2012 Fiscal Year Research-status Report
金融リスク計測における統計学的モデルとストレステストの融合に関する研究
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24510194
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
室町 幸雄 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (70514719)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 金融リスク管理 / ファイナンス / リスク計測 / 統計学的モデル / ストレステスト |
Research Abstract |
「モデルの一般化」と「実務向けモデルの提案と検証」の二方向から研究を進めた.Hull and White(2006)とKijima and Muromachi(2000)を参考に,サブ・フィルトレーション・アプローチを用いて一期間有限状態空間におけるポートフォリオの信用リスク計測モデルについて考察し,パラメータ推定や計算が容易な実務的モデルを提案し,英語論文にまとめた.そこで行った数値例では,金融危機時に実際に見られた損失発生パターン,すなわち,実際のデフォルトはそれほど多くないが,証券化商品の価格は暴落して大損失を引き起こすという興味深いパターンが見られた.この論文はワーキングペーパーとして刊行し,さらに修正を加えて学術雑誌に投稿した. 他にも,取引相手の信用リスクの価格への影響について考察し,特にエネルギーデリバティブの価格付けモデルを提案した.ここでは取引相手と自社の信用リスクの相関関係だけでなく,それぞれのデフォルト確率と損失額の相関関係(Right/Wrong-Way Riskと呼ばれる)の影響も考慮した.この成果は日本語論文として学術雑誌に投稿した. さらに,CDOと並んで巨大な市場を持つRMBS(住宅ローン債権担保証券)の価格付けモデルも提案した.RMBSのリスク評価では期限前償還の影響が重要なので,期限前償還率が金利に依存して確率的に変動することの価格への影響を調べた.具体的に使用したのはQuadratic Gaussian++モデルという将来の金利が負にならず,しかも現在の金利期間構造を再現できる確率金利モデルであり,期限前償還率は金利の一次関数で,償還率の金利依存度は時刻とともに確定的に変化しうるとした.この設定のもとでRMBS価格の解析解を導出し,価格の金利依存特性(ネガティブコンベキシティ)について議論した.成果は論文にまとめて学術雑誌に投稿した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は「モデルの一般化」と「実務向けモデルの提案と検証」の二方向から研究を進めたが,およそ想定していた成果が得られたほか,金融危機時に実際に具現化した損失発生パターンを暗示する興味深い計算例も得られた.また,海外の研究者とのやり取りの中で,やや恣意的かもしれないと思っていたモデルに内在する仮定が,実用化のためには有効であると認められたことは,今後の研究を進める上で心強い.これらの成果は論文にまとめて海外の学術雑誌に投稿することができた.また,研究を進めていく中で,更なる一般化の可能性も出てきている. さらに,ポートフォリオのリスク計測手法そのものではないが,単体の金融商品の価格付けモデル,具体的にはエネルギーデリバティブと証券化商品CDOの価格付けモデルも提案することができた.理論的には,これらの金融商品も本テーマで研究中のリスク計測モデルに組み込むことは可能であり,その意味では金融商品単体の価格付けモデルも本研究テーマの拡張に寄与する成果と考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後も「モデルの一般化」と「実務向けモデルの提案と検証」の二方向から研究を進める.「モデルの一般化」は,具体的には信用リスク計測モデルの多期間バージョンや連続時間バージョンへの拡張である.この一般化ではやや煩雑なモデルになることが予想される.そこで,「実務向けモデルの提案と検証」として,実務で使いやすい簡略的なモデルの提案も検討し,実際の市場データを用いた推定と分析にも着手する.もし時間的に余裕があれば,市場リスク計測モデルについても検討を始める.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2度の海外出張のため旅費は見積もり以上にかかったが,他の項目はすべて見積もりを下回り,特に,人件費・謝金はまったく発生しなかったため,総額では残金が生じた.この分は次年度の物品費として使用する予定である.
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