2012 Fiscal Year Research-status Report
越境結婚からみる台湾「国民国家」の変容と東アジア地域秩序の再編に関する動態的研究
Project/Area Number |
24510354
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Fuji Women's University |
Principal Investigator |
金戸 幸子 藤女子大学, 文学部, 講師 (60535699)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 越境結婚 / 台湾 / 東アジア / 国民国家 / 地域秩序 / 多文化主義 / エスニシティ / ジェンダー |
Research Abstract |
平成24年度は、(1)台湾をめぐる越境結婚の展開を多様なアクター間の連関に注目しながら把握するために、政府機関や政府関係者、移住者支援組織への聞き取り調査を実施した。(2)あわせて結婚移住者を対象とした場での参与観察のほか、そこを通じての移住当事者らへの聞き取りも行った。(3)また、今後の現地調査の深化に向けての手掛かりや可能性を探るために、台南県白河鎮の「越南文化村」とその周辺を視察し、初歩的な聞き取り調査を実施した。 以上の調査研究から見出されたことは、大きく次の3点である。 (1)台湾に結婚移住女性が増加してすでに10年ほどになるが、現在では、起業したり移住者支援組織の中核となる者も出現しつつある姿がみられた。また、今回調査を実施した移住者支援組織では、いずれも「原住民」が支援組織の中核として関わっているのが興味深い点であった。一方、同じ東南アジア出身者でも、出身国によって移住者のバックグランドや移住に至るルートが異なっていることから、「東南アジア出身者」として一括りに捉える台湾政府の結婚移住女性向けの政策が、果たして現場のニーズと合っているのかという疑問も提起された。 (2)台湾への越境移住を促すネットワークとして、エスニシティによる越境的なネットワークが少なからず作用している様相がみられた。また、中国大陸籍との婚姻は、エスニシティに関わらず多様化が進んでいる。両岸間の直行便の開設や「両岸経済協力枠組協定」(2010年6月制定)の施行、また台北市、台南市や高雄市での在台日本人を対象とした調査から、台湾北部と中国大陸(上海・浙江省・江蘇省など)との生活空間の一体化も進んでいる様相も看取された。 (3)移住者の台湾社会への適応過程に与える影響として、移住先地域の住民エスニック構成、家族のエスニックな背景、およびそれによる使用言語の相違が大きく作用していることが再確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、現代台湾における移民政策について、従来の先行研究に不足していた「編入モード」概念に基づいて分析し、それを通じて台湾の多文化主義の特徴と展開を現地調査と理論的考察によって明らかにすることを目的としたものである。さらに、それを通じて看取される現代台湾をめぐる人の移動の動態とその背景要因から、東アジア、東南アジアを中心とするグローバルなジェンダー、エスニシティ、社会階層をめぐるハイエラルヒーの台湾というローカルな文脈における再編強化が、台湾の「国民国家」やナショナル・アイデンティティの変容に与える影響を追究し、それが周辺社会に与えるインパクトや東アジアの地域秩序の再編に与える影響について解明することを目指すものであった。 この研究目的にアプローチするために、本研究計画においては、(1)台湾における移民の「編入モード」と台湾多文化主義の特徴の把握、(2)越境結婚移民の増加が台湾のナショナル・アイデンティティの変容に与える作用や影響の解明、(3)越境結婚の増加が台湾の「国民国家」と東アジアにおける地域秩序の再編に与える影響の展望、の主に3つの研究課題を具体的に設定した。 そこで平成24年度は、(1)の研究計画の遂行に重点を置きながら研究を進めることが当初の計画であったが、「研究実績の概要」に記したとおり、(1)の研究課題のさらなる進化はもとより、(2)や(3)の研究課題に繋げていく上での重要な手掛かりをつかむことができた。このことから、当初の研究目的はおおむね達成できていると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成24年度の調査から明らかになりつつある点に関して、台湾の移民政策の実態と経緯にも相互に関連付けながら、より重点的にインテンシヴな現地調査を実施することにより研究を掘り下げる。平成25年度は、とりわけ以下の調査研究を実施する予定である。 (1)移住者の台湾社会への編入過程について、移住先地域の言語的社会的多様性を踏まえた調査をさらに進める。とくに平成25年度は、台湾北部の都市部とは社会環境が異なる台湾南部の調査を重点的に行う。 (2)平成24年度の調査において、台湾への越境移住を促すネットワークとして、たとえば「客家」にはインドネシアの華人が嫁いできているケースが多く、また、「門+虫(ビン)南系本省人」の多い台湾南部には、福建省からの移民が多い中国の海南島を介してさらにベトナムへと繋がり、そこから結婚移住者が来ているケースが多いといったように、エスニシティによる越境的なネットワークが少なからず作用している様相がみられた。また、中国大陸に経済進出した中間層が現地の中国人女性と出会うケースや、留学先で知り合い結婚するケースも増えるなど、両岸間の越境結婚の実態が多様化している。こうした点が見いだされたことから、台湾への主な移民送出地域である中国・ベトナム・インドネシアや、シンガポールなど台湾と類似した移民政策を取るアジアの国・地域での現地調査も可能な限りあわせて実施しながら調査研究を進めることも念頭に置く。 これらにより、台湾のエスニック関係が、移住者が入ったことによって以前とどこが変わり、どこが変わらないのか、台湾多文化主義の展開の一端をさらに掘り下げて検討する。それを通じて、移民の「編入モード」と移民政策からみる台湾の多文化主義の特徴とその変容、また台湾のナショナル・アイデンティティの変容の一端を明らかにし、平成26年度の研究実施計画および総括に繋げていく方針である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題実施2年目にあたる平成25年度の研究費の使用計画は以下のとおりである。 (1)「物品費」について、平成24年度は、購入を予定していた翻訳関連ソフトの購入を別の科研で研究分担者として配分された研究費や間接経費により賄ったことや、平成24年度内に購入を予定していたアンケート作成実施関連ソフトの購入などを諸般の事情により次年度以降に見送ったという経緯がある。平成24年度においては、研究費未使用額(繰越額)が全体で約45万円発生することになったが、これはこうした事情から、「物品費」の使用が当初の予定より少額で済んでことが大きく関係している。平成25年度は、交付申請書に記載した「研究の目的」および「研究実施計画」に記したように、越境結婚移民の増加が台湾のナショナル・アイデンティティの変容に与える作用や影響についての解明にも着手していく予定であることから、「物品費」については、関連図書の購入のほか、主にアンケート作成実施関連ソフトの購入など、この研究内容を効率よく遂行できるような機材の購入にも、平成24年度における残額と合わせて充てることを計画している。 (2)平成25年度においてもっとも配分額が大きくなる「旅費」については、台湾での現地調査の遂行のほか、台湾への主な移民送出地域(中国・ベトナムなど)や台湾と類似した移民政策を取るアジアの国・地域での現地調査での調査費用に充てる予定である。 (3)「人件費」については、現地調査における研究協力者や通訳補助者への謝金のほか、日頃の国内外における文献研究やデータとりまとめの際の研究補助者への謝金に充てる予定である。
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