2012 Fiscal Year Research-status Report
ポスト公民権時代の米国の北・中西部都市における人種関係の変容に関する地域研究
Project/Area Number |
24510347
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
藤永 康政 山口大学, 人文学部, 准教授 (20314784)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 人種 / 公民権 / アメリカ / 黒人 / 人種主義 / 労働運動 / 60年代 / ラディカリズム |
Research Abstract |
3年の研究の初年度にあたる2012年度は、①研究代表・藤永が既に所有している2つのマイクロフィルム・コレクション(Student Nonviolent Coordinating Committee Papers, Congress of Racial Equality Papers)の閲覧・検討、ならびに②アメリカ合衆国での文書史料調査を中心に研究に従事した。以下、それぞれの調査内容について、その詳細を記す。 ①マイクロフィルム・コレクションを利用した調査 本研究の過程において、1950年代半ばに興隆する公民権運動は、それまでの黒人の主流の運動に対する異議申し立ての要素が強いものであり、既存の先行研究はこの点を軽視していることが判明した。1940年代半ばからのアメリカ黒人の運動では、「体制批判」を回避しつつアメリカン・リベラリズムに寄り添う形で黒人の地位向上を目指す傾向が強まるのを確認することができる。そこで本研究は次のような仮説を立てた――1960年代以後の黒人の運動の急進化の開始は、このような「運動の狭隘化」に抗うという性格を強く有するものであり、この特質こそその後のブラック・パワー運動に直接継承されていくものである。ゆえにブラック・パワー運動とは、1930年代のラディカリズムが、若干の質的変容を伴いながら、いわば隔世遺伝的に継承されたものである。 ②アメリカでの調査 アメリカでの調査は上の仮説に基づき調査を進めた。その成果は、9月22日に開催された日本アメリカ史学会第9回年次大会(一橋大学)でのシンポジウム報告(論題「公民権運動とブラック・インターナショナリズム」)、および学術論文「ブラック・パワーの挑戦とアメリカン・リベラリズムの危機 ── ニュー・デトロイト委員会の活動を中心に」(『アメリカ史研究』第35号)にて発表している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が主たる研究の対象とするのは、1960年代後半から80年代初頭にかけてのデトロイトとシカゴである。この研究目的にしたがって、2012年度の前半では、1967年の「大暴動」前後のデトロイトにおける黒人の運動の検討に従事し、それは『アメリカ史研究』第35号所収の論文「ブラック・パワーの挑戦とアメリカン・リベラリズムの危機 ── ニュー・デトロイト委員会の活動を中心に」として発表した。本論文において改めて確認できたこととは、暴動を境に発言力を増大させるデトロイトのラディカルな活動家たちが、「第三世界主義」を掲げることで、既存の黒人運動とも、そしてまた同市において強い影響力をもつリベラルな労働運動とも一線を画したと言う点であった。60年代後半の情況についての整理は、デトロイトに関する限り、順調に推移したと結論することができる。 ところがしかし、ここまでの研究で明らかになったのは、ラディカルな活動家たちの言動が、実在する第三世界の運動との具体的な連携を欠くものであったということである。それゆえ、本研究の主眼であるリベラルと保守のあいだを往き来する運動家の揺らぎを探り、何故彼ら彼女らの言辞が象徴性だけのところで止まらざるを得なかったのかを解明するために、2012年夏以後は、1960年代以前について若干補足的調査をする必要性を感じた。 それゆえ、夏のアメリカでの調査は、①「60年代以前」の黒人の運動の思想的編制について補足的調査をすること、②引き続き60年代後半のデトロイトについて調査をさらに進めることを目的に実施した。①については、日本アメリカ史学会第9回年次大会のシンポジウム報告でその成果を発表している。 もとより60年代以前の情況は、本研究の主たる対象からは少し外れるところがある。しかしながら、本研究全体の水準を上げるために、この実証的考察は不可欠のものであったと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後については、以下に別記する初年度に遅れてしまった分野の早期の挽回を目指す点を除き、おおむね交付申請書に記したとおりで進めていく予定である。 まず本年度は、シカゴ歴史学博物館、シカゴ公立図書館において、Leadership Council of Metropolitan Open Communitiesや、Chicago Commission on Human Relationsなどの文献を調査したい。また昨年の調査で判明したことは、本研究と公立図書館所蔵のいくつかの文献が強い関連性をもっているということである。そこでハロルド・ワシントン関係の文書を中心に、同地での文献史料調査を行いたい。 昨年度の計画のなかで実施することができなかったのは、実際の活動家との面会調査である。そこで本年度は上記の史料調査に加えて、26年度での本格的実施を目指しつつ、その予定を確定するとともに、関連の調査を行うことにしたい。そこで本研究にとって恰好の機会となり得るのが、8月末にワシントン大行進50周年を記念して、ワシントンのハワード大学で開催される予定の研究者やアクティヴィストたちが集うフォーラムであり、夏のアメリカでの文書調査のための渡航に併せて、この大会行事に参加したい。また本年度の後半には、書籍刊行のための準備も本格的に開始する。 本研究の最終年度にあたる平成26年度には、ワシントン、ミシガン州アナーバー、デトロイト、およびイリノイ州シカゴで追跡・補完リサーチを行い、面会調査を実施する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の予算のうち、310千円が次年度使用額へ繰り越された。これは当初予定していた新品のマイクロフィルムリーダーを新古品に代え、プリンターを付属させて使用する形式のものから、デジタル化する形式のもの変更し、当初予算より安価な物品を購入したことによって生じたものである。これは次年度において調査旅費として使用することを計画している。その細目は以下の通りである。 海外調査旅費750千円;国内史料調査旅費250千円;マイクロ文献複製代金80千円;文具備品30千円
|
Research Products
(2 results)