2012 Fiscal Year Research-status Report
シリコン表面に埋め込まれたリン原子の電子状態と相互作用
Project/Area Number |
24510160
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
鷺坂 恵介 独立行政法人物質・材料研究機構, 極限計測ユニット, 主任研究員 (70421401)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | シリコン / ドーパント / 走査型トンネル顕微鏡 / トンネル分光 / 第一原理計算 |
Research Abstract |
本研究では、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて、シリコン表面近傍に埋め込まれたリン原子の物性を原子分解能で明らかにしていくことを目的とし、今年度の計画では(1)シリコン表面第一層に埋め込まれた単一リン原子の電子状態を明らかにすること、および(2)バックゲートによるシリコン中キャリア密度の制御手段を検討することを目標とした。 (1)では、Si(100)表面にリン分子を吸着後、アニールによりリン原子の埋め込みを行う。これまでSi(100)におけるリン分子の吸着構造には5種類あることをSTM観察で見いだし、詳細な構造をDFT計算で調べてきた。この系は過去に研究事例がないことや、DFTによるSTMデータの再現が良いことが判明したため、今後のSTMとDFT計算の複合研究を行う上で非常に重要であると判断し、トンネル分光データとDFT計算から求められる局所状態密度の比較を行った。その結果、ダイマー列上に吸着した二リンでは実験と計算に非常に良い一致が見られた。一方、ダイマー列間に吸着した二リンではあまり良い一致が見られず、吸着分子周辺での遮蔽効果が計算では考慮されていないことや計算結果の処理法に課題があることがわかった。これらの成果はPhys. Rev. B誌に掲載が決定された。また、表面第一層のリン原子の有用なトンネル分光データが得られたので、今後、DFT計算によるデータの解釈を進めていく。 (2)では、バックゲート取り付け用のSTM試料ホルダーの製作を行い、テストを行ったところ、電極の配置を変更した方が良いことが判明した。また、市販のSOIウェハーを数種類購入し、埋め込み酸化膜層の絶縁特性を調べたところ、数k~数百kΩ程度の抵抗しかないことが判明した。これは数GΩ程度あるトンネルギャップの抵抗よりも小さいため、市販のSOIウェハーではゲート電圧の印加が不可能であると結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は次の2つの課題を計画した。 (1)表面第一層に埋め込まれたリン原子の電子状態 表面第一層に埋め込まれたリン原子のトンネル分光データは計画通りに得られた。この結果に対するDFTによるデータ解析はまだなされていないが、吸着リン分子について実験と計算データの比較を行い、DFT計算によるSTMデータの再現法やその問題点などを把握した。以上から、今年度の計画は概ね達成されたといえる。 (2)バックゲートによるキャリア密度制御 当該実験を行うための、試料ホルダー試作や市販SOIウェハーの調査が完了したことから、今年度の計画は達成されたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)シリコン第一層表面に埋め込まれたリン原子のSTM/STSデータの解析:平成24年度に得られたリン原子のトンネル分光結果について、DFT計算によるSTMシミュレーションとの比較を行い、構造と電子状態を決定していく。リン原子はシリコン原子とヘテロダイマーを形成することが知られているが、そのバックリング方向を含む構造や正確な電子状態がわかっていない。また、表面に分散した複数のリン原子同士間の相互作用や基板のドープ量を考慮した考察も行っていく。 (2)清浄なSi(100)表面の角度分解光電子分光データの解析:平成24年度に、東北大学の光電子固体物性研究室との共同研究でSi(100)表面の電子状態に関する新しい光電子分光データが得られた。Si(100)表面の電子状態は、本研究の課題に密接に関連するとともに、物理学的に極めて重要であり、優先して研究すべき事項である。したがって、本来の研究計画には含まれてなかったが、DFT計算による光電子分光データと電子状態の解析を本研究計画に追加する。 (3)バックゲートによるキャリア密度制御:市販のSOIウェハーが使用できないことが判明したので、埋め込み酸化膜層おいて電流リークのないSOIウェハーの製作が可能か調査を行う。 (4)表面第二層以下に埋め込まれたリン原子の検出:これまで経験的に、表面第二層より深いところに位置するドーパント原子もSTMで検出可能なことがわかっている。ただし、検出されてきたのは、もともとシリコンウェハーに添加されたドーパント原子を偶然に観察できただけなので、ドーパントの深さを制御しながら観察が可能か調べる。そのため、表面第二層にリン原子を埋め込んだ後、シリコンの堆積を行い、ある程度深さ分布を制御してSTM観察を行う。そのため、シリコン堆積チャンバーの製作を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度:リン原子を第二層以下に埋め込むために、シリコン堆積用の超高真空チャンバーの製作を行う( 50万円)。低温環境での高精度トンネル分光実施のために液体ヘリウムを購入する(40万円)。超高真空装置の維持用真空部品の購入(10万円)。
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Research Products
(1 results)