2012 Fiscal Year Research-status Report
レーザー誘起磁気円二色性STMによるフタロシアニン分子のスピン分布マッピング
Project/Area Number |
24510159
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
高木 康多 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 助教 (30442982)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / スピントロニクス / 磁気円二色性 |
Research Abstract |
本年度はレーザー誘起磁気円二色性走査トンネル顕微鏡の開発の段階として、leysop社のポッケルスセルドライバーを購入し、既存のポッケルスセルとレーザーと組み合わせて円偏光変調法による測定を行うための装置開発を行った。レーザー照射下での測定による像は得られているが、まだ円偏光変調法による有意なMCDを示す像の取得には成功していない。しかしながら安定して像を得られるようにレーザーや光学機器の調整等のノウハウを蓄積しているところである。 一方、今後の測定対象として予定している有機磁性分子の鉄フタロシアニン分子の物性を走査トンネル顕微鏡(STM)および放射光X線磁気円二色性(XMCD)により測定した。STM測定においてはCu(001)表面上に蒸着された分子はあまり大きなドメインを作らなかったが、Ag(111)表面やCu(001)表面上にAgを一原子層蒸着した表面を用意しそこにフタロシアニン分子を蒸着すると、吸着分子の表面での拡散長が伸び100nm以上の広いドメインを作ることがわかった。また窒素修飾したCu(001)表面でも比較的広いドメインが作成され、さらに表面に90°を成してできるステップの影響によりドメインの方向がそろうことが分かった。またXMCDによって鉄フタロシアニンを金属基板上に一原子層蒸着した薄膜の分子内の鉄原子の磁性を測定した。下地がCu(001)など非磁性の場合には分子内の鉄原子は常磁性的な振る舞いをするが、下地がCo薄膜など強磁性の場合には、強磁性のカップリングをして鉄原子も強磁性的な振る舞いをすることが分かった。またCo薄膜の最表層を窒素で修飾した場合にもその下地のCo薄膜と強磁性的なカップリングをしていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レーザー誘起磁気円二色性走査トンネル顕微鏡において円偏光変調法による検出をするために必要な装置であるポッケルスセルおよびそれを駆動するポッケルスセルドライバーについて、この装置や測定に対して最適な製品を選定・購入し、現状のSTM装置に組み込み立ち上げを行った。まだ円偏光変調法によるMCD像を安定して取得できるところまでは達成できていないがレーザー照射下におけるSTM像の測定や光学機器の予備実験などによりMCD像取得に必要なデータは集まってきている。 その一方、今後フタロシアニンのスピン分布マッピングを行うのに必要になる技術の予備実験は順調にこなしている。例えばレーザー照射下のフタロシアニン分子のSTM像を取得しその特性を理解した。またXMCD測定によるフタロシアニン薄膜の磁性の測定を行い分子およびその基板の磁気特性の理解を深めている。これらは次年度以降の研究目的の達成には不可欠な知見であり、今年度に予備実験を行い知見が得られたことは計画を遂行する上で非常に重要であり評価できる。 今年度はポッケルスセルドライバーの選定に時間がかかったため立ち上げが遅れ、当初の予定の金属薄膜のMCD像の取得ができていないが、他の予備実験が順調に進んでいるため、今後MCD像が得られれば、そこから鉄フタロシアニンの測定にはいることは難しくなく最終的な目標の達成は十分可能と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に購入したポッケルスセルドライバーを、既存のポッケルスセルおよびレーザーを組み合わせてSTM装置に導入し、レーザー誘起磁気円二色性走査トンネル顕微鏡の円偏光変調法によるMCD像を安定して取得できる技術の確立を行う。レーザー照射下のSTM像は得られているため、レーザーからの光学系を中心に見直し、レーザー強度、ON/OFFの周波数、照射方法など条件を変更しながら像が得られない原因を突き止め、早急に改善する。MCD像が得られた後は標準試料として強磁性金属薄膜の円偏光変調法によるMCD像を詳細に調べ、強度や安定性などレーザー誘起磁気円二色性走査トンネル顕微鏡の装置としての特性を調べ、安定なデータの取得が行えるための様々なテストを行う。 テストを終えた後はすぐにフタロシアニン分子のMCD像測定に移る。STMやXMCDによりフタロシアニン分子の特性は十分に調べられているためMCD像の測定へは比較的簡単に移行できると考えている。 その後、より詳細なデータを得るために既存のものとは波長の異なる新たなレーザーを購入する予定である。これにより異なる入射エネルギーによるMCD像が得られるため分子の磁性情報がより詳しく得られると考えている。 一方、フタロシアニン分子の物性測定のためのXMCD測定は引き続き行う。特にフタロシアニン分子が下地の磁性薄膜に与える影響を重点的に調べる。レーザー誘起磁気円二色性走査トンネル顕微鏡による下地表面の測定と合わせて強磁性金属基板の磁気的相互作用についてより詳しく考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ポッケルスセルドライバーが当初の予定よりも費用が掛からず購入できたことに加え、既存のポッケルスセルを流用でき、その他の装置の多くも手持ちの装置で賄えたため、今年度に請求した研究費をすべて使わなかった。来年度は波長の異なるレーザーを購入するため、その波長に最適なポッケルスセルや光学機器など購入する予定である。
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