2013 Fiscal Year Research-status Report
ポスト公民権時代の米国の北・中西部都市における人種関係の変容に関する地域研究
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24510347
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
藤永 康政 山口大学, 人文学部, 准教授 (20314784)
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Keywords | 人種 / 公民権運動 / アメリカ / 黒人 / 人種主義 / 都市 / 選挙 / 60年代 |
Research Abstract |
3カ年の計画である本研究は、本年度で2年目を迎えた。本年度は、①前年度に引き続き、研究代表・藤永所有のマイクロフィルムコレクション(Student Nonviolent Coordinating Committee Papers, Congress of Racial Equality Papers)の閲覧・検討、②ワシントン大行進50周年記念行事への参加、③アメリカ合衆国シカゴでの史料調査を中心に研究を進めた。 本研究の大きな課題のひとつは、ポスト公民権時代の米国社会とアメリカ・リベラリズムの変容過程を人種関係の側面から解明することにある。その点において、オバマ大統領当選の意義を公民権運動史の側面から考察することは、計画半ばにさしかかった時点できわめて重要である考え、これを論文にまとめあげることを目指した。そこで、「初の黒人大統領」がいかに公民権運動のイメージを喚起しているのかを、公民権運動の実像と比較のうえで検討し、公民権運動後半期のラディカルな運動の姿が、今日の公的記憶のなかから欠落していることを明らかにした論文を公刊した。 本年度の史料調査は、ハロルド・ワシントン関連史料を中心に進め、きわめて実りの多いものになった。そこで判明したことは以下のとおりである。同市初の黒人市長の誕生をみた1983年シカゴ市長選挙は、激しい人種間対立が浮上したことを大きな特徴とする。アフリカ系アメリカ人で連邦下院議員のワシントンを擁立するにあたって大きな役割を果たしたのは、1966年同市の公民権運動の中核を担った人びとであり、彼らが喚起した公民権運動のラディカルなイメージこそ、人種間対立が浮上する大きな誘因となった。これは「黒人の進歩」が反面において人種間対立と併存していたことを示す実例だと思われる。上に記したオバマに関する論文の結論と併せて最終年でさらに深めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上の「研究実績の概要」のところでも簡単に記したが、本年度のシカゴでの調査は、本研究の目的である、ホワイト・バックラッシュの形成過程の実証的解明、ならびに黒人を中心とした連合政治形成の過程の解明という本研究の目的に即し、きわめて重要な成果があがったと考えている。それは具体的には以下の通りである。 シカゴ公立図書館所史料の調査を通じて、一般にアフリカ系の市民運動の延長線におかれれて論じられることの多いハロルド・ワシントンの市長選候補擁立の動きが、1966年の「シカゴ・フリーダム・ムーヴメント」――北部都市を中心とし、直面する課題の大きさから失敗したとされる、住宅の人種隔離撤廃を目指した公民権キャンペーン――と、人的にも戦略的にも密接な関連があることが判明した。1966年の運動は、住宅問題を取り上げることで、公民権連合の一部を担っていた北部白人リベラルの離反を招いたとされている。1983年のハロルド・ワシントンの選挙戦において喚起されたものとは、このときの公民権運動のイメージにほかならない。ワシントンの選挙キャンペーンは、一方において、1960年代後半から70年代にかけて選挙政治への参加が低調であったアフリカ系市民をかつてない規模で動員することに成功したのだったが、他面においては、ヨーロッパ系市民のあいだに住宅地や近隣学校への「黒人の侵入(black invasion)」の恐れを喚起したのである。なお、この研究成果は、平成26年度中に、英語論文としてまとめあげ学術誌で発表する予定である。 これは、1990年代後半から擡頭する「黒人政治家の第2派」が、何故、公民権運動と距離をとることを特徴としたのか実証的に解明する大きな手がかりとなるであろう。これは、本年度前半に著した拙稿「黒人政治の黄昏 ── バラク・オバマの時代と公民権運動の選択的記憶」『歴史学研究』907号での所論と直接つながるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の調査の結果、若干遅れがあると思われる領域は、上にも記したように大幅な進捗がみられた。最終年度においては、①実証的研究の側面、②研究成果発表の側面から、さらなる研究の進捗を目指したい。詳細は以下の通りである ①本研究で残された課題は、ホワイト・バックラッシュの北部的側面を解明することである。その点で、労働組合を中心とするリベラルな政治連合の一翼をになった組織・団体の動きを実証的に検討することが重要であると考えている。そこで、当初の予定どおり、ミシガン州デトロイト、イリノイ州シカゴでの追跡・補完リサーチを実施したい。 ②研究成果発表に関しては、1)本年度、昨年度の史料調査の結果を論文にまとめあげ公刊すること、2)当初からの予定にある書籍原稿の仕上げに取り組みたい。 なお、当初計画の課題でもあった運動当事者の聞き取り調査については、スケジュール調整の段階で躓いたままである。これは、まず第一に、研究代表・藤永の現地調査日程がひじょうにタイトなスケジュールにならざるを得なかったことから起因するものであり、本年度は、それを反省し、場合によっては複数回の渡米を含めて日程調整を慎重に行っていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に、マイクロフィルムリーダーを新古品にしたときに生じた繰り越し予算310千円のうち、一部旅費で使用したのを除き、290千円が引き続き繰り越されるかたちになった。 「今後の研究計画」にも記したように、聞き取り調査のために複数回の渡米を考えている。所期計画の旅費には、この調査費が十分に計上されていないため、このための海外調査旅費としての使用を考えている。
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Research Products
(2 results)