2013 Fiscal Year Research-status Report
被翻訳後修飾タンパク質のNおよびC末端構造同時解析法の開発
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24510296
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
中沢 隆 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (30175492)
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Keywords | タンパク質の翻訳後修飾 / 質量分析 / プロテオミクス / アスパラギンの脱アミド化 / イソペプチド / タンパク質分解酵素 / 末端アミノ酸配列解析 / タンパク質の化学修飾 |
Research Abstract |
研究課題のNおよびC末端アミノ酸配列解析法に関しては、既に昨年度までに個別の方法を確立している。平成25年度はNまたはC末端のいずれかが翻訳後修飾を受けているタンパク質の同時解析法の開発に取り組んだ。 その過程で、タンパク質をトリプシンで消化することで断片化する従来法と異なり、側鎖にカルボキシル基をもつアスパラギン酸(Asp)とグルタミン酸(Glu)に特異的な酵素であるプロテアーゼ(GluC)を用いてC末端ペプチドを得る方法を試みた時、液体クロマトグラフィーと質量分析により、ペプチド中Aspまたはアスパラギン(Asn)が環化したイミノ基を含むペプチドの分離・同定に成功した。通常のペプチド結合がAspまたはAsnから側鎖のカルボキシル基に転移することは従来から知られていたが、その中間体であるイミノ構造をとるペプチドが分離された例はまだ報告されていない。本研究課題とも密接に関連するため、現在AspのN末端側でタンパク質を加水分解するプロテアーゼ(AspN)を用いてこの構造の確認を行っている。 一方、当初の目的の一つである、考古学資料中のタンパク質の同定法への応用において、分析の結果、資料の年代に応じたAsnの脱アミド化頻度の増大を認めた。脱アミド化は比較的短期間でも観察されるAsnばかりでなく、グルタミン(Gln)でも相当程度起こることを確認した。さらに、古代の絹資料のタンパク質消化酵素による分解物中に、酵素作用によらないペプチド結合の切断生成物を多数発見し、切断個所の多くがセリン(Ser)の関与するAsp-Ser、またはAsn-Ser間にあることを確認した。また、古代の骨や壁画の画材中のコラーゲンの分析の結果、アミノ酸残基数約1400のI型コラーゲン分子中、特定の三重鎖構造をとる部分の保存状態が比較的良好であることを認めた。この研究成果は、考古学分野での応用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予想したタンパク質の翻訳後修飾は、N末端のアセチル化や側鎖水酸基のリン酸化とグリコシド化程度であった。ところがNまたはC末端が修飾されたペプチドを分離する過程で、開発中の方法によってアスパラギン(Asn)の脱アミド化やペプチド結合の転移が検出できることが明らかになった。最近、免疫抗体タンパク質の医薬品としての利用が進み、こうした医薬品の劣化にアスパラギン残基が深く関わっていることが注目されている。本課題で開発した方法は、計画の段階では主に基礎生物科学分野における問題解決の手段として寄与することを期待したが、結果的には医学分野での病気の診断や、薬学分野での薬剤の分析に役立つ可能性が示された。この可能性を高めるための研究の成果が、当初の計画以上に進展している点である。 一方、この方法を考古学資料中で経年劣化の激しいタンパク質の同定に利用することも計画に含まれていたが、実際に古代の絹やコラーゲンの分析により、非常に高い頻度でAsnやGlnの脱アミド化が進行していることを明らかにできた。また同時に、タンパク質の経年劣化の要因として、セリン(Ser)やトレオニン(Thr)の水酸基が関与するペプチド結合の自発的加水分解が特定できた。 以上の点から、本研究課題で開発を目指している方法は、高度に修飾を受けた、あるいは著しく劣化したタンパク質の分析・同定法として予想以上の広い学術分野、すなわち自然科学の生物学、化学、医学、薬学だけでなく、人文科学の考古学や文化財の保存、修復にまで応用可能と考えられる。当初はやや控えめに結果を予想して計画をたてたが、古代の資料に恵まれたために計画が予想以上に進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
AspのN末端側でタンパク質を加水分解するプロテアーゼ(AspN)と、そのC末端側で加水分解するプロテアーゼ(GluC)を用いたときにそれぞれ生成するペプチド混合物について質量分析を行い、その結果をもとにタンパク質の両末端ペプチドの同時検出と同時アミノ酸配列解析を行う方法の確立を目指す。 この方法の応用として、(1)タンパク質中のAsn残基に関するペプチド結合の転移、脱アミド化、およびラセミ化の検出とその箇所を特定する方法、および(2)考古学資料中のタンパク質の劣化過程を(1)により解明し、当該タンパク質の同定とともに、資料の年代や産地の推定法に発展させる。それには、より古い時代の、より広い地域の考古学資料を集め、含まれるタンパク質の分析を進める必要がある。そのために、日本国内だけでなく国外の文化財関係の研究機関との共同研究が欠かせない。既に平成25年度にアメリカのGetty博物館(筑波大学と共同)やエジプトのカイロ大学(関西大学と共同)と行った紀元前の壁画の画材に関する研究の実績がある。 実験の面では、これまでの研究で明らかになったタンパク質の「異常」な分解や修飾をより簡便かつ確実に検出する方法の開発を目指す。そのために、特殊なタンパク質分解酵素や特異的な化学反応を利用する。また、質量分析において、従来のデータベース検索のアルゴリズムにこの「異常な」分解と修飾を考慮に入れたファクターを加えて、これまでほぼマニュアルで行ってきたタンデム質量スペクトルの解析を迅速化させる。 以上の研究の基礎として、タンパク質の劣化機構を化学的に明らかにする研究も推進する。
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