2012 Fiscal Year Research-status Report
ペプチドホルモン前駆体蛋白質を標的とした分子進化と生理活性成熟化機構の解明
Project/Area Number |
24510310
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
日高 雄二 近畿大学, 理工学部, 教授 (70212165)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 生物物理 / 生理活性ペプチド / 前駆体 / フォールディング / ジスルフィド |
Research Abstract |
研究計画に基き、以下について検討し、下記の成果を得た。また、幾つかの点については、予想以上の結果・進行が得られている。 1)進化促進部位の機能評価:ウログアニリンの生理活性部位であるAsn残基を種々のアミノ酸に変異した前駆体蛋白質について、in vitroおよびヒト293T細胞内での立体構造形成を検討した。その結果、in vitroでは効率よく立体構造形成が進行する変異体でも、細胞内では立体構造形成効率が著しく低下する場合が観察された。即ち、細胞内では、さらに厳密な立体構造制御機構が働いており、分子進化における品質管理機構の高い精度を示しており、その中心理論として、我々が提唱する局部的な生理活性部位の構造安定化と前立体構造の熱力学的安定化が相関することを示すものであった。 2)分子進化抑制因子の機能評価:ウログアニリンの進化抑制因子と予想される、C末端領域のII型ベータ-ターン構造の安定化のため、GlyをD-Ala, D-Valに置換したペプチドを化学合成し、その立体構造を評価した。その結果、それら置換体はいずれも野生型ウログアニリンよりもrigidな立体構造を有することが分かり、局部構造の安定化による前立体構造の安定化、即ち、分子進化を促進することに成功した。 3)前駆体の立体構造解析:生理活性部位のAsnをAlaに置換した前駆体を調製することができ、現在、結晶化を行っている。 また、上記研究成果に加え、前駆体蛋白質の立体構造形成に関し、天然型の正しいジスルフィド結合を形成させる機構の理論的考察を行い、反応中間体のジスルフィド交換反応を加速することに成功した。本研究の基盤をなす予想以上の好結果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、生理活性部位の局部的安定化と前立体の熱力学的安定化の相関を精査することにある。ほぼ予定通りの進行状況であるが、部分的には予想以上の結果・進行が得られている。 上記目的のため、平成24年度は進化制御・促進部位(生理活性部位)である-Asn-Val-Ala-のAsnに着目して研究を行い、当初の目的通り、in vitroおよび更にin vivoのモデルとして細胞内での立体構造形成に対する情報を得ることができ、計画通り順調に進展している。また、生理活性部位を支える他の部位についても、検討を始めており、その成果は当初よりも発展したものと評価できる。 進化抑制部位に対する研究では、成熟ペプチドでの立体構造評価は当初の予想通り進展しており、おおむね順調であったが、前駆体蛋白質を調製する手法において、化学合成ペプチドと遺伝子組み換え蛋白質を連結させる化学ライゲーション反応条件の設定に時間を多くとられた。しかし、最近、良好に生成物を得られるようになり、計画通り、今後の発展が期待される。 また、生理活性部位をささえるAsnの役割を調べるための結晶構造解析についても、既に、試料調製に成功しており、現在、結晶化条件を検討中であり、平成25年度での解析が可能であると予想している。 更に、平成25年度以降に行う予定であった他のペプチドホルモン前駆体蛋白質についても、既に検討を始めており、POMC、ヘプシジン前駆体について、生理活性に関する画期的な成果を得ている。これについては当初の予想を超えたものであり、平成25年度以降では、更なる発展が期待できる。 また、上記成果に加え、前駆体蛋白質の立体構造形成に関し、天然型の正しいジスルフィド結合を形成させる機構の理論的考察を行い、反応中間体のジスルフィド交換反応を加速することに成功した。本研究の基盤をなす予想以上の結果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、当初の予定通り、平成24年の結果を踏まえ、引き続き前駆体の変異蛋白質の立体構造形成と立体構造解析を行う。また、それらの情報を基に、人工的に分子進化を加速した生理活性ペプチドの創作を行い、新規ドラッグデザイン法の確立を目指す。 1)進化促進部位の機能評価:生理活性部位(-Asn-Val-Ala-)のAsn残基以外のアミノ酸(Ala)について、前駆体の立体構造形成に関する役割を評価する。即ち、Ala残基がターン構造の安定化と生理活性にどのように寄与するのかを、系統だった部位特異的変異体の立体構造形成を評価することにより行う。 2)分子進化抑制因子の機能評価:進化抑制因子としてのGly残基に対し、平成25年度以降は、II型のターン構造を安定化デザインとして、D-アミノ酸あるいはそれ以外の非天然型アミノ酸を系統的に導入し、その立体構造形成について検討する。また、それら変異体の立体構造解析を行い、抑制因子の存在意義とその制御機構について検討する。これらの結果基に抑制因子を除外することで、人工的に分子進化を加速したペプチドの構築を行う。 3)その他のペプチド前駆体蛋白質の生理活性構造の構築:本研究成果を基に様々なペプチドホルモンの分子進化を加速した人工ペプチドをデザインするためには、他の前駆体に対する研究が必須である。そこで、平成25年度以降は、その他のペプチドホルモン前駆体蛋白質、特に、POMC、ヘプシジン、pro-ANPについてそれらの生理活性と機能の相関を前駆体蛋白質の立体構造形成の概念に基づき検討していく。特に、POMCについては、それ単独および内在するペプチドの生理活性との相関に関して既にいくつかの重要な結果が得られており、更に発展を行う。 また、前年度に得られた天然型ジスルフィド交換反応促進による、前駆体蛋白質の立体構造制御機構について更に検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費は、主に、1)前駆体蛋白質の変異遺伝子作成に関する遺伝子組換え実験用の試薬・器具類、2)大腸菌および高等細胞からの組換え蛋白質の発現・精製実験用試薬・器具類、3)成果発表・報告のための旅費に使用予定である。 平成24年度において、生理活性部位の変異体の立体構造形成および構造解析に加え、既に報告した人工制御前駆体蛋白質の立体構造形成制御についても良好な結果が得られている。この人工蛋白質について、生理活性部位の機能評価と合わせて行うことにより、前駆体における分子進化の加速および進化抑制因子の評価を行う。いずれの場合も、平成24年度で得られた結果を基に新たな変異体を系統的に作成する必要があり、それらの遺伝子組換え実験および発現・精製実験に研究費の多くを使用する。また、平成24年度にウログアニリンやヘプシジン前駆体あるいはPOMCの立体構造制御について、重要な幾つかの知見が得られている。これら内容については、前駆体蛋白質に限らず、一般的な蛋白質の立体構造形成原理に対して非常に重要な知見であるため、国内の主要な学会および国際学会への発表・報告を計画している。そのため、研究計画当初の予定であった平成25年度の予算に加えて、これら発表・報告および更なる情報収集のための旅費等を余分に計上することを目的とし、平成24年度の研究予算を平成25年度に約55万円の繰越を行った。この繰越金については、国内(第13回日本蛋白質科学会年会)および米国生物物理学会国際会議(58th Annual meeting, San Francisco)での発表・報告・情報収集に使用予定である。
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