2013 Fiscal Year Research-status Report
韓国の多文化主義と結婚移住女性の文化的権利ー政策・運動・主体
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24510373
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
徐 阿貴 お茶の水女子大学, ジェンダー研究センター, 講師(研究機関研究員) (90447566)
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Keywords | 結婚移民 / 移住女性 / 韓国 / 多文化主義 / 社会運動 |
Research Abstract |
初年度に行った理論的枠組みの検討、および予備調査をもとに、本年度は韓国ソウル首都圏において以下の実態調査を行った。 1.結婚移住女性支援策および自助グループ形成に関する調査(1)既存の運動団体との連携状況に関する調査:女性団体による支援の一環として自助グループ形成が推進されており、その目的、具体的な内容、役割分担についてインタビューを実施した。(2)行政機関による移住女性支援に関する調査:仁川広域市の3行政区における多文化家族支援センターを対象にインタビューを実施した。(3)独自の自助グループ形成に関する調査:長期滞在者を核とする自助グループ、および出身地や地域などが異なるグループ間の連携に関し、インタビューとフィールドワークを行った。 2.移住者、とくに女性による芸術分野における自己表象に関する調査:多文化ミュージカルや歌手グループ、ドキュメンタリー/ドラマ等の映像制作、移住女性を対象とする文化企画教育プログラムに関しフィールドワークと情報収集を行った。 3.結婚移住女性の政治参加に関する調査:移住女性の政治家養成プログラムでのフィールドワーク、現役の移住女性議員や秘書官へのインタビューを行い、公的政治への参加過程についてデータを収集した。 以上の調査から、2000年代後半以降の多文化政策のもと、そして結婚移住女性の在韓歴の長期化とあいまって、移住女性による主体的な活動が文化、経済、政治等、幅広い領域で活発化していることが確認できた。主な要因として、移住女性支援の重点が当初の言語教育から、起業を含む就労支援や地域でのリーダーシップ養成、そして自助グループ形成等、公的領域での自律的な活動を推進するものへと移行していることが考えられる。 なお受入社会だけでなく出身社会を射程に入れるため、中国延辺朝鮮族自治州にて女性団体や延辺大学女性研究センターにインタビューを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の理論研究および予備調査をもとに、自助グループに焦点を当てつつ、結婚移住女性による主体形成を多文化政策との関連から検討することにした。そして計画通り平成25年度は、多様な形で展開されている移住女性の自助グループについて実態調査を実施し、インタビューとフィールドワークにより貴重なデータを集めることができた。移住女性による自助グループ形成は90年代から行われているが、資金難や拠点を築きにくいといった問題があった。しかし2000年代後半の多文化政策以降、既存の女性団体や行政機関が自助グループ推進を重視するようになったこと、長期滞在者の中から、移住女性の状況に詳しく支援経験を積み、韓国の機関との関係を築いてきた者のリーダーシップが発揮されやすくなったこと等を背景として、独立的な自助グループが顕在化している。それらが多彩な活動を展開し、韓国社会に対し「多文化」の担い手として積極的に働きかけていることが確認された。研究計画時の予測以上に、移住女性の組織化が実質的な活動をともなって推進され、さらにトランスナショナルな連携も確認できたことは大きな収穫であった。 ところで移住女性の自助グループは生成・展開が早く、方向性を見定めるために引き続き注意を払う必要がある。次年度も引き続きフィールド調査を行い、データ分析を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の計画は以下のとおりである。 1.現地調査では、移住女性の自助グループおよび連携ネットワーク形成についてフォローアップを行う。また平成25年度に着手したもののまだデータが十分とはいえない公的政治への参加について、6月の地方選挙に焦点をあてつつ調査を継続する。ところで現段階ではおもに出身国や地域ごとに自助グループが形成されているが、グループ間の横の連携が形成されつつある。トランスナショナルな連帯は、「先住民」女性と移住女性の間だけでなく、出身地域や母語が異なる移住女性グループの間でも形成されつつある。この動きの中で、今後移住女性の代表性をどのようにして確保していくかが注目される。以上を課題として、引き続き自助グループに焦点をあてつつ、相互関係がある市民団体や行政組織にも目を配りながら、さらにデータを収集する。 2.最終年度にあたる本年度は、データ分析と成果発表により力を注いでゆく。当初の問題意識に立ち返りつつ、次の点について考察を深めていきたい。第1に、移住女性による社会参加および権利拡大の要求が、「多文化」をフレームとしてどのように戦略化されていくのか。そして移住女性による「下からの」多文化主義は、韓国のネイションに関わる認識構造に対しいかなる変化を与えうるのか。状況変化が激しいゆえの困難はあるが、韓国を事例にしつつ、東アジアにおける結婚移住女性を中心とする多文化主義論として、一定の知見を生み出せるよう努力していきたい。
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Research Products
(4 results)