2013 Fiscal Year Research-status Report
ケア労働者が経験する職務としての親密性とその管理形態に関する質的研究
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24510372
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
松川 誠一 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (20296239)
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Keywords | 労働過程論 / フェミニスト経済学 / ケア労働 / 専門職性 |
Research Abstract |
2013年度は昨年度に引き続き、ケア職の労働過程を分析するための理論的基盤となる労働過程論に関する批判的サーベイを行った。また、そこから得られた知見を踏まえてケア職が経験しているケアリングとそこでの親密性のあり方を探索するためのインタビュー・ガイドを作成した。インタビュー・ガイドはインタビュー調査の進行とともに改訂されている。インタビュー調査については、高齢者介護を担うホームヘルパーを中心に行っているが、在宅介護という労働形態の特殊性について検討する必要性が生まれたことから、ホームヘルプ職ではないタイプの高齢者介護に従事するケア労働者にもインタビュー調査を行う準備を開始した。 ケア労働者の親密性には純粋な親密性とは言えない部分がある。親密な関係性の構築自体が、ケア労働者の業務内容と見なされ、それゆえに商品化されていると考える余地があるためである。親密な関係性の構築に対する介護職の態度は、賃金の支払われ方にも影響を受けているようである。これは、これまでの労働過程論が賃金体型の問題を等閑視してきたためと思われる。欧米で展開された労働過程論の研究では、賃金体系が職務給となっていることが自明の前提であるためか、賃金体系と労働過程の関係についてはほとんど言及がないように思われる。これはマルクスの形式的包摂と実質的包摂の区別の問題とも関わり、今後の理論的な研究が必要な分野であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イギリスにおける労働過程論争が複雑であったことから、その整理に予想以上の時間がかかってしまった。賃金体系と労働過程の関係性が、本研究の進捗によって新たな理論的課題として浮上した。 ケア職が経験している感情労働とそれに関連する抵抗の主観的評価について、ボルトンの4類型を流用する形でインタビューデータの収集を行っている。ケア職の職業的アイデンティティに関する発言との関連性については分析を始めているものの解釈に手間取っている。 インタビューガイドの設計に手間取ったことや対象者の選定にやや時間がかかったため、インタビュー調査が予定よりもやや遅れている。インタビューの録音データのなかでまだ文字起こしができていない部分があるため、これを早急に実施し、データの本格的な分析が可能な状態になるようにする必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究により、労働過程と賃金体系の関係という問題系が浮上した。一般にケア職の賃金は低水準であり、そこに研究上の関心が集中してきたが、賃金水準の問題だけでなく賃金の支払われ方やそれに対する労働者の主観的評価の問題を労働過程論の統制‐抵抗パラダイムのなかに組み込むことができるかどうかが理論的な研究の目標となる。賃金体系は人事査定の有無やその形態とも密接な関係があり、賃金体系そのものがケア職においてどのように構築されているのかを問題としたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度は、インタビュー調査を行ったものの、その録音データを書き起こす作業が年度内に完了することができなかった部分が存在したため、これにかかる費用が予定額よりも減少した。 また、学会の開催スケジュールが研究の進捗状況に一致しなかったため、学会での報告を取りやめた。このため旅費の支出が減少し、これも2014年度に予算が繰り越される原因のひとつとなっている。 文字起こしが終わっていないインタビュー記録を文字化する作業自体は2014年度に行われるため、2014年度での当該支出の金額が予定よりの増加するが、研究全体での支出状況や支出予定には大きな影響は与えない。
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