2013 Fiscal Year Research-status Report
労働概念の拡張による再生産/生産領域の包括的分析―川俣町ケア供給体制のジェンダー
Project/Area Number |
24510371
|
Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
萩原 久美子 下関市立大学, 経済学部, 教授 (90537060)
|
Keywords | 労働 / ジェンダー / 保育政策 / ケア / 保育士 / 労働組合 / 公務員 / ワークライフバランス |
Research Abstract |
東日本大震災によってあらわになった国土の空間的・政治的・経済的ヒエラルキーのもとで、具体的な人々の生活空間はどのような再編過程を経ているのだろうか。3.11以前のケア供給体制とそこに組み込まれたジェンダー関係をそのままにして、果たして安定的なケア供給体制の維持と生活空間の再生につながるのか。そのような問題意識から、本研究は保育サービスを軸として福島県川俣町を中心とする複数の自治体をフィールドに、ケア供給体制の安定的維持とジェンダー平等とを同時追求できる「労働」の組織化の可能性を検討してきた。 本年度は第一に、保育労働への評価と具体的な処遇改善や制度改革に与えた影響を見るため、新たにパブリックセクタ―における女性と労働組合運動との関連に着目した。自治労とその傘下の単組(福島県、川俣町、大阪市、臨時非常勤組合等)および保育福祉労働組合の関係者への聞き取り、資料収集を行った。これによりマクロな政策過程における公的保育制度の再編の過程に、ミクロなレベルでのケア供給体制の再編過程を接合し、より立体的に町議会等のフォーマルな意思決定過程、労働組合-現場の保育士―町行政の交渉過程によるインフォーマルな意思決定過程が浮かび上がらせることができた。 第二に、公的保育制度のもとにある保育、企業活動の下にある保育をケア概念、労働概念の双方からアプローチする申請者の分析枠組み、理論の整理について積極的に国内外の研究者のフィードバックを得た特にロンドン大学SOASにて開催された研究会Project for Gender Analysis of Workでの報告をはじめ、歴史的社会的コンテキストにおいて有償労働―無償労働を分析する「関係としての労働概念」を論じてきたイギリスの研究者ミリアム・グラックスマンに本科研費研究の成果である拙論へのコメントを求め、最終年度における執筆、報告作業、補足調査へのヒントを得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的にそって当該研究が課題としたのは以下の三つであった。第一に、児童福祉法の「原則保育時間八時間」「保育に欠ける」という規定が、ローカルなレベルでどのように母親の「労働」を区分し、母親(利用者/保育者)の職業生活と家族生活を統合、構造化したのか。保育士という女性労働者、ケアへの評価を含めて、この過程にあるジェンダー関係を読み解くこと。第二に、中央政府―都道府県―市町村という政治的ヒエラルキーに着目し、自治体行財政の上からの領導による保育政策の方向づけと住民組織、家族による有償/無償、フォーマル/インフォーマルなケア資源動員のプロセスを解明すること。第三に、そこに介在する住民、議会、行政、労働側の意思決定の重層性である。以上の三つについては論文、報告等の成果に結びついており、一定程度の達成を見ている。しかしながら、フィールドとしている川俣町の復旧、復興過程と合わせたケア供給体制の再編の検討という点ではさらにフィールドとの接触を増やし、保育所を利用する保護者、保育士へのインタビューの実施、最新のデータの検討、町議会資料の収集が必要となっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
ナショナルなレベルで政策として推し進められているケア供給体制の再編過程は、ローカルなレベルでのケア供給体制に対して、どのような形で再編を誘発し、その結果、ケアと労働をめぐるジェンダー間・内部の分業をどのように変化させているのか。本研究は具体的な人々の生活圏である自治体を事例とし、3.11以降の生活保障という観点からジェンダーの変容/不平等の再生産を社会サービス供給と労働を軸として検証してきた。 最終年度においては、現地での補足調査、資料収集を織り込みながら、執筆作業を本格化する。前年度、ロンドン大学SOASにて開催された研究会Project for Gender Analysis of Workをはじめ、国内外の研究交流で得られたフィードバックを活かし、世界社会学会(2014.7, 横浜市)での報告に結びつけるほか、海外への発信を視野に入れイギリス、アメリカ社会学会での口頭発表の可能性、あるいはイギリスの学会誌(Work Employment & Society、Gender Work & Organizationを想定)での発表準備にを進める。 さらに本研究で得た知見から、次なる研究課題に向けて二つの点に着目したいと考えている。ひとつは保育制度が子ども・子育て支援新制度へに移行するにあたって保育士、女性労働、ケア、自治体のケア供給体制にどのような影響を与えるのか。保育と労働の結節点の変化に労働側はどのように対抗資するのか。その可能性を考察したい。もう一点は福島第一原発被災地におけるコミュニティの意味である。引き続き、補足インタビューを通じて検討していく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
イギリスへの渡航費が見積もりよりも大幅に下がったため。 次年度の旅費として充当する。
|