2012 Fiscal Year Research-status Report
株式市場の不安定性と内生的価格形成メカニズムの研究
Project/Area Number |
24510203
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
増川 純一 成城大学, 経済学部, 教授 (30199690)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 株式市場の暴落 / ニュース・インパクト / 投資家の群れ行動 / 内生的価格形成 |
Research Abstract |
本研究では,①情報がもたらす価格への影響はニュースの軽重だけでなくその時の市場の不安定性に依存して決まること,②株価はニュースだけでなく市場参加者の予見と実際の価格変動とのフィードバック効果により内生的にも形成されることを実証研究やマルチエージェント・モデルを用いた考察から検証し,内生的価格形成を含む株価変動の数理モデルを作成する. これらの研究項目に対し,平成24年度は,1. ニュース・インパクトの蓄積効果の検証,2. 市場参加者の協調的集団運動の検証,3. 市場参加者の予見と実際の価格変動との正のフィードバック効果の実証を研究実施計画として掲げた. これらの実施計画のうち,1.と2.に関しては,平成24年に公表したロンドン証券取引所の実況研究の論文で,2008年1月21日と10月8日の株価の暴落においては、特段のニュースが無いのに世界的な株価の暴落が起きており,「個々の小さなニュースは大きな株価変動を引き起こさないが,悪いニュースが連続した場合,その効果が市場に蓄積され,ある限度を超えた時小さなきっかけで暴落が起きる」事の例であることを述べた.これら内生的な暴落に先だって,銘柄間の協調的な動きを表す統計量が急激に大きくなったこと,また,それは”financial crisis”というワードを含むニュースの頻度と関連しており、ニュースの累積頻度とともにベキ関数で増加した事などをデータ検証した。このことは,投資家間の模倣的な群れ行動が”financial crisis”という世界経済に関する悲観的なワードの出現とともに高まっていったことを表している. これらのことは,東証の取引データの解析でも、同期間のロンドン証券取引所で得た結果と矛盾なく符合する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度は,1. ニュース・インパクトの蓄積効果の検証,2. 市場参加者の協調的集団運動の検証,3. 市場参加者の予見と実際の価格変動との正のフィードバック効果の実証を研究実施計画として掲げた. このうち,1.2.に関しては,2008年10月8日(9月15日のリーマン・ブラザーズの破綻のおよそ3週間後)の暴落に関して,ロンドン証券取引所に上場されているFTSE100の構成銘柄の1分間隔の収益率時系列から構成したマーケット・モード(マーケット全体の協調的動きを表すモード)を”financial crisis”というワードを含むニュースの頻度との相関を分析することによって,ネガティブ・ニュースの印象が市場参加者の心理に蓄積され,その後の小さな市場の動きを契機として大きな価格変動を引き起こした例であることを検証した.また,同様の分析を東証に上場された日経平均の構成銘柄を用いても行い,同時期のロンドン証券取引所のデータと矛盾無く符合する結果を得た. これらの研究成果は次の点で不十分であると自己評価している.それは,ニュース.インパクトの蓄積効果の検証例が1例であること,市場参加者の協調的集団運動を検証するには,収益率のデータを用いるよりも注文のフローを分析する方がより直接的であると考えられることなどである. また,3.の目的のためには,ネガティブ(ポジティブ)・ニュースと現実の株価変動の相関係数の変動と現実の株価変動との協調的な動きをデータ分析により明らかにし無ければならないが,ニュース・ソースを扱うプログラム作成に手間取り思うように研究が進められなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
研究の達成度に関する自己点検評価で述べた,今年度の研究成果に対する不十分な点を補完するために,今年度は次のような研究を行う. 1. ニュース.インパクトの蓄積効果の検証を広範に行うために,2004年から2013年現在までの東証のデータを用いて,市場参加者の協調的集団運動の変遷とニューストレンドの追跡を同時に行う.その際,取引価格だけでなく注文フローにも注目する. 2. 市場参加者の予見と実際の価格変動との正のフィードバック効果の実証の目的では,世界不況,金融緩和などのワードとの関係に注目し,現実の株安や株高が引き起こされる様子を正のフィードバック効果という視点から分析する. また,25年度以降の研究内容としていた,内生的価格形成の数理モデルに関しても研究を進めたい. 3. 大きな時間スケールでの価格変動が小さな時間スケールの価格変動にまで伝搬することをモデル化したMulti-fractal Random Walk Modelや,価格変動が価格変動を引き起こすことブランチング・プロセスをモデル化したSelf-exciting Hawkes Modelを下敷きにして,精密な検証に耐える内生的価格形成の数理モデルを構築する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記研究計画と実施するために,昨年度に引き続き2012年,2013年分の日経NEEDティックデータ80万円,国内外の研究集会(7月に京都で開催される国際会議“Financial Networks and Systemic Risk”,9月にイタリアのVeniceで開催されるInternational Workshop “Statistical modeling, financial data analysis and applications”など)に出席して成果報告や議論を行うための旅費55万円,その他データ格納のためのハードディスクやその他の消耗品代10万円を使用予定である.
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