2012 Fiscal Year Research-status Report
労働概念の拡張による再生産/生産領域の包括的分析―川俣町ケア供給体制のジェンダー
Project/Area Number |
24510371
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
萩原 久美子 東京大学, 社会科学研究所, 助教 (90537060)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 保育政策 / ジェンダー / 保育士 / 労働のジェンダー化 / ワークライフバランス / 両立 / ケア供給体制 |
Research Abstract |
ケア供給体制の安定的維持とジェンダー平等とを同時追求できる「労働」の組織化の可能性を検討するという研究目的から、本年度は以下の作業に着手した。 第一に、「労働」概念に関連する文献サーベイを行い、分析枠組みの精緻化をはかった。その作業を基盤として、本年度の大きな成果はとして、主たるフィールドとする川俣町と同じ分析枠組みを用いて、都市部の自治体(大阪市)におけるケア供給体制に接近できたことである。それにより、分析枠組みの有効性と課題を確かめるとともに、川俣町の事例を相対化することが可能となった。大阪市でのフィールドワークでは、生活保護率の高い地域における保育所を基盤に、保育者の労働と親の労働との連関、家族生活と職業生活の組織化の実態をインタビュー、参与観察で明らかにした。この作業をを通じて、二つのフィールドに共通する社会的な「時間」の組織化と児童福祉法関連の規定・通知における「時間」との非整合性がもたらす問題点と労働のジェンダー化の契機に迫ることが可能となった。 第二に、児童福祉法の規定に関する史資料の収集を継続している。本年度の進捗として、その資料収集と分析で得た知見をもとに、2000年以降の職業生活と家族生活の両立に関連する政策の分析を行い、現代との接続を試みたことであった。フィールドワークで見出されたミクロな「労働」の組織化と、マクロな政策との連関を念頭に、保育政策、雇用政策、育児休業制度等をはじめとする時間制度政策との内部連関に着目し、いわゆる「均等法体制」と呼びうる労働のジェンダー化体制の形成とその再生産のメカニズムを仮説的に見出すことができた。以上の作業を通じて、マクロには上記の三つの制度の内部連関が特定の女性労働者を排除するものとなっていること、日本の保育者のローロードの出現が2000年以降に顕著になったという知見に到達することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ケア供給体制の安定的維持とジェンダー平等とを同時追求できる「労働」の組織化の可能性を検討するという研究目的に向かって、研究計画に従い、文献サーベイと分析枠組みの検討、および史資料の検討を行うことができた。またフィールドを対象化するという点で、他のフィールドとの比較対象が行えたことは大きい。その結果、ミクロ―マクロリンクの分析から、「労働」のジェンダー化における構造的特徴やケア供給体制におけるローカリティに接近しえた。それにともない、主たるフィールドである川俣町における戦後から現在までのローカルなケア供給体制の形成、確立、再編過程とそこに埋め込まれたジェンダー関係に一定程度、肉薄しえた。しかし、調査・分析において東日本大震災後の復興過程という時間軸がやや手薄となっている。その点でのフィールドワークを実施できなかったため、次年度は本格的に力を入れたい。 また、当初、25年度後半に保育所の保護者(約100人)とその祖父母世帯(約100世帯)を対象とする質問票による量的調査を検討していたが、人口動態の変化によるサンプル数の確保とデータ上の量的分析の有効性の問題から、むしろインテンシヴなインタビューを行う方向に転換することになった。
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Strategy for Future Research Activity |
自治体における保育政策と実施を軸として、フィールドにおける戦後から現在に至るまでのケア供給体制に関し、一定程度、明らかになったが、東日本大震災後の復興過程という時間軸がやや手薄となっている。 本年度はこの点に力を入れるため、第一に、現在、保育所を利用している保護者とその祖父母へのインタビュー、さらに保育者の労働実態に関するインタビューを行う。できうる限り、震災前後の変化を視野に入れ、その供給体制の変化について明らかにするものとする。同様に被災地ではない自治体でのポスト3.11という観点から、比較対象とする大阪市のインタビューを補足的に継続する。これらのデータは再度、マクロな政策変動とミクロなケア供給体制の変動とを視野において、分析される。 第二に、議事録資料および財政資料等の町政関連資料などフィールドでの資料収集の整理、分析を進める。それにともない補足的インタビューのを継続し、初年度に実施できなかった議員をはじめ、労働組合関係者へのインタビューを試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費は主として図書関連として、▼社会政策、労働、児童福祉、ジェンダー関連図書(和洋書:平均単価5000×20冊)▼川俣町・福島県関連東日本大震災関連図書・資料(平均単価2000×20冊)を見ている。調査・研究旅費として、▼フィールド(川俣町、大阪市)への交通費および、▼成果発表旅費を(社会政策学会秋季大会または日本社会学会等)を予定している。なお平成25年度より所属が変更になり、旅費経費が交付申請時よりも大幅に増加する可能性がある。
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