2012 Fiscal Year Research-status Report
女性の割礼・結婚・出産をめぐるライフコースの変容:東アフリカ牧畜社会の地域研究
Project/Area Number |
24510341
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 香子 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 研究員 (60467420)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | サンブル / ケニア / 一夫多妻 / 恋愛結婚 / 未婚の母 / 学校教育 / スルメレイ / ライフ・ステージ |
Research Abstract |
文献研究・現地調査によりアフリカ女性のライフコースに関する知見を深めた。 現地調査は、24年8月末~9月末にかけて約1カ月間、ケニア共和国サンブル・モンバサで実施した。20代以上の女性を主たる調査対象として、インタビュー調査によって、名前、居住地域、生年、父親のクラン/年齢組/教育経験/職業、割礼時期、結婚時期、夫のクラン/年齢組/教育経験/職業、婚前の家族構成、婚前の恋人の有無と相手のクラン/年齢組/教育経験/職業、結婚後の家族構成、自身の教育経験/職業、出産回数と時期、離婚経験の有無と時期、未亡人であれば夫が亡くなった時期などのデータを収集した。帰国後は、個人の生年、割礼、結婚の時期をもとに、割礼時の平均年齢、結婚時の平均年齢などを世代ごとに整理し、過去約60年の女性のライフコースの変容の動態の把握につとめた。 現地調査で取得したデータの分析過程で、「スルメレイ」とよばれる「ライフ・ステージ」が、この20年の間に誕生したことが明らかになった。「スルメレイ」については1960年代の調査にもとづく報告にもすでに記載されているが、その意味付けの変化が注目に値する。従来のサンブルの女性のライフコースは、「未婚=未割礼」「既婚=既割礼」というふたつのステージに分かれており、例外的に結婚に先んじて割礼を受ける女性たちが「スルメレイ」とよばれてきた。これは、身体や精神に障害があるために結婚が遅れた場合や、弟や妹の結婚が先に決まった場合(サンブル社会には同母兄弟姉妹のあいだでは必ず年長者が先に割礼を受けるという規則がある)に発生し、どちらかといえば女性たちは仕方なく「スルメレイ」になってきた。しかしながら近年では、学校教育を受けた女性を中心に、結婚が決まらなくても割礼をすませる女性が急増し、これが学校教育を受けていない女性にも急速に広がり始めていることが実証的に明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ケニア共和国の大統領選挙が25年3月に実施された。これに伴い、当初の想定以上に政情不安が予測され、多くのケニア在留邦人が一時退避のため帰国するという状況にまでなったたことから、2-3月に予定した調査のための渡航を延期した。すでに24年8-9月の現地調査で十分な量のデータが取得できていたため、この期間は日本でのデータ分析にあて、研究全体に大きな遅延をきたすことはなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度に収集したデータの分析結果、およびその考察を、研究会、学会で積極的に発表し、今後の調査の方向性を再検討していく予定である。特に、民族間の比較の視点が不足しているため、現在の調査対象であるサンブル以外の東アフリカ牧畜社会についての知見を得る必要性を感じている。このためには文献研究だけでなく、現地調査を実施することが望ましいと考えられる。サンブルで取得したデータとほぼ同様の項目について別の牧畜社会のデータを取得し、両者を比較することで、全体の傾向やサンブルの独自性、その背景のより詳細な分析が可能になる。そして、現在すでに取得している歴史的な比較、サンブル内での高地/低地という生態学的に異なる地域間比較の視点と統合することによって、より包括的な分析をおこなっていく。 また、当初の計画に沿い、女性の割礼・結婚・出産の相互関係を解明するために、未婚期の出産への対処(中絶/出産)とその決断の背景となる事実についてのデータを取得し、さらにそれを、割礼前と割礼後に分けて分析をすすめる。また、女性本人の教育レベルや、家族(父、母、兄弟、夫など)の教育レベルと、女性の割礼時期、結婚時期、およびライフコース全体との関係についても数値データにより分析を進める。 こうした数値データと同時に、今後大きな課題となるのが質的なデータの充実である。ライフヒストリーの聞き取りから、個々人のもつ価値観、これまでの人生における選択をどのように行ってきたか、迷いや後悔などを含めた、ニュアンスのある語りの収集を可能とするような調査が必要だが、このためには、調査対象者である女性たちとのあいだに強い信頼関係が必須であり、このことにじゅうぶん配慮しながら調査・研究を推進していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
文献研究、学会・研究会での発表と議論をとおして、研究を深めていく。このために、5月に日本アフリカ学会(東京)、9月に東アフリカ牧畜研究会(長崎)、11月にアメリカ・アフリカ学会(ボルチモア)に参加し、発表することがすでに決定している。これらの旅費に約40万円支出する。また、比較研究のため、サンブル以外の東アフリカ牧畜社会としてエチオピアのオロモでの調査を計画中(旅費・謝金に70万円支出)であるほか、サンブルでは約1ヵ月の現地調査実施する(旅費・謝金に80万円支出)。現地調査では、通訳と調査助手を雇用するほか、車両借り上げを予定している。これらの発表資料作成、および、現地調査のデータ入力と整理のためにノートブック・パソコンを1台購入する。その他、文献の購入に加え映像・画像資料も分析対象としているため、必要に応じてAV機器を購入する(物品費として約40万円支出)。
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