2013 Fiscal Year Research-status Report
水素爆発予知のための包括的反応モデルの構築と高圧化学反応追跡法の確立
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24510232
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
高橋 和夫 上智大学, 理工学部, 准教授 (10241019)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久世 信彦 上智大学, 理工学部, 准教授 (80286757)
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Keywords | 水素爆発 / 水素着火 / 酸水素反応モデル / 高圧衝撃波管 / 急速圧縮機 / 高圧着火特性 / 着火誘導期 |
Research Abstract |
水素は石油や天然ガス等の化石燃料に比べて質量あたりのエネルギー密度が非常に高く,地球温暖化の原因物質である二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーとして注目されている。将来的には水素が二次エネルギー源の主役となる可能性は十分に考えられるが,そのためには高圧縮充填した高圧水素を貯蔵・運搬する際の爆発・火災に対する安全対策が施されなくてはならない。このような水素爆発による事故を未然に防止するためには,爆発条件を定量的に予測しなくてはならない。このような背景のもと,本研究の最終目的は水素の高圧爆発(着火)限界を正確に予測することのできる包括的な酸水素燃焼反応モデルを構築することにある。 研究二年目にあたる平成25年度は,高水素濃度・高圧条件下の着火特性が既存反応モデルで定量的に再現できないという前年度に見出された課題について詳しく検討を行った。高圧では衝撃波管内で境界層が著しく発達するため,管壁付近の流体の運動エネルギーが熱エネルギーに変換されて部分的に温度が上昇する(Hot Spots)。このHot Spotsからプレ着火が起こるために,温度が空間的に均一であるとしたシミュレーション計算結果よりも早く着火が観測されることがわかった。そこで,境界層の発達に起因する温度・圧力上昇を考慮したシミュレーションモデルを開発して再計算を行ったところ,既存の反応モデルでも概ね適用可能であることがわかった。また,このような境界層の影響を考慮した複雑なシミュレーションを回避するためには,水素を不活性ガスで大希釈することにより,Hot Spotsのプレ着火を防止できることがわかった。 以上,衝撃波管による高圧着火実験においては流体力学的非理想性に起因する諸問題が示唆されるため,別の実験手法として高圧急速圧縮機を新たに製作し,酸水素の高圧着火特性を再評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究初年度にあたる平成24年度の主な達成目標は,水素の高圧着火実験を行って現行の酸水素燃焼反応モデルの問題点を把握することであり,高圧衝撃波管を用いて当初の計画通り研究を実施した。その結果,高圧かつ水素が濃い条件においては,現行反応モデルは 着火誘導期の実験値を大幅に過大評価してしまい,事故の定量的予測に応用できないことがわかった。 この実験結果について詳しく解析したところ,上述の不一致はただ単に反応モデルの不適合性によるものだけでなく,高圧衝撃波管内の流体力学的非理想性に起因する誤差も含んでいることが示唆された。そこで,研究二年目にあたる平成25年度は反応モデルの妥当性と実験誤差とを切り分けるため,異なった実験手法として高圧急速圧縮機を新たに製作し,酸水素の高圧着火特性を再評価した。 以上のように急遽高圧着火特性の見直しを行う必要が生じたため,実際の研究進捗状況は交付申請書の研究実施計画より約半年遅れている。しかしながら,研究最終年度に計画されている量子化学的手法による反応経路・速度データの理論的研究において,研究分担者を一名増員することにより,実施期間の短縮を計り,最終的に研究の遅れを取り戻すことが可能であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度にあたる今年度は,水素の高圧爆発(着火)における重要な反応経路と反応速度データを実験的・理論的に検討する。その成果として,実際の水素爆発を予測することのできる包括的な水素爆発(着火)反応モデルの構築を目指す。 1.分光学的手法による高圧での素反応過程の探究:反応追跡用化学衝撃波管を用いて水素の高圧爆発(着火)における律速段階やその他の鍵となる素反応の速度論的追跡を行う。具体的には水素原子・酸素原子の検出には原子共鳴吸収法(ARAS),OH, HO2の検出にはレーザー光源分子吸収法(LMAS)を用い,高圧での反応機構を素反応レベルで探究する。 2.量子化学的手法による反応経路・速度データの理論的決定:上記2種類の分光学的実験手法では追跡することのできない化学反応も存在すると考えられる。そのような素反応の経路および速度データを補完する手段として,非経験的分子軌道法に基づいた量子化学計算を用いて,理論的に解明する。 3.包括的反応モデルの構築:1および2で得られた成果をもとに,現行の水素爆発(着火)反応モデルの修正を行う.修正モデルを用いてシミュレーション計算を行い,平成24~25年度に測定した水素の高圧着火特性を再現できるかを確認する。この一連の手続きを繰り返すことにより,実際の水素爆発を予測することのできる包括的な水素爆発(着火)反応モデルの構築を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度への繰越はあるものの,2,047円という少額であり,平成24年度実施状況報告書の『次年度の研究費の使用計画』に沿って研究費は適切に使用された。 研究計画調書に沿って,水素の高圧爆発(着火)における重要な反応経路と反応速度データを実験的・理論的に検討する。分光学的手法による高圧での素反応過程の実験的研究においては,衝撃波管駆動用ヘリウムガス等の各種消耗品に使用する。また,量子化学的手法による反応経路・速度データの理論的研究においては,量子化学計算用のコンピューターを購入する予定である。以上のような実験的・理論的研究の成果として,実際の水素爆発を予測することのできる包括的な水素爆発(着火)反応モデルの構築を目指す。
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Research Products
(9 results)