2012 Fiscal Year Research-status Report
フランス「対人サービス(SAP)」政策のジェンダー的分析
Project/Area Number |
24510375
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
新井 美佐子 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 准教授 (20313968)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | フランス |
Research Abstract |
平成24年度は、本務校(名古屋大学)の特別研究期間を取得し、パリ13大学客員研究員としてフランス、パリ市に滞在した。そのため、文献や資料収集、研究者あるいは実務家との交流、コンタクトの機会に恵まれ、とりわけ11月29日~12月1日にパリ市で開催された「対人サービス業展」では、国の機関である対人サービス局や、対人サービス関連団体ならびに企業、さらには諸組合等、対人サービス部門の様々なアクターから直接話を聞いたり資料を得ることができ、非常に有意義であった。それらから得られた主な知見として以下が挙げられる。 ・対人サービス局は、この部門への求職者の誘導や、サービス利用増につながる事業所の評価システムの提示・改善といった諸策を講じている(後者については、2013年2月に新システムを導入)。 ・当部門の従事者の約6割が利用者との個別契約による個人労働者であり、36%が公的もしくは非営利機関の従業員として働いている。企業の社員として従事する者は非常に少ない(3%)。個人労働者の高比率、企業従業者の低比率は、ヨーロッパ諸国との比較においてフランスの特徴といえる。また、従事者のこうしたカテゴリー別に組合が組織されている。 ・参入企業において、フランチャイズ化やグループ化の試みが見られる。 ・上記のような対人サービス局、企業、組合の諸策にもかかわらず、従事者に占める女性(とりわけ中高年層)ならびに非高学歴・無資格者の高比率、低賃金といった、この部門の「特徴」には変化、改善がほとんど見られない。その上で当部門は、従事者数、関連事業所数、利用時間数といった指標において一貫して成長、もしくは安定的な状況を示している。 ・当部門はその性質上、いわゆるヤミ労働が発生しやすいが、フランスでは当部門の雇用のうち3割ほどがそうした「インフォーマル」なものと推計されている。この割合はヨーロッパ諸国の中では低い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記「研究実績の概要」に示したように、フランスでは対人サービス部門における個人従事者の比率が高い。個人従事者は、労働協約が定める最低賃金他を満たす範囲内で、利用者との個別交渉を通じて労働条件が決まるため、個人従事者ならびにその利用者にインタビュー調査をして労働条件の具体的な決定要因を明らかにするのが当初の計画であった。しかし、調査対象たる個人従事者ならびに彼らが提供するサービスの利用者を一定数確保することは非常に難しく、個人従事者が多く加入する組合に協力を打診する等したが、調査を実施するには至らなかった。これについては春休み等の長期休暇を利用して、平成25年度中に行えるよう引き続き準備を進める。なお、これまでの準備段階で調査対象に関し、利用者にとって一時的な需要となる育児や介護ではなく、炊事や掃除といったいわば恒常的な家事に対する代行サービスに絞った方が本研究の意義により沿うと判断した。 また、新たに入手した文献や資料、関連セミナーや研究会への出席、関係者との交流を通じて、交付申請書に平成25、26年度の研究計画として挙げた内容についての準備を予定以上に進めることができた。 要すれば、対象国への長期滞在という貴重な機会になし得ることを優先したため、実施順序は計画と異なってしまったが、研究期間全体(3年間)で捉えれば達成度に大きな問題はないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
主に以下の2点が挙げられる。 1.インタビュー調査の実施(平成24年度未実施) 対象者および方法:フランス、パリ市およびその近郊の、炊事や掃除といった一般的な家事サービス業の従事者ならびにその利用者(両者の属性にも留意する)、同サービス提供企業・団体に対し、半構造化面接。内容:労働条件、特に個人従事者に対しては賃金(料金)の決定要因(サービス内容、時間帯、従事者の技量もしくはその代替指標たる資格の有無・経験年数など)。 なお、新たな問題関心として、労働者に対し労働形態(個人、企業、公的もしくは非営利機関)の選択理由についても詳しく聞き取りをしたい。また利用者に対しても同様のサービス選択理由を問いたい。こうしたインタビュー調査から、対人サービス業、とりわけ家事サービスが低労働条件、「女性職」に甘んじている要因を解明する。 2.国際比較によるフランス対人サービス業の特性の析出 フランスの経済財政産業省のレポート(2011)等によると、ヨーロッパ諸国との比較においてフランスの対人サービス部門は以下のような特色を有している。すなわち、企業の社員として従事する人の比率が極端に低い、インフォーマル(ヤミ)雇用が少ない、(国際比較における)高賃金、税制・社会保障負担に関する手厚い優遇措置の存在など。これら特色が、対人サービス局の創設ならびに積極的な部門介入とどのように関係しているのかを制度比較等によって明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成26年3月にパリ市およびその近郊において、インタビュー調査、文献資料ならびに情報収集を予定。使用予定額計600000円 内訳:交通費(航空運賃+国内移動費)150000円 宿泊費(19100円×12泊)229000円 面接調査通訳および対象者への謝金 200000円 資料整理補助(学生アルバイト)30000円 その他(印刷費等)8000円
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