2013 Fiscal Year Research-status Report
戦後農村女性のサブシステンス活動にみる農本的思想の特質とその構造
Project/Area Number |
24510376
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大石 和男 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (20335300)
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Keywords | サブシステンス / 農本主義 / 農村女性 / 自己決定権 / 自給 |
Research Abstract |
近年の農村女性によるネットワーク作りや起業などのさまざまな活動は、しばしばエンパワーメントなどの用語と共に説明されてきた。だがその一方で、これらの事例では農業の重要性を訴える思想や活動(=農業本位の思想)との結びつきがしばしば見られるにも関わらず、両者の結びつきには従来あまり目を向けられてこなかった。本研究ではこれまでの農村女性研究を一歩押し進め、農業本位の思想にみられる歴史的動態や各種要素が、どのように農村女性たちをとりまく環境として作用してきたのかを明らかにし、その上で農村女性の今日的な活動のもつ特長とその構造を明らかにすることを目的とする。 そこで問題となるのが、農業本位の思想には近現代を通史的に眺める分析フレームが十分に整備されていない点である。そこで本年度は、<自己決定権の確保>という分析視角を設定し、これらが農的な<場>において歴史的にどのように発現してきたかに関する概念構築的な考察を研究のひとつの柱としてきた。 この研究に際しては、アメリカのアグラリアニズム思想、およびフェミニズム研究者のM・ミースらが用いているサブシステンス概念、の2点に着目した。とりわけサブシステンス概念は、先進国・途上国を問わず、農的な領域から社会変革を志す人々の思想と実践を分析するのに有効であり、農業本位の思想とも親和的であることが本研究により解明されている。そしてこれら2つの概念を補助線に用いることで、農業本位の思想を通史的に把握できる方法を導出できたため、現在、これらの成果を学術雑誌に投稿中である。 またフィールドワークについては、調査対象である農村女性ネットワークが結成以来の活動方針を大きく転換することとなった経緯に関する調査を加味しつつ、農村女性の個人調査についても長野県および福岡・熊本県に居住するインフォーマント(計5名)に対して実施し、必要となるデータを入手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度から本年度にかけて、理論研究の面においてサブシステンス論と農本主義との関係を明らかにする作業を行った結果、両者の関連性を概念化することによって農業本位の思想の通史的な分析枠組みを設定できることが明らかとなったため、これらの成果を学会誌(『村落社会研究ジャーナル』)に投稿中である。ただしまだ採択には至っておらず、査読結果を受けて中心となる概念の設定を変更し、農業本位の思想の特長に迫るために、サブシステンス概念に代えて新たな概念を導出することでより説明力を高めた論文として投稿し直しているところである(現在、査読中)。なおこれらの考察により、研究計画で構想した理論構築の内容についてはひとまず達成の目処が立ったと考えている。 またフィールドワークについては、農村女性ネットワークのメンバーの中から、長野県・福岡県・熊本県の計5名に対する個別ライフヒストリーの聞き取り調査を行い、彼女たちが活発な起業や地域振興活動を展開するに至った経緯とそれを可能にした条件についてのデータを得た。またそれらの仮分析により、家庭内における農村女性の決定権の保持状況に関して、その獲得の経緯により大きく2つのパターンに分類できることが示唆されたため、今後はこの分類をもとにさらに多くのインフォーマントに対する調査を実施予定にしている。 以上に加えて、本年度は当該農村女性ネットワークに理事長交代という転機が訪れ、活動方向の総括と見直し、および新たな活動方向の策定という大きな変化が起こったため、東京でなされた同ネットワークの会合についての調査をいくつか組み込み、同ネットワークが活動転換を指向にするに至った経緯や、現状および今後の方向性に関する会員の意識についてのデータ収集も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の理論面に関しては、サブシステンス論と農本主義との関連性という視点に基づいた農業本位の思想の通史的な理解に一定の目処がたったため、今後はそこで導出されたキー概念に基づいて農村女性の諸活動を位置づけ、それらがもつ特長と構造とを農業本位の思想と関連づけながら明らかにする作業を行う。 具体的には実態調査のさらなる充実とそれらから得られたデータの分析および考察が中心となる。調査についてはこれまでに実施したインフォーマントに加え、新たに数名のインフォーマントに対する追加調査を行い、最終的に農村女性ネットワークで活動を行った経験のある10名強の農村女性についてデータを揃えることとする。 その際、インフォーマントの関与した諸活動については、たとえば地域振興活動や農産物の自給運動、農村女性起業、農村女性ネットワークへの参画などへの関与について洗い出しを行うと共に、農村女性がサブシステンスの領域と親和的である構造的な理由についても焦点を当てて、彼女たちがこれまでに携わった社会活動や家庭内外や経営体内外における権限獲得のプロセスなどについても聞き取り調査を行った上で、農村女性のライフステージ上における決定権の入手(時期)が、彼女たちの社会活動に対する意識醸成や、各種社会活動(ネットワーク活動や起業など)への着手にどのような影響を及ぼすのかについて考察を行う。 なお研究の最終年度でもあるため、年度末には研究成果について学会報告を行うとともに、報告書を作成することを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度から本年度にかけて、理論研究の面においてサブシステンス論と農本主義との関係を明らかにする作業を行い、その成果を学会誌に投稿したものの、その査読と論文修正の作業に想定以上の時間を費やすこととなったため、農村女性の実態調査に割くための時間が減少し、予定していた調査数に達していないことが理由として大きい。また調査対象である農村女性ネットワークに大きな変化が見られたため、ネットワークの活動展開やそれに関するメンバーの意識についても新たに調査を行ったため、これらの結果として農村女性の個人的活動に対する調査が後手に回ったことも理由として挙げられる。 研究期間中に調査対象に大きな変化が生じており、それらの動態調査にも時間を割いたため、メンバー個人に対する調査に若干の遅れが生じている。したがって引き続き国内各地に居住する農村女性の個人属性に焦点を当てた実態調査を実施するため、国内旅費(調査旅費および資料収集旅費)に予算の大半を割くものとする。 なお調査件数については、新たに5~8名のインフォーマントへの調査を予定しており、最終的には研究計画にある通り10名強のデータを集めることを目論んでいる。またこれと併せて農業本位の思想や農村女性活動に関した資料収集のための旅費を見込んでおり、また年度末には学会報告を行うための旅費も設定している。その他の支出としては研究支援費用として聞き取りデータの文字起こし、および研究遂行状必要となる若干の文房具などの物品費を計上しており、また報告書の作成および印刷のための費用も組み込んである。
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