoのペロブスカイト酸化物を取り上げるが、これらはもとの申請段階では測定する予定のなかった物質系なので、次年度使用額を用いて試料合成のための試薬を大量に購入する。また請求している助成金については従来の予定通りに新しい候補物質の探索とその物性測定に必要な消耗品費、学会参加等の旅費として使用する。
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