2014 Fiscal Year Research-status Report
越境結婚からみる台湾「国民国家」の変容と東アジア地域秩序の再編に関する動態的研究
Project/Area Number |
24510354
|
Research Institution | Fuji Women's University |
Principal Investigator |
金戸 幸子 藤女子大学, 文学部, 准教授 (60535699)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 越境結婚 / 台湾 / 国民国家 / 東アジア / ジェンダー / エスニシティ / 移民政策 / 多文化主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、(1)台湾での移住者コミュニティと移住者支援の動向について、台湾での継続調査に加え、主要送出先であるフィリピンと中国で調査を進めた。(2)政策面に加え、台湾社会の外国籍の人々に対する意識を把握するために、台湾住民を対象に「多文化受容性意識調査」を実施し、20代から60代までの台湾住民(男女約半々)から621サンプルを収集した。(3)一方、台湾から中国への移住者の動向と実態の把握に向けて、台湾人の子どもたちが通う台商子女学校(上海・華東)と台湾系企業数社にて、教師、親とその子どもたち、従業員を対象に越境移住動機・意識・生活戦略に関するヒアリング調査を実施した。 以上の調査研究の結果から明らかになった点は、大きく次の二点である。(1)まず、中国・東南アジア・日本からの移住者に対する支援や移住当事者への調査から、SNSを通じた越境的な草の根型のネットワークの形成と多様化が進みつつあり、それによっても移住者のエンパワメントが促されつつある。また台湾の移民者支援については、政府においても市民組織においても、2000年代末期を境に、「同化」から「二つの文化の習得へ」という方向に政策の方向性が変化しつつあることである。これについては、2014年に北海道大学・台湾中央研究院社会学研究所共催ワークショップおよび社会政策学会日本・東アジア部会シンポジウム招待報告において、その成果の一部を公表済である。(2)次に、中国で働く台湾人を対象とした調査からは、自らが「台湾人」であるという自覚を持ちつつも、将来の定住の場として台湾と中国のどちらを志向するかについては、とりわけ20代から40代の世代においては、政治意識よりも生活意識の方が強く働くようになっている点が浮き彫りになったことである。本成果の一部については、2015年度日中社会学会年次大会にて公表する予定であることが決定済である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の「研究実績の概要」に記載したように、これまでの調査研究から、台湾の婚姻移民を中心に「新移民」を対象とした政府の政策や市民組織における支援の動向を検証するプロセスにおいて、台湾の移民政策・多文化主義の特徴や「新移民」に関する先行研究で指摘されてきた点を乗り越えるような新たな知見を加えることができた。 また、平成26年度に実施した中国(上海を中心とする華中地域)で働き生活する台湾人を対象とした調査から、現代台湾の20代から40代の青壮年層においては、中国や台湾に対するアイデンティティの決定要因は、必ずしも両親のエスニシティや政治アイデンティティの志向性とは一致しないようになってきていることが見い出せた。このことから、研究の発展可能性の探索に向けて、台湾のエスニシティや「台湾人」アイデンティティに関する研究にも接続しうるようなひとつの重要な手がかりをつかむことができたと考える。 以上の成果から、現在までの研究の進捗状況は、おおむね順調に進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題実施期間内において残された課題として、平成27年度は主に次の三点について研究を進める。 (1)台湾社会の外国籍住民に対する意識の実態把握に向けて、平成26年度に台湾住民を対象に「多文化受容性意識調査」を実施し、621サンプル(20代男性64、30代男性74、40代男性78、50代男性72、60代男性22、20代女性61、30代女性88、40代女性87、50代女性63、60代女性12)を収集した。詳細な分析は継続中であるが、今後、得られた各質問項目の回答結果について、属性ごとの分析や多変量解析を行う必要がある。また、これらの結果について、フィールドワークから収集した事例・知見や台湾・中央研究院による「台湾社会変遷基本調査」のデータとも照らし合わせながら、分析を掘り下げていく。 (2)中国で働く台湾人を対象とした調査については、平成26年度には上海を中心とする華中地域において調査を実施した。その結果、中国や台湾に対するアイデンティティの決定要因において、従来の研究で指摘されてきた政治要因よりは、生活要因の方が大きく作用するようになってきていることが見出された。しかし、中国で台湾人が従事する職業・業種等は、地域によっても多少の違いがみられることから、本知見を普遍化させるには、中国の他地域に在住する台湾人の移住動機・意識・生活戦略についても把握し、それとも比較・対比させた上で考察する必要がある。そこで今後は、華中地域と並んで中国在住台湾人が多い地域である華南地域でも調査を行うことで、この点に関する事例・サンプルを増やしながら検討を進める。 (3)「研究実績の概要」に記したこれまでの知見と上記の(1)(2)とを総括し、研究成果を概念レベルで昇華させ、理論化させていきながら、台湾が「国民国家」としていかに変容し、それがさらに東アジア地域秩序の再編にどのようなインパクトを与えているのか、その展望も含めて明らかにする。
|
Causes of Carryover |
平成26年度において、台湾に加え、中国(華中地域および華南地域)においても調査を実施する方向で研究を進めてきた。しかしながら、平成27年2月から3月にかけて予定していた中国華南地域での調査が、主な訪問予定先機関側における事情の変化により、上記期間において、訪問予定先機関、研究協力者および研究代表者間とで日程調整の折り合いがつかず、平成26年度内の調査遂行が日程的に困難な状況となった。この点については、調査計画当初においては想定されなかったことであり、そのため、未使用額が20万円弱生じることとなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記未使用額については、繰越申請により、本研究課題の補助事業期間の延長が平成27年度まで承認されることになった。したがって、上記の繰越申請額については、平成27年のできるだけ早い時期に、中国華南地域(主に中国廈門市とその周辺地域)において、台湾関係機関(団体、学校、企業等)でのヒアリング調査実施に関する費用に充てる予定である。
|
Research Products
(7 results)