2013 Fiscal Year Research-status Report
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24510337
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
栗原 浩英 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (30195557)
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Keywords | 国際協力 / 地域協力 / 地方政府 / ベトナム / 中国 |
Research Abstract |
ベトナム国家第三文書館において,1954年から65年までの時期を対象に,ベトナムの現在のライチャウ・ラオカイ2省地域を含むタイメオ自治区(1955年~62年)・西北自治区(1962年~75年)・ハザン省と雲南省との間の地域協力に関する文献資料調査,及び中国で刊行された雲南省の地方史(紅河自治州志,文山自治州志,緑春県志,金平県志,河口県志,馬関県志,麻栗坡県志,富寧県志)を通じて,隣接するベトナム・中国両国の地方政府間に1960年代初めまでには国境貿易の管理,国境地帯の治安維持,国境地帯住民の移動管理等をめぐって実務協議に基づく交流関係が定着していったことが明らかとなった。現在の地方政府間関係との差異という点で特筆に値するのは,経済関係において,第一にベトナム側3省と雲南省間の貿易額・貿易品目が毎年双方の協議を通じてバランスを保つよう取り決められていたことであり,現在のような貿易不均衡(ベトナム側の輸入超過)が生じる余地は本来なかったことである。とはいえ,取決めを実現する過程に入ると,ベトナム側3省から中国に輸出する産品があまりなく,計画達成に苦慮している状況がうかがえる。ここからは,現在の貿易不均衡に通ずる問題がこの時期からすでに生じていたともいえる。第二には,ベトナム側で雲南省と隣接する3省の地方貿易を一括して所掌するラオタイハ輸出入公司(対外貿易省直轄)が1958年に設立され,任務にあたっていたことである。同輸出入公司設立の必要性は雲南省のカウンターパートと統一的に清算するためと説明されている。このように経済面で3省を包括する機関が存在する一方,非経済面で3省が連合して雲南省に対応する組織がなかったことは,現在と完全に逆転している点で興味深い。おそらく後者に関しては,1950年代,60年代は県レベルの個別対応で処理することが可能であったものと推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度は,1954年から1965年にかけて作成された,雲南省と現在のラオカイ省とライチャウ省を含む旧タイメオ自治区・西北自治区,ハザン省との間の地域協力関係に関するベトナム・中国双方の文書の調査研究を行った。その内容は,前年度に調査した広西壮族自治区とカオバン・ランソン・クアンニン各省との関係同様に,国境貿易の管理,国境地帯の治安維持,国境地帯住民の越境移動(親戚訪問など),債務問題,ベトナムから雲南に帰還した華僑の処遇,国境地帯住民間のトラブル(国境碑の位置や飛地をめぐる紛争)への対処,ベトナム戦争への対応等多岐にわたっており,地方政府間で1950年代後半から緊密な実務協議が行われていたことが明らかになった。また,経済関係は①基本的に双方の取引が均衡するように毎年協議を通じて合意されていた,②災害や戦争など双方の緊急の事態に対する支援や救援という性格をももつ,③双方の国内産業にダメージが出ないように配慮がなされていた,④ベトナムにとっては輸出を通じて中国側に負債を返済する意味も込められていた,などの点で友好と相互支援の精神に基づき管理された性格の強いものとなっていたことを特徴として指摘しうる。他方,現実には,ベトナムからの輸出産品の大半が中央(ハノイ)からの品目で占められており,地方の産品がほとんどないことなど,現在のベトナム・中国間の貿易不均衡に通じる問題も当時から存在していたことがわかる。 以上のように本研究の全体計画に照らして,雲南省と同省に隣接するラオカイ・ライチャウ・ハザン各省を範囲とする地方政府間関係においても,解明すべき点は基本的に達成されたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
尖閣問題に関連する中国外交部档案館所蔵資料が日本のメディアによって報道されたためか,あるいは習近平指導部の排外的な路線によるものか,中国外交部档案館は2013年に入り,日中関係に限らずそれまで公開していた資料の大半を閲覧不可能な状態にしてしまった。本研究の遂行にとっては大きな支障が生じたことは否定できないが,幸い2012年に同館で閲覧することのできた資料及びそれまでに試行的に収集してきた資料の分析,さらには以下のような方策を通じて研究を推進することが可能であると考える。 (1) 日本国内の各図書館,さらには中国国家図書館(北京)に所蔵されている広西壮族自治区及び雲南省関連の地方史(州志・県志)や外事志などの文献の分析を引き続き行い,中国外交部档案館所蔵資料からは読み取ることのできない通時的な地方政府間関係を把握することに努める。 (2)ハノイにあるベトナム国家第三文書館において,中国と隣接する各省(クアンニン・ランソン・カオバン・ハザン・ラオカイ・ライチャウ・ディエンビエン)と,広西壮族自治区・雲南省・広東省との関係に言及している資料の開拓に引き続き努める。代表者は2013年度ハノイのベトナム国家第三文書館において,資料を閲覧した。資料の閲覧には制限が多く,目録にあっても閲覧できないものも多いが,地方政府間の協力関係に関する文書には極めて詳細な記述がなされており,本研究の推進に大いに役立つことは疑いの余地がない。ベトナムではさらに,現在の地方政府間関係と1950年代~60年代の地方政府間関係の差異に焦点を絞って,ランソン省,クアンニン省,ラオカイ省各人民委員会(地方政府)でインタビューを行い,代表者による歴史資料の分析が適切であるか否かについても確認していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繰越金が生じた理由は,2013年8月のランソンにおける臨地調査の際,当初支払いを予定していた自動車借上料が,ベトナム社会科学アカデミー中国研究所の特段の配慮により免じられ,支払う必要がなくなったことによる。 本年度の当初の配分予定額90万円に,前年度の繰越金25,955円を加えた予算を以下のように使用する予定である。本年度も基本的には前年度と同様に,多くの部分をベトナムと中国における文献資料調査及び現地調査に充当する。具体的にはベトナム(ハノイ)と中国(北京)への海外渡航のための旅費として76万円(渡航期間21日×2回分),ベトナムでの現地調査,特にハノイから中国との国境地帯各省(ラオカイ省・ランソン省・カオバン省)への往復に際しての自動車借上代として10万円を計上する。また,物品購入としては,広西壮族自治区,雲南省に関する中国語の図書(特に地方史を記述したもの)の購入代金として65,955円を計上する。
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